京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

『ドレスを着た男子』

2013年12月05日 | KIMURAの読書ノート
2013年12月その1
『ドレスを着た男子』(児童・一般書)福音館書店
デイビッド・ウォリアムズ 作 クェンティン・ブレイク 画 鹿田昌美 訳 2012年

2年前にお母さんが家を出て、現在兄ジョンとお父さんの3人で暮らすサッカー少年のデニス。お父さんはそれ以来お母さんの話をすることを禁じたばかりか、写真をかき集めて焚き火にしてしまう。それどころか、ハグも禁止。そんなある日デニスは雑貨店で売ってあるファッション誌『ヴォーグ』にお母さんが着ていたドレスに似ているページを発見。それを思わず購入してしまう。しかし、お父さんに見つかり「こんなものを読むのは女だ」没収。打ちひしがれているデニスの前に現れたのが学校一美女のリサ。そしてリサとともにファッションの世界にデニスは没頭していく。

と書けば、デニスは実はマイノリティーでという風に話は続くように感じるが、この作品は全くそのような物語ではない。あくまでも洋服が好きで、それは男の子用でも女の子用でも全く構わず自分に似合っていて、そして「着てみたい」というその当たり前の欲求に気がついたというだけのものである。彼の台詞「不公平だよ、女の子ばっかり、いいものを独占するなんて!」(p96)がそれを物語る。それに対してリサが応えたのは「そのルールは、ここでは当てはまらないわ。デニス、きみは、なりたい自分になれるのよ。きみがのぞむままにね!」(p97)。

それと同時にこの物語は一見デニスの物語であるよう思わせながら、実は妻に逃げられた夫の弱さを露呈している物語のようにも思える。あくまでも、デニスのドレス事件はそれをカモフラージュするための、伏線のようにも思える。なぜならデニスとリサが巻き起こすその後のドタバタ劇でお父さんがデニスを「自慢の息子」と抱きしめる場面。あまりも唐突でそこまでのお父さんの心の変化過程が描写されていないのである。となると、ただ単に意地を張っていてなにかしらのきっかけがただ欲しかったというだけで、デニスの物語を紡ぎだしたとも考えられる。

作者はイギリスで活躍するコメディアン。英国アカディミー賞をはじめ数々の賞を受賞したBBCのコメディ番組『リトル・ブリテン』を手がけた人と言えば、海外の作品に明るい人は分かりやすいのではないだろうか。コメディアンらしい軽快なテンポで動いていく言葉は、あたかもコメディー映画を観ているようである。あくまでも想像の域を出ないが、作者はこの作品を執筆するにあたり、映画化まで目論んでいたのではないだろうか。きらびやかな『ヴォーグ』の世界。砂埃になってボールを蹴るサッカーの場面。デニスとリサが洋服をまとう一瞬。どれもこれもが映像として脳裏に移りこむのである。私自身イギリスの俳優には暗いのでそれ以上の追求はできないが、おそらくイギリスの俳優事情に詳しい人ならすぐにそのキャスティングまで設定できるであろう。本作品をきっかけに児童文学作家としても活躍しているようであり、その後の作品の邦訳を期待している。
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