京都で、着物暮らし 

京の街には着物姿が増えています。実に奥が深く、教えられることがいっぱい。着物とその周辺について綴ります。

『クラスメイツ』

2014年10月02日 | KIMURAの読書ノート
『クラスメイツ』前期・後期
森絵都 著 偕成社 2014年5月

帰ってきた!YA文学の世界に森絵都が!
未だに小学生から高校生までを虜にしている『カラフル』(理論社 1998年)。2000年に発表された『DIVE!!』(講談社 全3巻)では中心となる少年3人を巡って読者層の年齢を一気に引き上げたことは、ファンの中では有名な話である。そして、「高飛び込み」というマイナーな競技に光を当て注目されたのもこの作品であった。デビューしてからというもの、児童文学の賞という賞を総なめにしたことは、誰もが納得するほどの実力であったと私は思っている。そして、YA文学の牽引者として突っ走ってくれるものと信じていた。

しかし、気が付けば拠点を一般文芸書に移行し作品を発表。そして2006年『風に舞い上がるビニールシート』(文藝春秋)で直木賞を受賞したのは、ご存じのとおりである。しかし、正直私はがっかりしていた。かつての少年少女を描いていた時のように勢いがなく、肌に刺さるキリキリ感もなければ、体の中心から浮かび上がるフアフア感もない。かと言って、大人の感情がピタッと読み手に沿うほどの一体感もなければ、共感性も覚えない。おそらく作者が最初から一般文芸の世界にいたのなら、秀作だったのだと思う。いや、私が彼女の描く少年少女を知らなかったらピカ一の作品だったのだろう。しかし、あまりにも「森絵都」が表現する思春期の子どもたちの世界の濃厚さを知りすぎてしまった私には、彼女の大人の世界はあまりにも薄味すぎたのだ。

さて、本作品。北見第2中学校1年A組24人のエピソードを一人1編、1年を通し2冊に分けて描いている。入学式の当日、とにかく最初の友達が大事と後ろの席の子に声をかけ、自分専用の友達を確保する千鶴。その千鶴と友達になったものの、グループが3人となったために、自分がのけ者にされるのではないかと心配するしほりん。いじめられた訳でもないのに、自分の居場所を見いだせず不登校となっている田町。中学受験時に高熱でやむ得ず公立に通うことになったことを延々と語る母親を横目に担任の胸元について妄想する吉田くん。クラスの中で、いちばんずるがしこく、クラスを引っ掻き回すイタルを唯一の友達に持つノムさんは、このままイタルに振り回されていいのかと「イタル改造計画」を企てる。こうして時間は春から夏、秋、冬に流れながら、24人の心の内がそれぞれ交錯し、1年A組が何となくゆるくまとまっていく物語は、思春期の子どもたちのイタさをひしひと感じつつも、懐かしい気持ちにさせてくれる。

「あーあ。イタルって、ほんとバカ」
「マジ、ウケる。イタナラすぎ」(前期・p80)

「マジすか。ゆうかただちにひっくりかえすど!」
「もうおそいじゃん」
「ネバーギブアップ!」(前期・p96)

「スネヤマのタマキンを蹴り上げた」(後期・p121)

「なんかあった?」
「挫折」
「え」
「ぼく、いま、ヴァイオリンにつまずいてんの」
「あー」(後期・p153)

今時の子どもたちの会話をリアルに短縮形で綴りながらも、決して軽くなく、子どもたちが語ろうとする必死さをつぶさに感じ取らせてくれるのが、作者の真骨頂。どこを切り取っても、うんうんと頷き、自分が里緒であり、日奈子であり、近藤であることを年齢を忘れて同一化させてくれる。これを機会に再びYA文学の道を突き進んで欲しい。いや、もう一般文芸には戻らないで欲しい!
                            筆者  木村綾子
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