◇陽炎
別れ際ホームに陽炎立つばかり
地元の高校を卒業した娘は、田舎の駅から父に送られて上京した。
父はホームに立っていた。ホームには、父の他に誰もいなかった。陽炎が立ち、
父の姿さえぼかしていた。
後になって,娘は自分の旅立ちの日を想い出すにつけ、あのとき父はホームにいなか
ったのではないかと考えるようになった。それほど父の影は薄くなっていた。
娘に辛い思いをさせたくないから、姿を消していたのではないかと,勘ぐったりもした。
実際父は、間もなく他界してしまい、ホームでの別れが、父との最後になった。
おしまいなら、よけいしっかり記憶に留めておきたいのに、そうならないのが、
娘はもどかしく、辛かった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます