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習近平「特別接待」で狙うトランプとの“蜜月”

2017年11月09日 15時54分06秒 | 国際・社会
政権二期目、「特色ある大国外交」喧伝に注力

 習近平(シー・ジンピン)政権二期目がスタートし、その外交の行方が注目されるところだ。今月、その最初の大舞台がある。トランプの訪中である。習近平が長期独裁体制を確立するか否かは、かなり国際環境の影響を受ける。政権一期目の習近平外交は最初の方は強引さと荒っぽさから、国際社会の批判も目立ったが、後半になると反トランプの国際世論が奇しくも習近平政権を相対的にポジティブに評価してしまうという現象も起きた。はっきりいって、これまでトランプを一番“利用”してきたのは習近平だろう。では今後どうなるのだろうか。

日本の歓待ぶりを中国メディアが詳報

 トランプは5日から12日にわたるアジア5カ国歴訪の旅に出た。最初の訪問先は日本。日本での歓待ぶりは中国でもかなり詳細に報じられた。米国メディアの方が、むしろ関心が薄いくらいだ。欧米メディアにしてみれば、今回のトランプのアジア歴訪の山場は、習近平、プーチンとの会談だと見ているのだろう。

 だが中国メディアは意外に、トランプ訪日を細かなところまで報道している。2020年東京五輪のゴルフ競技会場となる霞が関CCで世界ランキング4位のプロゴルファー、松山英樹が高額賞金の米ネバダ州の試合を辞退してまで、この“ゴルフ外交”に力を貸し、トランプにレッスンをつけたことなどは、純粋にゴルフファンの羨望をそそる記事として書かれている。ちなみに2016年の中国上海・佘山国際GCで優勝した松山は中国でも人気がある。

 このほか、天皇陛下・皇后陛下との会見、トランプに先立って訪日したイヴァンカへの接待ぶり、どこでどのようなメニューの宴席が設けられたか、なども含めて、日本の徹底した“おもてなし”ぶりを報じていた。こうした報道の目的のひとつは、おそらくは習近平のトランプ接待と比較するつもりであろうと思われる。つまり習近平も安倍に負けないトランプ接待が重要だと考えている。これが習近平政権二期目の外交デビューであり、政治活動報告で語った“世界の舞台の中央に近づく中国”の姿を見せつけ、中国の特色ある大国外交というものを、喧伝する場だからだ。

 今年4月に習近平が訪米し、今回、トランプが初訪中した。これをもって習近平―トランプ時代の全面的突入だと、中国メディアは喧伝している。4月の習近平訪米のときは、朝鮮半島について「歴史的に中国の一部であった」という中国の視点による半島史観を習近平が語り、トランプは“説得”されて、対北朝鮮外交と対中経済政策の方向修正を行ったのだった。

 こうした経験からトランプは比較的、人の話に流されやすい、と中国が考えているとしても不思議ではない。だから、子犬のようにトランプにまとわりつき、トランプにずいぶん気に入られている様子の安倍晋三が気になるのではないか。日本メディアによれば、なにやら対中外交はじめ国際情勢について安倍視点でいろいろ“入れ知恵”しているようでもある。


故宮の建福宮で宴席、三希堂で茶話会

 環球時報(人民日報系タブロイド紙)は「日本メディアによれば、安倍は自らの執政と外交経験をトランプに教授するつもりでいる」「安倍とトランプはすでにファーストネームで呼び合う信頼関係を築き5回直接会い、16回電話でやりとりしている」「マティス訪中後、トランプは安倍に意見を求めるなど、外交問題についてしばしば安倍の意見を参考にするようになっている」「フィリピンのドゥテルテ大統領と会談すべきか否かも、安倍に意見を求めた」などと、トランプの訪日は安倍に“外交授業”を受けるのが目的ではないか?という日本メディアの報道を引用する形で紹介している。

 独立系華字メディア・多維ニュースの記事にはこうある。

 「日本は強大な経済実力をもっているが、国際的地位はずっと米国との関係の影響に頼っており、長期にわたって米国にとってのアジアの最重要戦略の基石であるというところに自分の居場所を見出している。しかし、トランプはアジアリバランス戦略をやめると言い出しており、そうなると、日本としては身の振り方をどうしたらいいのか? これは安倍にとって悩ましい問題だ。しかも、問題は、トランプが中国に対抗する意思がほとんどないことだ。南シナ海、台湾の問題において、トランプはすでに“白旗”をあげた。大統領首席補佐官のジョン・ケリーは『中国は強国であるが、それが我々の敵になるという理由にはならない』『米国人が自分の政治体制をいたく気に入っていても、米国が外国の政権を論断することはない』『中国政府のシステムは中国人民に奉仕するのに適している』とも語っている。トランプが北京の敏感な問題を刺激せず、習近平と何度も会って、良好な友誼関係を築いていることは周知の事実。いかに米国の反中姿勢が失われたときの地勢的な均衡の崩れを解決するか、中日の紛争において米国が日本の要請を履行しない可能性にどのように対応するか? 中米関係の好転は反中の先鋒に自らの居場所を見出していた日本にしてみれば凶報だ。
 …駐米中国大使の崔天凱はこう指摘する。『北京はトランプの訪中に対し特別にアレンジをしている。まず、故宮の建福宮で宴席を用意し、三希堂で茶話会を行う。紫禁城において建福宮と内廷の核心であり、特別な休憩遊戯に使われる瀛台。三希堂は乾隆帝の書斎であった。オバマ前大統領の訪中時の対応を超越する待遇である。…』」

 トランプの訪日は実務訪問で、訪中は国事訪問なので、単純に比較もできないのだが、習近平がトランプ接待の格をオバマのときよりも大きく引き上げたのは、トランプに接待競争で安倍の上であることを印象付けたいという意図もありそうだ。要するに、トランプの外交、特に対アジア外交の行方は、今後の安倍と習近平双方からの働きかけ次第で変わりうる、と中国は見ていて、その考えが日中の接待合戦で、どちらがトランプの信任を得るか、どちらの意見により耳を傾けるかという、まるで太客を取り合うホステスのような妙な競争に反映されている。


習近平が寄り添い、G2時代へ

 トランプと安倍は、報道を見る限りかなり親密そうだが、トランプと習近平の関係も要注意である。第19回党大会で習近平政権二期目がスタートした日、トランプは習近平に電話で祝辞を述べた。トランプ自身がツイッターで「(党規約に自分の名前を入れるという)非凡な飛躍に祝辞を伝えた」「北朝鮮の核問題と貿易問題の二つについて討論したよ」と語り、またフォックスビジネスニュースにおいて習近平のことを「すごい奴だ」「(党規約に名前入りの指導思想を書き入れたことについて)中国に過去に見なかった、崇高な地位にまでのし上がった」「あるものは彼(習近平)を国王と呼ぶが、彼は主席、プレジデントだ」と語っている。

 トランプの元主席戦略官であった反中論者であったスティーブン・バノンが9月に香港で行われた講演でトランプが、習近平を「世界のどの首脳よりも尊敬している」「米中の絆は第二次大戦時以来の歴史がある」とトランプの習近平への信頼ぶりを語っていたことと合わせると、トランプは習近平に個人的にたいそうほれ込んでいる、という言い方をしてもいいかもしれない。

 フランスのAFPが中国の知識人のこんなコメントを引用している。「中国政府はトランプをどのように騙せばいいかわかっている。トランプは政治素人だ。しかもこの十カ月、国内の権力闘争で苛め抜かれている」。そんなトランプに、国王ばりに国内で強烈な権力をもつ習近平が寄り添う姿こそ、米中G2時代の到来の象徴、というわけだ。

 このトランプ訪中時の最重要テーマは言わずもがな北朝鮮の核問題と米中貿易問題。トランプが習近平に、北朝鮮制裁にもっと積極的に参加するようにと圧力をかけ、それをいやいやながら中国が応じるというのがこれまでのこの問題をめぐる両国の関係性だったが、これは変わるかもしれない。というのも、外交をディールと考えると、手の内のカードは習近平の方がよい、という見立てもあるからだ。


「ハンソル暗殺」工作員逮捕の影響は

 まず4月に二人が最初に会ったときと比べると、習近平は無事に任期二期目に入り、その権力基盤はさらに固まってきた印象の一報で、トランプはロシアゲート疑惑はじめ様々な内政上の問題を抱え、未だ国務省が機能していないまま、側近の軍人たちによる外交に頼らざるを得ない状況だ。また、北朝鮮に対して軍事行動を起こすにしろ、避けるにしろ、その対北朝鮮政策の成否の鍵を握っているのは習近平だと、トランプ自身が思っている。

 一方で、習近平の北朝鮮に対する忍耐はそろそろ切れるころだと思われていたタイミングで、金正恩が第19回党大会で習近平政権二期目がスタートしたことに対して祝辞を送り、習近平もそれに返事して双方の友誼が続くことを願った。ほぼまる一年、習近平に対して無視の姿勢を決め込んできた金正恩の態度の軟化はひょっとすると、10月に金正男の息子のハンソルを暗殺するために中国に潜伏していた北朝鮮工作員グループが中国公安当局によって逮捕された(中央日報30日付)ことと関係しているかもしれない。ちなみに、ハンソル暗殺目的の北朝鮮工作員が北京で逮捕されたならば、ハンソルの身柄安全を確保しているのは中国である可能性もある。少なくとも、そういう情報が一部で流れている。だとすれば、これも重要なカードになるだろう。北朝鮮問題解決の主導権を中国が再び握る可能性が出てきた。

 もう一つのテーマは、米国の対中貿易赤字だが、これは習近平の北朝鮮問題に対する協力度合いに合わせてバーターで駆け引きされるとみられるが、おそらく一定の解決を見ると思われる。中国にすれば、実のところ過度の貿易黒字は経済上のマイナスでもある。あたかも、トランプに対して大きく譲歩してみせるが、その実、貿易均衡是正は中国の経済戦略からはそう離れていない。すでに消費財への関税引き下げも打ち出し、輸入融資拡大を奨励している。


おもてなしの笑顔の下で

 習近平政権一期目の対米外交は、オバマに対する個人的な好悪が外交にあからさまに反映されていたり、準備不足であったりと、失点が目立ったが、習近平自身がトランプに対しては話が通じる相手とみているようだ。習近平もごますりに弱いが、トランプもあからさまなおべっかを嫌がらない。日本にとって気になるのは、トランプも習近平の性格とよく似ていて、本音ではより強者を好む、というのであれば、日中のトランプの取り合いは、一見人の好さそうに見える安倍よりも、強面の習近平の方が有利かもしれない。

 もっとも、両者が我こそは最強最大の国家という自意識を持ち続けていれば、一時的に米中融和が演出されても、最終的には米中対立の新冷戦構造に向かうだろう。日本は、だからこそ“反中の先鋒”としての立場で米国との同盟強化にいそしむわけである。中国としても、米中冷戦時代というのは形をかえたG2時代という意味で、むしろ望んでいるフシがある。双方が牽制しあって長期安定時代を迎えられるという意味で。

 日本が突然、米国からはしごを外される、という可能性は常識的にいって小さいが、ただ、外交に友情など通用しないというのは常識で、おもてなし外交の笑顔の下で、日本が米国の影響力に頼らない国際的地位の確立を模索していくことの重要さはいわずもがなだろう。