阿部ブログ

日々思うこと

第4世代の小型原子炉「溶融塩炉」をSonyが開発する

2018年08月23日 | 雑感
2018年(平成30年)6月14日(木)、衆議院第一議員会館の大会議室にて自由民主党・資源・エネルギー戦略調査会・新型エネルギー検討委員会が開催された。これは「溶融塩炉(MSR)第二回推進総会」で、2017年6月に開催した第一回に次ぐものである。
既に第五次エネルギー基本計画に、次世代の原子炉として溶融塩炉の記載が入り、個人的には、政治的なパワーをまざまざと見せつけられた画期的な出来事と認識している。溶融塩炉は、高速増殖炉「もんじゅ」の代替にもなりうる次世代原子力の有力候補で、水を使わず、燃料も溶融塩に溶け込んでいる為、福島第一原発のような過酷事故は起きづらく安全性が高い。しかも小型化可能で低コストで作れると見込まれている。既にに中国や米国で、開発が進められており、前述のように経済産業省の「第 五次エネルギー基本計画」にも明記された。
溶融塩炉は、プルトニウムのみならず、今後、原発立地場所に溜まっている使用済み燃料や福島のメルトダウンしたデブリを燃料に使い、電力を生み出すことも期待できる炉である。エネルギー基本計画には、「プルトニウム保有量の削減に取り組む」と明記されており、その有力な技術手段が溶融塩炉である。

この溶融塩炉の開発に名乗りを挙げたのは、何と「Sony」である。
自分が知るSonyは、人の生死に係る事業は行わないポリシーと想っていたが、今回の溶融塩炉開発は、違うようだ。でも、この判断には納得感がある。国際エネルギー機関(IEA)によれば、今後25年間で、世界全体の200基以上の原子炉が閉鎖される予定で、日本国内だけでも3兆円以上の市場規模と推定されている。この廃炉ビジネスは、50年以上の長期にわたる事業となり、安定した事業展開が期待できる。また、溶融塩炉は使用済核燃料の減容処理を行うのが目的であり、この炉の開発をSonyが行う事は、巨大な利権を手中にしたのも同じことである。何せ、日本のみならず使用済核燃料問題は世界中で大きな課題として焦点が当たっており、必要な資金は、湯水のように供給されるだろう。

< 山本拓 議員 >
この度、もんじゅが廃炉になることが決まった。今後は、安全性に優れ、使用済み燃料を燃料として発電ができるといわれる溶融塩炉に力を入れていきたい。自民党としてこの溶融塩炉を公式に取り上げ推進していく。

1 < 有馬朗人 先生 >
日本は先端分野の研究開発力が落ちてしまった。一度は世界一位になったが、いまや中国にも抜かれて世界五位だ。中国はやり方が上手い。科学院という組織があって、科学院は米国と学術界の枠組みで協力協定を結んでいる。その中で上海の放射光施設のように、日本がいち早く進めて成功したことを取り入れ、ものにしてきた。原子力では溶融塩炉もそのひとつであり、2011年から原子力にも拘らず、安全性が高いと期待される溶融塩炉を開発中である。そのプロトタイプは2020年には動くという。日本も負けないで、早く溶融塩炉の開発に取り組むべきだ。

2 < 中国科学院・上海応用物理研究所、徐洪傑(Xu Hongjie)熔融塩炉開発総リーダー >
中国には、広大な乾燥地帯がある。20年ほど前から、国内で大量のレアアースを採掘した結果、水を使わず高い温度の熱が供 給可能で、熔融塩炉原子炉の燃料となりうる「トリウム」が大量に貯蔵されていることが判明した。
そこで上海では、いち早く溶融塩炉を実用化し、地球温暖化問題への解決策とするべく、米国のエネルギー省と中国科学院とで研究協力の覚書(MOU)を結び、2011年から上海応用物理学研究所を主体にして、着々と開発を進めている。上海応用物理学研究所では、放射光施設を建設し、最先端の研究をスタートさせたが、当時、有馬朗人先生のご指導で、日本からの技術とともに 装置(播磨のスプリング8放射光施設の同等品)を導入し、たいへん恩義を感じている。この度の溶融塩炉開発では、日本に7年ほ ど先んじて研究開発を開始し、すでに150億円(日本円に換算)を投じてきた。本年2018年末には、実験炉のシミュレータ(実機相 当の部品と機能とを電気加熱で稼働させる装置)が完成し、2020年末には、核加熱の原子炉【2MW級】、いよいよ、溶融塩原子炉 に核反応の火を入れる段階を視野に計画を進めている。

3 < (米)トールコン・パワー社、ロバート・ハーグレーブス博士 >
弊社の「トール」とはトリウムを意味する。溶融塩炉は、使用済み燃料の処理だけではなく、温暖化でも切り札になると考え、 トールコンは南半球で人口の多いインドネシアにて、世界で最初の溶融塩炉の実現を目指している。地球温暖化、パリ協定のCO2放出量削減は、溶融塩原子炉を導入すれば、単にクリアするだけでなくお釣りが来るはずだ。
トールコンの原子炉には新しい技術は使っていない。米国で既に開発された技術を、商業炉のスケールで再現するだけだ。実機スケールでの二年間の試験運転期間を入れても、トータル数年で商業炉の稼働までもっていける。もうひとつの特徴は、造船技術をベースにした点である。安全系は水で冷却し、原子炉は船に乗せる。ドックの船体の建造ラインを使って大量生産する。船に乗せることで火山噴火などの緊急時に避難させることにも応用できる。
日本とも関係の深いインドネシア、その大統領顧問と協力し、インドネシアのエネルギー問題を解決する切り札としてデビューさせるつもりである。発電系については、従来の技術を使うので詳細な設計もできている。十分に実現可能なはずである。

4< (米)エリシウム・インダストリー社 、ユーセフ・ボールアウト博士 >
エリシウムは、東日本大震災を契機に、日本、福島を助けようとボストンに留学していた日本人学生とボストンの大学の先生、アメリカの海軍研究所出身の研究者たちにより、構成された研究開発ベンチャーである。日本の原子力産業の危機の一助となるため、 福島のデブリを燃焼する原子炉を開発することが、最終目標である。すなわち、究極の廃棄物焼却炉の建設を目指す。

米国での国の研究資金の流れは以下のようになっている。DOEは 2015年から溶融塩炉に予算をつけ始めた。GAINというプロジェクトが立ち上がり、ビル・ゲーツのテラパワー社が最初に資金を獲得したが、弊社も本年DOEから4億円(日本円換算)相当の研究予算を獲得した。弊社の原子炉は、一基で68トンの使用済み燃料を燃料として稼働する。使用済み燃料を弊社原子炉の燃料 に変換するには、日本の電力中央研究所が開発した技術が利用できる。弊社はこの技術を活用し、昨年、その検証試験をDOEの支援のもと、アルゴンヌにて実施し、概念検証に成功した。
また、エリシウム社と日本のトリウム・テック・ソリューション社【㈱TTS】は両社ともに、液体燃料を使い、プルトニウムや使用済 み燃料が燃焼・消滅できることを実験的に確かめることを狙っている。具体的には、TTSはすぐに使用可能なカザフスタンの原子炉を使い、経験を重ねる。弊社は、最終的には高速中性子高温熔融塩原子炉の建設を目指すが、日本の常陽原子炉(茨城県東海 村)も実験炉として活用できると考えている。

5< (日本) 山脇道夫(東京大学名誉教授) >
日本が溶融塩炉を開発するための戦略は、先ずバックエンド対策用として、プルトニウムやマイナーアクチニドなど放射性廃棄 物の高効率な核変換・消滅が可能な塩化物溶融塩燃料高速炉を開発することが当面の目標となる。また、再生可能エネルギーの バックアップ電源としての可能性の追求も魅力がある。
燃料を炉心内に閉じ込めて過酷事故をほとんど起こさないようにした高度安全炉である静止燃料型溶融塩炉や、その原子炉に乾式再処理系を結合して液体状態で燃料を循環処理できるようにした統合型溶融塩高速炉(IMSFR)など、安全で機能的、かつ経済的なシステムを独自に考案してきた。電中研で開発を進めてきた乾式再処理技術が活用されるほか、福井大学での基盤研 究に基づく概念設計の成果が取り入れられている。それら優れた炉型を目指して日本型溶融塩炉を開発していくことが望まれる。
開発のための研究課題をテーマ別に整理して提示したが、既存の施設の共同利用や、国際協力などを活用することにより、迅速に諸データを入手しつつ、実験炉の設計・建設、さらには運転・試験を推進していけば、先行の諸外国からさほど遅れることな く、また多くの学生、若手研究者に夢を与えながら、有益な溶融塩炉開発を実現できると期待している。

6< 若い人たちからの要望書 >
最後に若い人たちにも率直な感想を求めた。メンバーは、電通大生、慶応大生、農工大生、東京都市大生、東京大学卒業生の連 名により、要望書の形で読み上げてもらった。
内容は、「再生可能エネルギーばかりではなく、原子力にも将来のエネルギーを担う場を与えてほしい。原子力のなかには溶融 塩炉、高温ガス炉、そしでナトリウム冷却のもんじゅ型高速増殖炉、いろいろな選択肢がある。現状は、希望する選択肢を語るレベ ルどころか、就業の機会と研究場所自体も限られてきており、原子力産業の進路はどんどん狭き門となっている。ひいては、別の仕事も選択せざるをえない可能性にすらある。我々に原子力に力を発揮する機会を与えてほしい。場さえ与えられれば、よろこんで力をふるう自信があります。」

米国防総省の年次報告書「中国の軍事力2018」

2018年08月18日 | 雑感
米国防総省の年次報告書「中国の軍事力2018」Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018

米国は、中国に対し輸入関税、及び対米投資制限など対中国に対する対抗措置を取っている最中に米国防総省が、米連邦議会に中国の軍事力に関する年次報告書を提出し公開版を公表した。
2018年の年次報告書によれば、中国陸軍は、後方兵站部隊などを中心とした30万人規模の兵力削減を実施しつつ、諸兵種連合部隊でより実践的な統合演習により兵士の練度を高める。削減した兵力は、武装警察部隊等に転換する。また、中国版海兵隊と言える海軍の陸戦隊(People’s Liberation Navy Marine Corps)の戦力を2020年までに7個旅団、兵員3万人規模に拡大する。
空軍に就いては、核攻撃任務が付与され、長距離爆撃機による偵察・攻撃任務を充実させており、南シナ海、東シナ海、台湾一周偵察や第一列島線を超える作戦が可能とする。空軍部隊は、台湾の他、グアムなどの米軍基地や在日米軍/自衛隊を目標として訓練を行っており警戒レベルは高まっている。また現在、開発中のステルス戦闘機を実戦配備させ、新規にステルス長距離爆撃機の開発をスタートさせ、2030年までに核兵器搭載型の爆撃機を完成させ作戦運用する。他方、ロシア同様に産業スパイやサイバー攻撃による軍事技術等の窃盗など非合法活動を継続し、海外企業への直接投資や買収による技術獲得も並行して実施すると言いうような内容である。
この年次報告書を読んで感じる事は、戦略弾道ミサイル、戦術ミサイル、巡航ミサイルの配備数を増やし、抑止力と反撃能力のレベルを維持しつつ、ステルス戦闘機など航空機の性能向上と最新鋭の防空システムの導入、電子戦、サイバー戦、宇宙戦の能力を向上させ、ロシアを抜いて世界第二位の軍事大国になる勢いで軍拡を行うと言う強い国家意思である。
中国軍の軍事戦略の根幹は「高列度戦に短期間で勝利」することであり、開戦劈頭、可能な限り軍事システムを麻痺させ、大量のミサイル等の火力で敵戦力を圧倒することにある。仮に、人民解放軍が台湾に侵攻する際には、実際に行われだろうと言われている。これには徹底的に生存性を高め、反撃能力を残存させることが重要となる。日本の場合、全国に原子力発電所があり二次系の冷却システムがミサイルや破壊活動等で完全に破壊されると、最終的には福島第一原発と同様にメルトダウンに陥るので、憲法云々の前に現在抱えている国家的リスクを検討し対策せねばならない。
いつまで中国経済が正常でいられるかは判然としないものの、当面は中国の軍事拡張は続くのだろう。

○主要参考文献(含むURL):
Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2018
https://media.defense.gov/2018/Aug/16/2001955282/-1/-1/1/2018-CHINA-MILITARY-POWER-REPORT.PDF 

China Security Report(National Institute for Defense Studies:NIDS)
http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_EN_web_2018_A01.pdf 

H.R.5515 - John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019
https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515 

米国は宇宙軍を創設する

2018年08月18日 | 雑感
米国では、4月に入って宇宙における脅威を報告したレポートが相次いで公表された。何れも中国、ロシアなどが推進する宇宙での軍事技術開発に警鐘を鳴らす内容である。
Center for Strategic and International Studies (CSIS)は、「Space Threat Assessment 2018」を公表した。この報告書は公開情報に基づいて作成され、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの宇宙兵器開発の状況をレポートしている。Secure World Foundation(SWF)の「Global Counterspace Capabilities」は、GNSS(Global Navigation Satellite Systems)ジャミングやレーザー兵器、サイバー攻撃など、直接ターゲットを破壊せずとも機能不全にする、所謂「non-kinetic」な方法がトレンドになっていると報告している。

両報告書によれば、中国は、2007年に実施した退役した気象衛星を破壊する実験で、世界から非難されても対衛星兵器(direct-ascent anti-satellite(ASAT)weapons)の開発を鋭意進めていると指摘。特に、低高度軌道(Low-Earth Orbit:LEO)衛星に対する攻撃能力を獲得したとみられ、移動式の対衛星破壊ミサイル発射システムも2020年以降に実戦配備されるだろうと予測。しかし、中高度や静止軌道衛星に対する衛星破壊兵器は、まだ実験段階にあるとの評価。ロシアに関しては、ソビエト崩壊後の宇宙システムを復活させる努力を続けているが、脅威となるような対衛星破壊能力は持っていない。しかし、ロシア軍は、電子戦能力の強化を継続して行っており、宇宙空間での電子戦能力も充実しているとの評価。特に衛星本体や地上局に対する電子戦やサイバー攻撃が行える能力を保持しているとし、ロシア国防省は移動式レーザーシステムを既に受領している。

両報告書とも、まだ、宇宙での優位性は米国にあるとしているが、中国・ロシアの宇宙における技術開発で特に警戒するべきなのが、RPO(Rendezvous and Proximity Operations)であるとしている。これはターゲットとなる衛星の軌道に移動しランデブー、そして接近する衛星の運用技術であり、RPOは衛星を直接破壊する際の中核技術である。このRPOをロシアや中国は、繰り返し宇宙空間でオペレーションを行っており、最近では2017年10月にロシアが偵察衛星だとしている複数の衛星が連携しつつRPOを行い、米国防総省は懸念を表明している。

やはり宇宙における軍拡で一番勢いのあるのは中国である。2018年7月30日、長征3Bロケットで中国版GPSである北斗測位衛星33号機と34号機の2基をXichang Satellite Launch Centerから打ち上げた。(日本版GPSである準天頂衛星は4基打ち上げられているが、3号機が故障しており回復不能とのことで、11月のサービス開始に暗雲が垂れ込めている。)翌31日には、Taiyuan Satellite Launch Centreから解像度10cm以下と言われる偵察衛星を打ち上げている。8月に入ってからはChina Academy of Aerospace Aerodynamicsが開発した極超音速飛翔体Starry Sky2の発射実験が行なわれ、飛翔体は高度30kmに到した後、最高速度マッハ5.5を記録した。Starry Sky2が実戦配備されると米軍や日本にとっては防御が非常に難しく大きな脅威となる。

中国やロシアの宇宙分野での活動を座視できない米国は、陸・海・空・海兵隊に次ぐ第五の宇宙軍を創設する。これは1947年に米空軍が創設されて以来だが、ボーンアゲイン・クリスチャンとして有名なペンス米副大統領が、8月9日、国防総省で演説した際、2020年までに大将を最高指揮官とする統合戦闘コマンド「宇宙軍」を立ち上げると発言した。7月24日の上下院軍事委員会は、トランプ政権による2019年度・国防歳出法の宇宙軍創設予算の計上を否認し、米空軍は宇宙軍創設に絶対反対の立場を崩していないが、国防総省は2018年中に宇宙軍創設関連法案の議会提出準備を行い、国防総省内にUS Space Command、Space Operations Forceと、Space Development Agencyを設置し、専門の調達組織も立ち上げる。8月13日、トランプ大統領が、訪問先のFort Drumで、2019年D度・国防歳出法に署名した。これで米軍の宇宙戦力と宇宙関連資産を宇宙軍が指揮・統括することになる。現在の空軍のAir Force Space Command(AFSPC)は、宇宙軍に統合される。

この宇宙軍創設で一番注目すべきは、その調達組織であるSpace-Procurement Agencyで、宇宙軍の作戦に必要な軍需物資を調達する組織で、ケネディ政権でのマクナマラ改革に匹敵するような野心的な改革を行うことが期待されている。拠点は、コロラド、カルフォルニア、フロリダ、ハンツビル等で、全軍種に関わる宇宙関連調達を監理・監督する。Space-Procurement Agencyは、現在、米空軍輸送コマンドが検討している、宇宙空間に軍需物資を事前集積する構想を引き継ぐ。この構想は、軍事作戦時に、宇宙から迅速に軍需物資を世界各地に送り届けると言う画期的なもので、空輸で10時間必要な軍需輸送が、宇宙からだと30分で投入可能だとしている。この事前集積は、各種補給品・弾薬・食糧・水だけでなく装甲車など戦闘車両も宇宙に事前集積する方針で、既にSpaceXやVirgin Orbitとも意見交換を行っており、宇宙空間の物資を地上に迅速に提供する方法の具体化を模索し始めている。トランプ政権による宇宙軍創設とイノベーティブな取組に民間企業としても注目するべきであろう。

○主要参考文献(含むURL):
★「Space Threat Assessment 2018」
Center for Strategic and International Studies (CSIS)
https://www.csis.org/analysis/space-threat-assessment-2018 


「Global Counterspace Capabilities: An Open Source Assessment」
https://swfound.org/media/206118/swf_global_counterspace_april2018.pdf 

★ペンス副大統領の演説
Remarks by Vice President Pence on the Future of the U.S. Military in Space
The White House, August 9, 2018
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/remarks-vice-president-pence-future-u-s-military-space/ 

★ファクトシート
Fact Sheet
President Donald J. Trump is Building the United States Space Force for a 21st Century Military
The White House, August 9, 2018
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-building-united-states-space-force-21st-century-military/ 

★国防総省が議会に提出した宇宙担当部局の組織や体系に関する報告書
Final Report on Organizational and Management Structure for the National Security Space Components of the Department of Defense
U.S. Department of Defense, August 9, 2018
https://media.defense.gov/2018/Aug/09/2001952764/-1/-1/1/ORGANIZATIONAL-MANAGEMENT-STRUCTURE-DOD-NATIONAL-SECURITY-SPACE-COMPONENTS.PDF  (PDF 102 KB, 15 p.)

★シャナハン国防副長官が行ったメディアとの質疑応答
Media Roundtable on Space Force with Deputy Secretary Shanahan
Deputy Secretary of Defense Patrick M. Shanahan
U.S. Department of Defense, August 9, 2018
https://www.defense.gov/News/Transcripts/Transcript-View/Article/1598488/media-roundtable-on-space-force-with-deputy-secretary-shanahan/source/GovDelivery/ 

★米上下両院は、FY2019国防歳出法を可決。総額7,170億ドル。上院87:10、下院が359:54と言う結果。(国防総省2018/8/1発表)

量子ブロックチェーン〜真に改竄不可能な分散台帳〜

2018年08月07日 | 雑感
カナダのD-Wave社が2011年に世界初となる量子コンピュータの商用化を始め、当初は、量子効果を使って計算していないとの議論が巻き起こって、その真贋を問う向きが多かったが、現在は終息し、量子アニーリングによる、様々な最適化組合せ問題を実際に解いて、課題解決に繋げる取組が広がりを見せている。来年には、D-Wave社が5,000量子ビットの量子コンピュータの販売を開始するとしており、東北大学の大関准教授によれば、Googleと東北大学が1号機の購入を同社に打診しているとのこと。
5,000量子ビット級の量子コンピュータの登場は、一般に普及している公開鍵暗号など素因数分解の計算困難性に依拠している暗号が解読される可能性があり、先進各国で、量子コンピュータでも解読が難しい暗号の開発が行なわれている。代表的な耐量子計算暗号には、
○格子暗号 (Lattice-based cryptography)
○符号暗号 (Code-based cryptography)
○多変数多項式暗号 (Multivariate polynomial cryptography)
○ハッシュ関数署名 (Hash-based signature)
○同種写像暗号 (Isogeny-based cryptography)
などがある。これは、所謂「Post-Quantum Cryptography:PQC」である。現在、米国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)は、2024年までに耐量子計算に強い公開鍵暗号の選定を開始し82件の応募を得て69件の提案を検討している。NISTは、2030年頃までに暗号鍵長2,048ビットの公開鍵暗号の解読が可能な「量子ゲート型コンピュータ」が登場することを想定し、米連邦政府で使用する公開鍵暗号をPQCに換装する計画である。しかし、量子ゲート型コンピュータでも、暗号鍵長2,048ビットの公開鍵暗号を解読するには約800万量子ビットが必要とされており、まだまだ脅威になるには時間が掛るとの指摘もあるが、殊、ITの世界は、突然現れたD-Waveのように破壊的イノベーションが生まれることが十分に予想される為、PQCの研究開発は必要不可欠である。
量子コンピュータの性能が向上すると、既存の暗号技術が危殆すると言う状態は、今、注目を集めているブロックチェーンのセキュリティにも影響を与えることとなる。何故ならば、ブロックチェーンは、1970年代以降に開発実装された暗号技術を巧みに組み合わせて、改竄を実質的に出来ない仕組みを実現している技術で、①公開鍵暗号、②電子署名、③ハッシュ関数などを利用している。これらは、量子コンピュータに対して脆弱であることは、既に証明されている。ブロックチェーンは、仮想通貨を始めとする金融分野以外でも、様々な産業領域で利用されており、ブロックチェーンのセキュリティを担保することは、喫緊の課題であるが、耐量子計算暗号の登場を待たずして、究極の安全性を得る方法が考えられる。それは、「量子もつれ」(Entanglement)と言う摩訶不思議な量子の性質を利用するものである。
ブロックチェーンは、ブロックの内容を固定長(例えば256ビット)で要約するハッシュ関数を利用して、直前のブロックの要約を引き継ぎ、これをチェーン上に繋げていく方法で改竄を難しくしているが、このハッシュ関数を「量子もつれ」で置き換えると言うアイディアである。「量子もつれ」は、一対の粒子がコインの表・裏のように状態を相互に共有する現象で、距離に関係なく、片方の状態が変化すると、もう片方の粒子の状態も変化するという性質を利用する。即ち、前のブロックと現在のブロックの内容を反映した「量子もつれ」状態にある一対の粒子でブロック同士を繋げる。また現在のブロックと、新たに作られたブロック同士も一対の粒子で繋げると言うことを繰り返すことにより、「量子もつれ」状態にあるブロックがチェーンのように連鎖することとなる。例えば、あるブロックを改竄しようとすると、そのブロックにある粒子の状態が変化する。すると瞬時に繋がっているブロックの粒子も状態が変化するので、改竄を察知・防止が可能である。
この「量子もつれ」は、今使われているハッシュ関数による改竄抑止の仕組みを保持したままでも可能であり、併用することでブロックチェーンのセキュリティが飛躍的に向上し、真に改竄不可能な「量子ブロックチェーン」が登場する。量子の脅威には、量子で対抗すると言う発想による「量子ブロックチェーン」は、今後、分散化する社会の重要な基盤技術となる可能性がある。

○参照:
米国家安全保障局(NSA)は、ポスト量子暗号への将来的な移行プランを発表(2015年8月)
https://www.nsa.gov/what-we-do/information-assurance/ 

NIST, “NISTIR 8105: Report on Post-Quantum Cryptography,” April, 2016.
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ir/2016/NIST.IR.8105.pdf 

NIST, “Submission Requirements and Evaluation Criteria for the Post-Quantum Cryptography Standardization Process,” December 2016.
https://csrc.nist.gov/csrc/media/projects/post-quantum-cryptography/documents/call-for-proposals-final-dec-2016.pdf 

NIST, “Post-Quantum Cryptography, Round 1 Submissions,”
https://csrc.nist.gov/Projects/Post-Quantum-Cryptography/Round-1-Submissions 

ETSI TC Cyber Working Group for Quantum Safe Cryptography, Chairman’s report, September 2017.
https://docbox.etsi.org/Workshop/2017/201709_ETSI_IQC_QUANTUMSAFE/TECHNICAL_TRACK/S02_JOINT_GLOBAL_EFFORTS/QSC_PECEN.pdf

耐量子計算暗号である格子暗号を実装したブロックチェーンの開発と、トランザクション処理を量子コンピュータで行うプロジェクトが「Lattice」プロジェクト。
http://lattice4crypto.com/page3.html