阿部ブログ

日々思うこと

中国の軍事費と公共安全費

2012年04月03日 | 日記
2011年6月25日のブログ 「中国国内でも暴動と公共安全費」 でも中国の公共安全費については既報済みだが、2012年度の公共安全費と軍事費が明らかになったので、最新の状況を記載したい。

軍事費とは、軍隊の活動に必要な経費であり、費目の内容は、国によって異なる。また軍事費に関する情報公開の程度も当然ながら各国とも異なるため、単純な比較は難しいが、ストックホルム国際平和研究所(以下、SIPRI:Stockholm International Peace Research Institute)が定める軍事費とは、下記に関する経費であるとしている。

 ① 軍隊(PKOなど平和維持部隊を含む。)
 ② 国防関係省庁及び国防計画に関与する他の政府省庁(退役軍人の年金及び要員に対する社会福祉事業を含む)
 ③ 軍事作戦のための訓練を受け、装備があると判断される準軍事組織
 ④ 軍事宇宙活動

近年、中国の軍事費が話題に上る事が多いが、それは急速な伸びと「隠れ軍事費」があると疑われている点にある。
SIPRIによれば1989年では第11位だったものが、2007年にはイギリスを抜いて第2位となり現在まで推移している。
2012年度の軍事費は今年3月の全国人民代表大会において全人代外事委員会主任委員・李肇星氏が「中国の2012年の国防予算は6702億7400万元(約8兆7437億日本円、約1066億ドル)」と発言しており初めて1000億ドルの大台を突破した。

中国政府は、自国の軍事費について「安全保障上の周辺環境は非常に複雑で、国家の主権・安全・領土保全維持の任務は極めて困難であり、国家の安全と発展の利益に適した揺るぎない国防と強大な軍隊の建設を必要としており、国防費の適度の増加は完全に必要・
正当・合理的なものなのである」としているが、東シナ海、南シナ海などでの海上軍事活動、空母建造やステルス戦闘機開発など中国の軍事力増強を懸念する周辺各国の疑惑は晴れていない。

中国には軍事費とは別に、武装警察など国内の治安維持に係わる費用である「公共安全費」がある。
中国の武装警察は、準軍事組織で、日本の機動隊とは異なり訓練、装備は人民解放軍と同じである。また武装警察の隊員は警察官ではなく人民解放軍と同じ軍人である。陣容は人民解放軍の総兵力の半分に当たる120万人である。内訳は暴動鎮圧や要地警備など60万、国境警備20万人、その他支援部隊など40万人。
(個人的には、武装警察部隊は、元々人民解放軍の部隊で、兵力削減時に治安維持を主要任務とする準軍事部隊として再編されたと認識している。)

参考まで旧共産圏の国には、中国の武装警察部隊と同じ任務を担う「国内軍」と言われる内務省隷下の準軍事組織が存在する場合が多い。
特に旧ソビエトの国内軍は軍隊と同じ装備で航空部隊も保有する強力な部隊構成で、正規軍によるクーデターや反乱に対峙する為、重武装で常に最新鋭の装備が供与されていた。モスクワ近傍に配備されている部隊は国内軍の所謂「近衛部隊」。但しソビエトの国内軍は国境警備は行わない。国境警備はKGBの任務で、北方領土海域を警備している艦艇はKGB所属であった。

2011年3月の全人代に提出された「公共安全費」は、前年実績費で13.8%増の6244億元で、中国の建国以来初めて軍事費6011億元を上回った。2012年も同様で「公共安全費」は7017億6300万元で、軍事費6702億7400万元を超えている。

SIPRIの軍事費の定義によると武装警察は準軍事組織であるから③に該当する。
中国政府によれば公共安全費とは「政府が社会の公共安全を維持するための支出を指し、武装警察、一般警察、司法行政、監獄、労働矯正、密輸・密売取締などの人員の給与待遇および機関の事務経費を含む」としている為、単純に軍事費と公共安全費を足すことには意味はないが、敢えて加えると1兆3720億3700万元(17兆8370億円)となる。
この金額は、中国の安全保障費、及び国境警備を含む治安維持費の総額である。

中国では、民心が安定せず各地で暴動が発生しているとされるが、莫大な「公共安全費」が図らずも示すように現状においては武装警察力を充実させる事で社会の安定を確保する政策を示している。国家の暴力装置が社会問題を解決する事はないが、何れにせよ中国の軍事費を正確に捉えるには準軍事組織の経費も計上する必要がある。

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