『実録!あるこーる白書』
西原理恵子 吾妻ひでお 著 徳間書店 2013年
戦場カメラマンでアルコール依存症、癌患者だった夫・鴨志田穣を介護し、看取った漫画家の西原理恵子さん。アルコール依存症の当事者で失踪までしてしまった同じく吾妻ひでおさん。そしてオブサーバーとしてやはりアルコール依存症の当事者で内閣府「アルコール健康障害対策関係者会議」の委員でもある月乃光司さん、3人による鼎談集である。
当事者の話として鴨志田穣は自らの体験を本(『酔いがさめたら、うちに帰ろう』講談社 など)に残しているが、本書で西原さんから語られる状況を知ると、当事者が自分のことをどれだけオブラードに包んで語っているかがよく分かる。それは吾妻ひでおさんの『失踪日記』(イースト・プレス)でも同じである。アルコール依存症は当事者も辛いがその周囲にいる家族がどれほど苦しみ、憎しみをもつのかというのが本書でよく分かる。何度も鼎談の中で彼女は夫に対して「死んでくれ」と願ったということを口にしている。またそれと同時に作品ではオブラードに包んで自らの体験を描いている吾妻さんであるが、やはりここで語られていることは作品以上に壮絶である。作品と自らの経験にはどうしても埋められない溝というのがあることを知ることにもなる。
それは3人が本書をアルコール依存症に対する啓蒙本として位置付けているからである。そこを明確にしていないとアルコール依存症というものが、きちんとした形で世に知られることがなく、「意志が弱い」などという間違った精神論になってしまうと本書でも語っている。精神論で語ってしまうと病気であるのに、治療を受けることなくして、家族が崩壊したり、当事者に至っては死んでしまう人も多いという。つまりこれがきちんとした病気であるという知識を持っていれば早い段階で対処でき、回復も早くなるというわけである。しかしながら、これは当事者だけが知っていてもどうしようもない病気であることも伝えている。アルコール依存症は「否認の病」とも言われ、まず当事者周囲の人間関係が壊れていくのだが、その時点ではもう本人は分からなくなっており、自身が病に罹っているということを認められなくなっているという。こうしてはっきりと断言しているのも、3人が(西原さんの場合、その夫になるが)周囲に支えられながらきちんと治療し、社会復帰できたからこその部分が大きい。その「支え」に対しても、一般的にイメージする「支え」でないことが本書で伝えられている。おそらく、アルコール依存症というものが、この1冊を読めば、これまでイメージしているものと大きく異なっていることも分かってくる。それだけ、この病気は言葉だけが先行され、正しい情報として世間に広がっていないということである。
西原さんは語っている。
「飲酒で壊れるのも、男に依存するのも、つまり無知と貧困の連鎖だと思います」(p218)
本書は辛辣な表現と汚い言葉がたびたび出てくる。しかし、それがこの病気の全てを物語っている。当事者の、そして当事者の家族の生の声をしっかりと受け止め、アルコール依存症という病気を正しい知識を身につけたい。それが出来る1冊である。(文責 木村綾子)
西原理恵子 吾妻ひでお 著 徳間書店 2013年
戦場カメラマンでアルコール依存症、癌患者だった夫・鴨志田穣を介護し、看取った漫画家の西原理恵子さん。アルコール依存症の当事者で失踪までしてしまった同じく吾妻ひでおさん。そしてオブサーバーとしてやはりアルコール依存症の当事者で内閣府「アルコール健康障害対策関係者会議」の委員でもある月乃光司さん、3人による鼎談集である。
当事者の話として鴨志田穣は自らの体験を本(『酔いがさめたら、うちに帰ろう』講談社 など)に残しているが、本書で西原さんから語られる状況を知ると、当事者が自分のことをどれだけオブラードに包んで語っているかがよく分かる。それは吾妻ひでおさんの『失踪日記』(イースト・プレス)でも同じである。アルコール依存症は当事者も辛いがその周囲にいる家族がどれほど苦しみ、憎しみをもつのかというのが本書でよく分かる。何度も鼎談の中で彼女は夫に対して「死んでくれ」と願ったということを口にしている。またそれと同時に作品ではオブラードに包んで自らの体験を描いている吾妻さんであるが、やはりここで語られていることは作品以上に壮絶である。作品と自らの経験にはどうしても埋められない溝というのがあることを知ることにもなる。
それは3人が本書をアルコール依存症に対する啓蒙本として位置付けているからである。そこを明確にしていないとアルコール依存症というものが、きちんとした形で世に知られることがなく、「意志が弱い」などという間違った精神論になってしまうと本書でも語っている。精神論で語ってしまうと病気であるのに、治療を受けることなくして、家族が崩壊したり、当事者に至っては死んでしまう人も多いという。つまりこれがきちんとした病気であるという知識を持っていれば早い段階で対処でき、回復も早くなるというわけである。しかしながら、これは当事者だけが知っていてもどうしようもない病気であることも伝えている。アルコール依存症は「否認の病」とも言われ、まず当事者周囲の人間関係が壊れていくのだが、その時点ではもう本人は分からなくなっており、自身が病に罹っているということを認められなくなっているという。こうしてはっきりと断言しているのも、3人が(西原さんの場合、その夫になるが)周囲に支えられながらきちんと治療し、社会復帰できたからこその部分が大きい。その「支え」に対しても、一般的にイメージする「支え」でないことが本書で伝えられている。おそらく、アルコール依存症というものが、この1冊を読めば、これまでイメージしているものと大きく異なっていることも分かってくる。それだけ、この病気は言葉だけが先行され、正しい情報として世間に広がっていないということである。
西原さんは語っている。
「飲酒で壊れるのも、男に依存するのも、つまり無知と貧困の連鎖だと思います」(p218)
本書は辛辣な表現と汚い言葉がたびたび出てくる。しかし、それがこの病気の全てを物語っている。当事者の、そして当事者の家族の生の声をしっかりと受け止め、アルコール依存症という病気を正しい知識を身につけたい。それが出来る1冊である。(文責 木村綾子)