3次元紀行

手ぶらで地球にやって来ました。生きていくのはたいへん。そんな日々を標本にしてみました。

訪問者たち

2008-10-28 11:33:17 | ほら、ホラーだよ
     坂出駅ビル内 亀城屋の野菜天麩羅讃岐うどん

ほら、ホラーだよpart.30

 ある日の夕暮れ、学校から帰る途中の道端でアマノジャクを見た。
 アマノジャクはマサルのマンションを見上げていた。どうしてここにいるんだろうとは思ったが、もともとアマノジャクがどこにいようがぼくには関係ないので、声などかけるつもりはなかった。が、見ていると律儀に非常階段を昇りはじめたではないか。アマノジャクなら飛んでもいけるし、ワープだってできるはずだ。それなのに階段なんか昇ったりして・・・何やってるのかな。階段を昇ってみたかったのかな?
 ぼくがマサルのマンションを見上げていたら、一緒に歩いていたヤッチンが不思議そうにきいた。
 「ヨッチン、何見てるの?」
 「えっ?」
ヨッチンってぼくのこと。ヨシヒコだから。
 「いや、別に。マサルのうちがここだなあと思ってさ」
 「そういえばマサルは今日も掃除当番さぼって帰ったね」
 「うん」
ぼくたちは一緒に立ち止まってマサルのマンションを見上げた。アマノジャクはマサルのうちのある階まで昇ると、非常階段からそれて廊下を歩き始めた。ひょっとするとマサルのうちに行くのかな?まあいいや。行ったところで、マサルには見えない。あそこのおばさんにも多分見えないだろう。第一、あそこにいったってアマノジャクがおもしろがるようなことは起きないんじゃないかな。あそこのおばさんはいつも言いたいこと言いたい放題らしいから。
 ぼくとヤッチンはマサルのマンションを見上げるのをやめて、再び歩き出した。
 「本当にヤッチンは中学受験しないの?成績悪くないのに」
 「中学受験なんてできないんだ。うちは五人兄妹だから、私立に行く余裕なんてないんだ。塾にもいけない。進学したいなら全部公立って言われている」
 「でも長男なんでしょう?長男はいろいろやってもらえるんじゃないの?」
 「長男だからがんばれって。あとにたくさんひかえているから、行けるところまで公立でいってくれってさ。ぼくが大きくなって給料取るようになったら、ひょっとしたら一番末の妹が私立に行けるようになるかもしれないけどね。それより、ヨッチンは一人っ子でしょう?中学受験しなさいって言われない?」
 「ぼくがもっと成績良かったらママはそう言ったかもしれない」
 「じゃあ、これから成績あがったら受験する可能性もあるってこと?」
 「無理だよ。今からじゃあ」
 「そんなことないよ。内申書いらない学校もあるから、2月の受験当日までに勉強すればいいんじゃない」
 「ぼくは行きたくない。ヤッチンと一緒に竹中に行きたい」
 「本当?高校まで一緒に行く?」
 「一緒に行きたいけど・・・高校は無理かな。ヤッチンは多分偏差値の高い高校にいくでしょう?ぼくはそんな高校にはいけないもの」
 ぼくはしゃべりながらヤッチンと高校まで一緒にいけたらなあ、って考えていた。ゲンガクにたのむと、ひょっとすると行けるかな?という考えが頭をかすめた。そしてふと振り返った。
振り返ってみると、思いがけないほどの近さでゲンガクが後にいた。
「おれに頼め。望みをかなえてやる」
ゲンガクはそうささやいた。
ぼくが振り返ったのでヤッチンも一緒になって振り返り、いぶかしげに聞いた。
「どうかしたの?」
「いや、誰かが後にいるみたいな気がして」
ぼくは振り返ったまま立ち止まり、ためしにそう言って見た。
「誰もいないよ。気のせいだね」
ヤッチンは言った。ヤッチンにはやっぱりゲンガクは見えないんだ。
ゲンガクはささやき続ける。
「だからさあ、おれにたのんでもお前らの友情は変わらない。むしろ、おまえらの友情を守るためにも、おれは必要だろう?」
“友情”という言葉を言うとき、ゲンガクはかすかに身震いした。まるでその言葉が嫌いとでもいうようだった。
ぼくはそのとき、ゲンガクの後ろの方にアマノジャクが歩いているのを見かけた。アマノジャクはまるでこちらのほうを見ていないかのように歩いていて、すぐそこの角を左に曲がって見えなくなった。
「え?」
ゲンガクもぼくの様子に気付いて後を振り返った。
「あれ?あいつ・・・」
ゲンガクがアマノジャクに気をとられている間、ぼくらは歩き出した。
最近、ぼくらは放課後、ぼくんちで勉強するようになっていた。はじめ、まちかど図書館で勉強していたんだけど、ママが「おやつを出してあげるからうちでやりなさいよ」と言ったのでぼくんちでやるようになった。ママは「兄弟ができたみたい」ってすごくよろこんでいるんだ。いっしょに勉強していることも気に入ってるらしい。
ぼくたちがいつものとおり宿題を終えて、階段を降り、「お邪魔しました」とヨッチンが声をかけて玄関まで出ると、玄関のたたきに見慣れない女性用の靴があった。
「あれ、ママんとこにお客さんかな?」
 「じゃあね、またあしたね」
 「うん、またあしたね」
 ヤッチンが帰った後、応接室に行って見ると、なんと、マサルのママが来ていた。
 「あーら、ヨシヒコちゃん、お邪魔してるわ。最近成績いいそうじゃないの。この前100点取ったんですって?すごいわねえ」
 なんかテンションが高い。何しに来たんだこのおばさん? とまどってぼそっとつっ立っていたらすかさずママから声がとんだ。
「ヨシヒコ、ご挨拶は?」
仕方なく、小さい声で挨拶した 。
「コンニチワ」
「あーら、ちゃんと御挨拶できて、えらいわね」
 コンニチワのどこらへんがエラいんだ?幼稚園児じゃあるまいしと思いながらぼくはドアを閉めて出て行こうとしたら、マサルのママがあわてたように呼び止めた。そして、ぼくに聞くとも、ママに聞くともつかない様子で疑問質問を連発しはじめた。
 「塾には行ってらっしゃらないんですって?自分で勉強していらっしゃるの?いつもどんな勉強をしていらっしゃるの?進学ゼミかなんかとっているとか?とっていない・・・。ひょっとして家庭教師かなんかたのんでいらっしゃるとか?たのんでいらっしゃらない・・・。あらそう。
ねえ、なにかいい勉強法があるなら教えていただきたいわあ・・・。マサルは塾にいかせているんだけれど、なかなか成績がのびないんですのよ。まあ、マサルの場合はある程度上位の成績なんで、ヨシヒコちゃんみたいに最下位からグーンと成績がアップみたいな目覚しい伸びはもともと期待できないんですけどね・・・あら、いえ、ごめんあそばせ、ついつい本当のことを・・・いえいえ・・・あたくしいったい何を言ってるのかしら、おほほほ・・・、なにしろウチは有名進学校を狙っておりますでしょう?もうひとつ偏差値が伸びないと安心できませんのよ。ヨシヒコちゃんの成績が急にあがったのにはなにか秘訣があるんじゃないかと思いましてね、それを是非教えて頂きたいんですわ」
ああそうか。マサルのママはぼくが100点なんかとったんで、なにか特別な勉強をしているのかと思って様子を探りにきたんだな。もちろん特別な勉強なんて何もしないで100点とったんだから、ママに聞いてもよくわからなかったに違いない。それで、ぼくから聞き出そうとしているんだ。
なんて答えるかな?
「そういえばママも聞きたいわ。どんな勉強をしているの?」
心なしか、ママはちょっと得意そうだった。ママはいつも「お若いですね」とか、「おきれいですね」とかいわれると「まあ、お上手おっしゃって」などといって、うれしそうにするんだけど、そんなときみたいに機嫌がよかった。ママを失望させたくないな。そう思ったらひらめいたものがあった。
「ぼく早生まれなんです。いままで、みんなより成長が1年遅れていたんだけど、歳をとったので差が埋まってきたんじゃないですか」
マサルのママがさっと青ざめるのがわかった。マサルは4月生まれなんだ。
ぼくはママたちをのこして二階にあがった。
部屋に入ると、いつものように座敷オヤジやオキビキやアマノジャクがたむろしていた。ぼくは珍しくアマノジャクに話しかけた。
「今日、マサルのうちに行ったでしょう?それでマサルのママになにかした?」
ところがアマノジャクは目をパチクリして言った。
「行ってませんよ。ずっとここにいましたから。ねえ」
アマノジャクはオキビキに同意を求めた。
「ええ、行ってませんですねえ。ずっとここにいましたねえ。ええ」
なんだか最近、アマノジャクとオキビキは似てきたなと思いつつ、さらに聞いた。
「でも、ぼく見たよ。アマノジャクがマサルんちのマンションの非常階段あがっていくところ」
「ええ?」
アマノジャクとオキビキは互いに顔を見合わせた。
「あれかな?」
「あれがきたかな?」
相談がまとまったらしく、オキビキから発表があった。
「そりゃ、多分、屁ですね」
「へっ?」


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3 コメント

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ともりん (失礼します。。)
2008-10-29 20:17:13
家庭教師のHPを始めました。
宜しかったらどうぞ!
関係ないんやけど… (bamaman)
2008-10-29 22:25:56
写真の天婦羅、油痛んでそうなにゃけど???
胆嚢は 丈夫でやすかぁ…

小生は 重油とか軽油とか グリセリンとか その手の油は ちょいと苦手だすが、大概の油は 大丈夫でやす。

特にぃ【からすみ油はぁ♪】
天麩羅 (catmouse)
2008-10-30 20:50:29
大丈夫だったよ。美味しかったよ。野菜天麩羅。
ただ、出汁が讃岐うどんらしくなかった。

ミミズク叔父さんのうちのすぐ側に朝日製麺って、行列のできる讃岐うどん屋さんがあるんだけれど、100人くらい並んでいたので、めげて駅ビル内のうどん屋さんに入りました。

はなまるうどんとどっちがおいしいかな。

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