波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

秋草の匂い

2018-10-11 22:24:45 | 超短編童話


 飼猫のミチは、秋草の匂いを嗅ぎながら歩いていて、どうしても秋草とは異質の別な匂いがしてくるのを意識するようになった。家に帰って顔を洗っていても、その匂いは引いていかなかった。
 そのうち、ウトウトっとした時、閃いたものがあって、あの匂いは四五件先の家の、タキオちゃんのものだと気づいた。
 それからというもの、その匂いはますます強まってきて、眠れないほどになった。
 このぶんだと、近くタキオちゃんの家に会いに行かなければならないなと感じはじめた。そうしなければ、これから先、眠れなくなるような不安と心配で、一睡もできなくなった。ふらつきながら、タキオちゃんの家を訪ねて行った。
 ところが、タキオちゃんはいなかった。それどころか、家は閉ざされて、引っ越してしまっていた。その時、恋する猫のミチは唐突に思った。猫にも神は必要だなと、真剣に生きているものには、神は必要なのだと、恋する胸を抱え込んで、そう思った。するとどこかから声が漏れてきた。
「アーメン」
猫のミチは、明日はアメなのねと呟いて、ごろりと横になった。体を舐めると、タキオちゃんの匂いがした。

 おわり

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