阿部ブログ

日々思うこと

『原爆帝国主義』におけるトリウム

2010年12月25日 | 日記
1953年4月20日に翻訳刊行された『原爆帝国主義』の第4部 ウラニウム十字軍 12章ウラニウム・ラッシュの第二節に「インピリアル・ケミカルによるトリウム独占」と題され以下のように記述されている。

世界のウラニウム資源の支配をもとめる基本的な動きについて述べるまえに、われわれは、核燃料としての可能性をもつ、しかしながら現在のアメリカの原爆産業においては役割を果たしていない一元素について述べておこう。
分裂性ウラニウム・アイソトープ(U233)は、トリウムを原子炉の中で濃縮ウラニウムと共に「燃焼」させると得られる。しかしながら、最近になって、アメリカ国内にあたらしいトリウム鉱床を開発するための調査がはじめられてはいるが、AECは、その独自の立場から、この元素の当面の当面の重要性を無視し、この鉱石の貯蔵のためになんら努力していない。
このようにトリウムにたいする関心が欠けているのは、おそらく、一つには、トリウムがウラニウムよりも天然に豊富であるためであり、また一つには、この鉱物の主要な源泉がインピリアル・ケミカル・インダストリーズに支配されているためである。トリウムの主要な原料は、インドおよびブラジルの海岸に見られるモナザイト砂である。1917年以来アメリカでは、トリウム鉱石はまったく採掘されていない。ウェスティングハウス、ベンチャーズの子会社メタル・ハイブライズで生産されているトリウム合金は、モナザイトの輸入に依存している。そしてトリウムの主要原料の採掘は中断されている。

(訳注)
ここ数年間のうちにトリウムの国際価格は100倍にはねあがったので、最近の情報によると、インド天然資源相は、アメリカのAECと協定をむすび、インドがトランバンコールのトリウムをアメリカに輸出するかわりに、アメリカはインドにたいして、一般には公表されていない原子力の非機密資料を提供することになった。なお、アメリカの援助でトリウム開発の新工場を建設する秘密交渉も、インドとアメリカとのあいだで目下すすめられているもようである。(『クロスロード』誌、1952年11月9日号)

モナザイトの最大の鉱床は、インドのトランバンコールにある。1946年4月、トランバンコールの宰相は、アメリカ向けモナザイトの積出し停止を命令し、この鉱石は、海外へ輸出されるまえに国内で加工されねばならないという命令を発した。この命令が出てから約3年になるが、まだ解禁の指令はない。インドの鉱床を所有しているのはトラバンコール土侯国であり、同国政府とイギリス政府が共同してその管理にあたっている。鉱床を採掘する政府特許をにぎっているのは、インビリアル・ケミカル・インダストリーズを支配するホプキンズ・アンド。ウィリアムズ会社である。※

※アメリカ最大のモナザイト販売機関は、チャールズ・テナント・カンパニー(カルムスティ)のアメリカ支社であるニューヨークのC・テナント・アンド・カンパニーである。この会社はインピリアル・ケミカル・インダストリーズの子会社スコティッシュ・アグリカルチュラル・インダストリーに完全に併合されており、S・A・I(ダンディ)の名で知られている。

つまり、インピリアル・ケミカルズは、モナザイトの主要な資源と、ニューヨークにおけるその分配機関とを、ともに支配しているわけである。なお、戦時中アメリカのモナザイト輸入量の3分の1以上を供給していたブラジルからの輸入も低下している。
イギリス当局者の一部が、AECの無関心とは対照的に、トリウムを原子力に利用する可能性に熱意をしめしている理由は、インピリアル・ケミカルズがトリウムを支配しているためである。AECがトリウムはすぐには実用にならないと声明しても、この元素を原子力の原料、とくに核燃料の「増殖用」として利用する可能性が、イギリスの戦時原子力計画の責任者であったインピリアル・ケミカルズの重役サー・W・A・エーカーズによって主張された。いずれにしても、イギリスは、インドのトリウム鉱床開発にのり出そうとしている。インド政府の科学・工業研究評議会の原子力研究委員会は、トランバンコールのトリウム含有鉱物にかんする大規模な調査を勧告し、またインドにおけるウラニウムの有無について同様の調査を行うための小委員会を設置した。
トリウムが原子力において重要な役割を演ずるかどうかは、そのうちに事態が明らかにするだろう。イギリスの原子爆弾の首脳者たちは、原子動力に関してアメリカ人よりもいくぶん大きな関心をよせているので、とくにイギリスの入手しうるウラニウムがしだいに制限されるようになっている現在、おそらくイギリスは、トリウム増殖リアクターの完成に力を集中するのではあるまいか。いずれにしても、巨大なインピリアル・ケミカル財閥は、原子力の原料となりうるこの金属を支配しているのである。

『原爆帝国主義』209~210ページから転載

AECとはアメリカ原子力委員会の事であるが、旧植民地であるインドのトリウム資源の権益を支配しているとの指摘は、1950年代の書籍とは言え今も新鮮に聞こえる。

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