北野進の活動日記

志賀原発の廃炉に向けた取り組みや珠洲の情報、ときにはうちの庭の様子も紹介。

9.22集会・記念講演「産廃処分場と輪島の未来」

2016-09-29 | 輪島産廃問題


さる9月22日に開催された「輪島の産廃問題を考える会 発足集会」の記念講演「産廃処分場問題と輪島の未来」(講師:碇山洋金沢大学経済学類教授)の記録を書き起こさせていただいた。
輪島市内ではその後、住民投票を求める直接請求の準備が進んでいるが、今後の直接請求の署名活動、あるいは住民投票にあたって、ぜひ考えてほしい大切な論点がここに示されていると思うからである。
産廃処分場問題に関心をお持ちの1人でも多くの方にご一読いただきたい。
(話し言葉は若干読みやすいように書き直させていただいた。見出しは私の方でつけさせていただいき、全文、碇山先生に確認をいただいている)

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「産廃処分場と輪島の未来」

怒らずにはいられない!
 輪島の皆さん、こんにちは。今日は「産廃処分場と輪島の未来」というタイトルでお話をさせていただきたいと思います。先ほど、板谷さんのお話の最後に、私の名前、碇山(いかりやま)というものですから、名前にかけて「怒り」と言われました。私はこの名前で、あちこちで損をしておりまして、なにかいつも怒ってるような、怒りっぽい人間じゃなかと思われがちですけど、実は非常に温厚な、優しい人間であります。
 しかし、今回ばかりは怒っております。と言いますのは、私たちが取り組みました輪島市産業廃棄物最終処分場建設問題検討委員会という、非常に長い名前ですが、この検討委員会が、この産廃処分場は受け入れるべきではないという答申を出しまして、それを市長に渡したわけですね。市長は知事に対して意見を述べるときに、検討委員会の答申を引用して、こういう答申が出ているので十分配慮してほしいと、そういうふうに言われた経過があるわけです。ところが今回、6月議会でそれを覆すような事態が起こって、産廃処分場建設の方向にどうも動いてきているということですね。これは検討委員会の答申を無視したことになると思うのです。
 最近のことで言うと、いま東京では豊洲の新市場の問題で非常にもめていますね。大きな話題になっています。テレビはそのことで持ち切りで、皆さんもよくご存じだと思います。あの新市場移転にはいろんな問題があるんですけれど、一つの大きな問題として、専門家委員会が土盛りをしなさいと言ったのにそれを無視していた、守らなかったということがあります。委員会がこうしなさい、こうあるべきだと言ったことが、きちんとした手続きを踏まずに、つまりは誰かの一存で、誰の一存かわからないということで、いま東京はもめているわけですけど、誰かの一存でひっくり返してしまったということが非常に大きな問題とされているわけです。それと同じことがいま、輪島で起こっているわけですね。本当なら全国ニュースになってもいいくらいの、東京都と同じくらいの大きな問題ではないかと私は思っています。
 今日は、私自身がこの委員会の委員長をやっていたという立場でお話をさせていただきたいと思います。ただ、最初にお断りさせていただきますけれど、今日は記念講演ということで、そういう立場にあったものが自分の考えを述べるということで、この集会を準備された準備会の皆さんの議論をまとめたものではない。必ずしもそこに一致があるわけではなくって、あくまで碇山個人がいま考えていること、感じていることをお話しさせていただくということです。そこをご理解のうえ、話を聞いていただきたいと思います。
 長い名前ですのでこの後は検討委員会と言いますが、非常に熟議に熟議を重ねた委員会でした。いろんな審議会とか委員会というのを行政はつくるんですね。そこでいろんな答申が出されるわけですけど、皆さん、多くの方がご存じないかもしれませんが、だいたい事務局が原案をつくるんです。事務局というのは要するに行政ですね。県なら県の担当者、市町村なら市町村の担当者が原案をつくって、その原案について委員がここはもうちょっとこう書いた方がいいんじゃないかとか、こういう言葉を付け加えた方がいいとか、ここは削った方がいいとか、ちょっとした手を加えるといった形ですね。大抵の場合、行政が用意した文書がほとんどそのまま答申になります。
 ところがこの委員会は非常に時間をかけて、いろんなことをやりました。まずですね、どういうことを議論するべきか、議論のテーマ自体を自分たちで話しあって決めるということをやりました。それから社会科学の専門家、自然科学の専門家の意見を聞きました。産廃処分場を計画している業者にも来ていただき、お話を伺いました。千葉県の非常に大きな産廃処分場へも見学に行き、そこでも業者の話を聞いたし、その産廃処分場に反対の運動をしている人たちの話も聞きました。非常に活発に一から自分たちで議論をしたんです。そのようにして毎月集まって議論を重ねた結果として、産廃処分場の計画は受け入れるべきではないという結論を出したわけです。
 ですから、他と比べてというのはよくないかもしれませんが、答申の重みが違うということを率直に申し上げたいと思います。事務局が用意した答申案に修正を加えて、これが答申ですっていうんじゃなくって、重い答申だったと思います。それが十分な説明もなく、市民の皆さんにも説明がなかったと思いますし、それから委員にも、委員長でありました私にも、なんの説明もなく覆されたということなんですね。これはやはり怒らなければいけないと思うわけです。

自然への影響・・・未知の有害物質、未体験の大地震や大雨
 それで、その委員会の答申はどういうものであったかということですが、もうお読みの方もいらっしゃると思いますが、おさらいとして答申のポイントについてお話しをしたいと思います。
 実はこの答申は、答申本体と委員長所見というものと二つに分かれていました。答申というのはまさしく答えですから、あまり長々と書くものじゃありません。結論的なものだけを書いて、それだけではわかりにくいので、なぜこういう答申なのかということを少々解説したもの、読みほぐしたものを委員長所見として提出しました。委員長所見だと言って委員長が勝手に出したということじゃなくって、これも委員会で承認を得たものです。ここでどういうことを言ったかというと、一つ目は自然環境に与える影響、二つ目が計画の大規模性、長期性、三つめに風評被害、四つ目に地域の社会環境に与える影響。全部話をしていくとそれだけで与えられた時間をオーバーしてしまうので、ごく重点的なところだけ、お話をしておきたいと思います。
 まず、自然環境に与える影響についてです。法的な規制はずいぶん厳しくなっています。それは確かです。法律に合わないような施設はつくってはいけません。それは当然ですね。だったらいいじゃないかと思われるかもしれないけど、考えなければいけないのは、既にわかっている物質、既知の物質といいますけど、既にわかってる物質に未知の有害性があるということがあるわけです。これまでは普通の物質だと思われていた物質に害があるということが新たにわかるということがあるのです。
 それから未知の物質というのもありえるわけです。どういうことかというと、測定技術がどんどん進んでいるわけです。
 一番わかりやすいのがダイオキシンという物質ですね。皆さんご存知だと思います。ダイオキシンというのは、猛毒だというのはもともとわかっていたわけですけど、ごく微量でも人間の生殖機能に影響を与えるということが後になってわかってきたわけです。
また、測定の技術が進んで、これまでは何百分の一とか何百万分の一とか、そういう濃度しかわからなかったものが、いまや一兆分の一とかですね、そういう非常に薄い薄い、薄まった状態の物質も測ることができるようになってきたわけです。そうすると、これまではたまたま病気になっていると思われていたものが、よくよく調べたら何兆分の一という薄い、薄い、薄められた物質によって起こされている病気だということがわかるということもあるわけです。そんなことが今後、科学が発達していけばどんどん起こってくる可能性があるわけです。そうしたことに対応できないということです。それが大きな問題点の一つです。
 それからもう一つ自然環境が与える影響で強調しておきたいのは地震の問題です。最近、私たちは非常に大きな地震を経験しているわけです。一番大変だったのは東日本大震災、それから熊本でも大変な地震が起こっています。能登も例外ではないわけですね。能登半島地震や能登半島沖地震というのもありました。こういう地震が起こったときに産廃処分場が無事で済むかどうかですね。こういうことが考えなければいけない問題としてあるわけです。これまで起こったことのないような、とてつもない大地震が起こるということを誰も否定できないですね。分厚いシートを底に敷いてその上に産業廃棄物をのせて埋めるので心配ないよというのだけれど、それが破れてしまったらどうするのか。あるいは産廃処分場から出てくる汚い水を処理する機械を通してきれいにしてから川に流す、海に流すと言ってるんだけど、その機械が完全に壊れてしまって、近づけずに復旧もできないということが起こる可能性もあるわけです。そうしたことが十分考慮されているのかどうかといえば、なかなか対応できていないだろう。
 それからもう一つ自然災害について言うと、大雨の問題ですね。最近すごい大雨が降りますね。今年に入っただけでも、1時間に100ミリとかですね、べらぼうな雨です。ちょっと経験したことのないような、まんべんなく100ミリですからね、すごい雨が降っているわけですね。環境影響評価の準備書をみたところ、50年に一度の大雨に対応できると書いてあるんですね。これはおかしくないですか。ダムをつくる時は100年に一度の大雨に備えるっていうんですね。それぐらいの大雨にはせめて対応しましょうというのが普通の考え方なんです。ましてや最近では200年に一回とか、300年に一回とかという大雨も降るわけですね。そうするとこの産廃処分場がこの大雨に対応できるのかという問題もあるわけです。そうしたことが環境問題として考えられるわけですね。

最大の問題は計画の大規模性!長期性!
 2つ目の計画の大規模性、長期性についてです。これはこの産廃処分場の一番大きな問題といいますか、ツボ、一番大事なポイントだと思っています。それはどういうことかと言いますと、先ほど板谷さんの方からの発言にありましたように345万立方メートルという極めて大規模な産廃処分場なんですね。これは、全国で一番大きいとは言いませんが、最大級ですね。最大クラスの管理型の産廃処分場だと言えると思います。この地につくるには大きすぎるわけです。
 大きいということで問題になるのは長期性ですね。ごみを入れ始めてから完全に埋まってしまうまでに48年かかる計画です。なかなか大変な計画です。皆さん、最後まで見届けることができるかどうか。僕も多分いないと思うんですけど、それくらいの長期的なものです。しかも、埋め立ててしまってそれで終わりじゃないんですね。そのあと安定して、もう大丈夫だよと、業者の手を離れて自然の状態にしておいてももう大丈夫だよってなるのに10年や20年かかるわけです。だから「この計画はお仕舞い」というときまで、ざっと言って埋立を始めてから60年から70年はかかるだろうと。少なくみて60年というふうにしますと、今から60年前というと1956年、1950年代ですね。僕はその頃生まれてませんけれども、1960年生まれなので、その頃の面影、似たような状況を知ってるわけです。いま、舗装されていない道路を探すのに苦労しますよね。林道とか一部を除いて、ほとんどの道路は舗装されてますね。だけど、1950年代というのは、道路はほとんど舗装されていませんでした。国道でさえ舗装されていないところが少なくなかった時代です。当然新幹線もまだないですね。そういう時代から今日までの時間的な距離、隔たり方を考えてみるとものすごい長い時間ということがわかると思うんです。携帯電話やスマートホンとかですね、自動操縦の自動車とか、ほとんど当時の人からすればSFの世界ですね。小説や漫画の世界のようなことがいま実現しているわけです。今からそうした時間距離、隔たり方で産廃処分場の面倒を見なければいけない、そういう計画なんですね。その間に何が起こるかわからないわけです。現世代、いま生きている世代のほとんどが責任を持てないわけです。現時点で成人していれば60年たてば80歳ですから現役を退いてますね。ですから言うなれば誰も責任をとれないわけです。そうした、とてつもなく大きく、とてつもなく長くかかるような計画を実行していいんだろうかという問題だと思うんですよ。ここは本当によく考えなければいけないと思います。

風評被害を受け入れる覚悟はあるか?
 3つ目に風評被害の問題です。よく風評被害というんですが、この言葉はよく曖昧な使われ方をしています。実害があって、その影響が広がる時には風評被害とは言わないんです。本当に害があるのなら、その話が広がることを風評被害とは言いません。実害です。風評被害というのは、本当は害がないにかかわらず、あたかも害があるかのように話に尾ひれがついて、話が広まってしまうということを風評被害と言います。
 典型的には皆さん経験されたと思うんですけれども能登半島地震のとき、決して能登半島全体が壊滅的な影響を受けたわけじゃありません。だけどテレビ、新聞で映し出される場所というのは、被害が大きいということを知らせたいわけですから、家が倒壊した写真とかが全国に流されるわけです。そうするとなにか能登半島全体が、全部の家がつぶれたり傾いたりしてるんじゃないかと思われて、例えば観光客が来なくなってしまう。旅館はキャンセル続出でお客さんが減ってしまうとか、全然お客さんが来なくなったとか、こういうのを風評被害といます。根も葉もないところから話が出て、それに尾ひれがついていきます。だからなかなか止められない、コントロールできないわけです。それが風評被害の怖いところです。
東 日本大震災でも福島の原子力発電所がああいうことになってしまって、なにか東北から東日本の魚は全部食べちゃいかんのじゃないかとかですね、そんなふうな話が出てきてしまう。こういったことがあるわけです。能登半島地震のときも金沢大学で調査チームをつくって、僕もその一員でしたから、調べたわけですが、驚いたのは能登半島の地震であるにも関わらず、加賀温泉郷の旅館までキャンセルがでたんですね。全然関係ないんですね。能登の方はいくらか旅館の壁にひびが入るとかあるかもしれないけれど、加賀温泉郷というのはなんの被害もない、全く無関係なわけですけどキャンセルが続出したわけですね。こういうのが風評被害です。
 これは産廃処分場を計画している事業者側にすると、そんなこと言われても自分たちの責任じゃないと言いたいところでしょうね。そんなこと言われたって困る、自分たちのせいじゃないということなんだけど、しかし、受け入れる側としてはやはり無視できない、考えておかなきゃいけない問題です。産廃処分場問題を受け入れるときには、風評被害も受け止めるんだと、受け入れるんだという覚悟がいるということです。その覚悟があるんだろうかということです。よくよく考えなければいけないことだとお話しさせていただきます。

能登が産廃適地に?!
 4つ目ですが、地域の社会環境に与える影響ということです。産廃適地になる危険性、これがもう一つの重要な問題だと思います。
 原子力発電所って、皆さん、お気づきだと思いますが集中して建っていますよね。分散していません。例えば、福井県には原子力発電所が集中してますね。あるいは地震で今回被害を受けた福島第一原子力発電所、それから離れて福島第二発電所があって、それぞれ複数の原子炉を持っています。つまり、ここなら建てられると、ここならつくることができるとなると次々と建てられる、つくられるということがあるんです。
 原子力発電所だとか産廃処分場だとか、そういった施設に関して英語でNIMBYという言葉があります。Not In My Back Yard ですね。どこかに必要かもしれないけど、自分の家の裏にはつくらないでくれ。いわゆる迷惑施設ですね。迷惑施設というのは、つくりたいと言えば、あちこちで断られるわけです。そういったものをこの地域は受け入れますよとなれば、そこに次々とそういった計画が持ち上がってくる。原子力発電所なら原子力発電所を次々と建てる、産廃処分場なら産廃処分場を次々とつくるということが起こりやすいですね。絶対そうだというわけではありませんが、そういうことになりやすいわけです。これは非常に怖いですね。今回の計画一つについて賛否が分かれる、それは当然ありえるわけですし、もしかしたら市民全体で受け入れるということになるかもしれないけども、2つも3つも4つも受け入れる、そのスタートになるかもしれないという、そこを考えての判断なのかということが問われるわけです。1つ目なら今の世代がよしとしたとして、3つ目、4つ目のいわば皮切りになってしまうということですね。そういったことでいいんだろうかということです。
 以上が答申に記載した主な問題点です。

容認論の限度を超えた大規模性、長期性
 次に推進論、容認論に答えていきたいと思います。これはいまのNIMBYですね。私の家の裏にはつくらないでくれということと関わります。検討委員会でもこういう意見が出ました。
 「産廃処分場を私のところにつくらないでくれ、私のところにもつくらないでくれと、みんながみんなそう言いだしたらどうなるんだ。誰かが引き受けなきゃいかんじゃないか。どこかにつくらなきゃいかんじゃないか。だったらみんなが嫌がるものを積極的に、自己犠牲的に受け入れることもあっていいんじゃないか」
 押し付け合いの中でうちは手を挙げてあえて受け入れるということをやっていいんじゃないかという考え方ですね。これは検討委員会でも、率直な意見として、非常にまじめな考え方として出されました。これは一つの考え方としてありえる考え方だし、僕は非常に真摯な、まじめな考え方だと思います。みんながみんな嫌だったらどうなるんだよ、産業廃棄物を出さずにやっていける世界じゃないんだから、誰かが受け入れなきゃいけないんじゃないかという、こういう意見はわからないではないわけです。
 ただ、そうはいかない問題があります。一つは、廃棄物は発生地処理が原則ということです。自分のところで出した廃棄物は自分のところで処理するというのが原則ですね。他所に押し付けない。考え方として、先ほど、どこかにつくらなきゃいけないんだから、みんながみんな産廃処分場を押し付け合っていたらキリがないじゃないかと言いましたが、自分のところで出した産業廃棄物は自分のところで処理するということが徹底されれば、押し付け合いは起こらないですね。輪島で出した産業廃棄物は輪島で処理しましょう、珠洲で出した産業廃棄物は珠洲で処理しましょうということが徹底されれば問題ないわけです。いまの考え方は市町村レベルでは難しいので、県レベルで考えましょう、石川県で出した産業廃棄物は石川県で処理しましょう、富山県で出した産業廃棄物は富山県で処理しましょうと、こういうことになっているんだけれども、今回の輪島で計画されている産業廃棄物処分場は北陸三県等、となっています。富山、石川、福井の産業廃棄物を処理する、そういう処分場だということです。しかもその下に「等」というのが入っています。どこなんでしょうか、わからないわけですけど、もっと広く、いま東海北陸自動車道がつながっているから岐阜かもしれませんし、どこかわかりませんが、なにしろ外からくるわけですね。これはちょっと筋が違うだろうというのが一つ。
 2つ目はですね、先ほど言いました超大規模性、超長期性ですね、ここが他とは違う。つまりどこかが受け入れなければいけない施設というのはあるとは思うんですね。ありえることだと思います。だけど、こんなに大きな、345万立方メートルというような、とてつもなく大きな産業廃棄物処分場、そして後々の管理まで考えれば、60年、場合によっては70年もかかるような産業廃棄物処分場をどこかが受け入れなければいけないとは言えないわけですね。そんな大きくて、そんな長いものをあちこちにつくる、どこかが受け入れるようにするということはないわけです。要するに北陸3県の産業廃棄物を一手に引き受けるのかどうかはわかりませんけど、どんどん入れ込んでくる、そういった施設をどこかにつくらなければいけないということはないですね。もうちょっと小規模なものをつくるということは考えてしかるべきです。例えば金沢市にも産業廃棄物処分場はあります。けれども規模は輪島で計画されているものの10分の1とか、桁が違うわけなんです。そうしたものなら場合によってはみんながみんな、押し付け合っていてはだめだから、あるいは自分の場所で出たものは自分で処理しなければいけないからつくりましょうというのはありえる話かもしれない。けれど、とてつもなく大きな、とてつもなく長くかかるものをどこかが引き受けなければいけないという議論はそもそもおかしいということです。ここは非常に大きな問題なのでぜひお考えいただきたいポイントです。

公共下水道接続で水質責任は輪島市へ
 最近になって出てきた非常に大きな論点として公共下水道接続問題があります。公共下水道に接続するから安全、安心だという議論ですね。
 経過をみればもともと市長が諮問機関としてつくった検討委員会で、産業廃棄物を受け入れるべきではないという答申を出した。要するに行政は平たく言えば反対だったわけです。議会も2度の受け入れられないという決議を上げているわけですね。それが今回、6月の議会で容認、受け入れてもいいという結果になった理由が「公共下水道につなぐから」というお話ですね。それなら安心だという議論だと思います。一種の「決定打」ですね。下水道につなぐからもう大丈夫と、そう言われれば反対する理由はないと、そういうことです。
 今日お集まりの皆様は、下水道につなぐからといって果たして安全なのか、どうなんだろうという疑問をお持ちだろうと思います。これは、良くて意味がない、無意味です。悪くすれば、むしろ問題を複雑困難にするということです。
 どういうことかお話しします。今回の輪島で計画されている産廃処分場は管理型というものです。管理型というのは放ったらかしにしておくとまずいんで、埋め立てたものから出てくる汚い水を処理して、処理したきれいな水を川や海に流すという、そういう建前なんですね。除害施設を通してきれいにしてから海や川に流すのが建前です。建前からするとすでにきれいな水です。計画ではきれいな水が出ているはずなんです。それを下水道につないだところできれいな水を処理しようがないですね。もうきれいなんだから。
 何が問題かというと、その産廃処分場のところで水をきれいにするよと言っている除害施設がうまく働かなかったとき、故障した、停電した、なにかの理由で動かなくなったときです。計画ではそこで水を止めてしまうということになっています。そういうことが起きると一番想定されるのは、大災害の時ですね。むちゃくちゃ大きい地震が起こったり、とんでもない大雨が降ったりです。そういう時だから、止める装置がうまく働かないということもありえるわけです。そっちを考えておかなければいけないわけです。大地震が起こって除害施設は止まったけれども、浸出水を止める機械はちゃんと作動した。そういう都合のいいことは起こらないとまず考えておくべきです。
 そうすると汚い水が下水道に入ってきます。下水道の水というのは皆さん、なんとなくきれいだと思っているでしょう? きれいにしてから出すものだと思っているでしょう? だけど、下水道の施設できれいにできるのは、一つは有機物ですね。臭くなるようなものです。厳密には違いますが、平たく言えばそういうものです。どぶの匂いをさせるものです。それから大腸菌を出さないようにするとか、浮遊物、濁りを取りましょうと、こんなところなんですね。高度処理をやったら、それに加えて窒素とリンをとることができます。そこまでなんです。それ以上のことはできないんです。
 さて、産廃処分場の除害施設が壊れたというときに出てくるものは、例えば重金属、いま豊洲の新市場で問題になっているヒ素だとか、カドミウムだとかそういったもの、あるいは厄介な化学的なものが出てくる可能性がある。それは非常に怖いわけなんですが処理できません。
 下水道法と水質汚濁防止法という法律があります。下水道処理施設から外に出す水の基準に違反した場合の責任は、水質汚濁防止法で決められています。最終的に川や海に放出する者が責任をとらなければいけないとなっています。そうすると、いま言ったようなことが起こったときに責任者は誰かというと、産廃処分場の業者ではなくて、輪島市、市長さんということになります。それの対策をとるのが市民の税金、皆さんの税金で対処しなければならないということです。
 ですから、事が起こらないのが一番いいんですが、無事にいって下水道につないでもなんの意味もない、何かあったときには責任は事業者ではなくって輪島市になるわけです。非常に厳しい罰則があるんです。罰金または懲役。人によっては市長さんが懲役刑をくらうんじゃないかという人もいるくらいです。それは間違いのようですが、そのくらい厳しい法律なんです。そういったことが、今回の下水道接続で起こる可能性があるということです。
 下水道につなぐから安心なんてことはまったく言えないし、つなぐことによって余計に厄介な問題を抱え込むことになるということです。ここはぜひしっかりとつかんでおいていただきたいと思います。

歴史の本流を見定めよう
 次に大きな4番目として、持続的に発展する輪島を求めてということです。この長い長い計画期間をもつ産廃処分場を考えたとき、現世代だけでなく将来世代のことも考えなきゃいけない。現世代がまず幸せになろうよということなんですが、将来世代も子どもや孫の世代はもっと豊かに、幸せになれる、そういう輪島にしなければいけないと思うんですね。皆さんも同じだと思います。自分さえよければ、今の代だけよければということではなくってね。子や孫にもっともっと幸せになってほしいと願うのが当たり前のことだと思うんですね。
そ うしたときに大事なのは、歴史的な流れ、本流、コンテキスト(文脈)ですね、こうしたことを見定める必要があるということです。輪島の本流、コンテキストはなんなのかということを考えたときに、いろいろあるとは思うんですけれども、一つは輪島塗であったりとか、最近非常に強調されています里山里海、豊かな自然だと思います。それから食ですね。豊かな食文化を持っている。それからお祭りですよね。みんな憑りつかれたように元気になるお祭りがありますね。そしてなにより人だと思います。人のつながりが非常に大事な財産であるし、そういったことを非常に大切に育ててきたことが輪島の本流だと思うんです。ここを大事にしなければいけないということです。
そこを考えたときに、産廃処分場はこうしたコンテキスト、本流の強化に役立つのかということです。一言で言って輪島らしさをより強める、もっともっと輪島らしさを強めるために産廃処分場はプラスなのか、マイナスなのかということを考えなければいかんだろうということです。

輪島ならではの道を
 もう一つ訴えたいのは、全国の先進例に学んで、輪島ならではの道を、ということです。大分県に湯布院というところがありますね。よく例に出される素晴らしい観光地であり、住民の幸福度の高い地域でありますけれども、ここで何をやったかというと、なにか外から企業を誘致するとかいうことではなくって、自分たちの力で、自分たちの頭で考えて、自分たちの持っている資源を活用して、そうして地域起こしをやったんですね。これは湯布院の一番大事なところです。
 あまり知られていないんですけれども、湯布院というのは2回危機に瀕しました。一つはダム建設問題です。盆地ですのでダムをつくって沈めてしまおうという計画がありました。これを阻止して発展していきました、もう一つは基地ですね。基地を拡張して軍事的に活用するということです。そうすると基地で働く人がいるんで、いわば食事の手配など諸々のことで雇用が生まれ、所得が生まれると言うですけれども、そうしたものは湯布院の本流に合わない、コンテキストに合わないということで拒否したんです。ダムを拒否したこと、基地の拡張を阻止したことが今日の湯布院の発展の基礎になっているんです。
 そういったことをよく学ぶ必要があります。必要なのは単なる雇用ではないということです。例えば、今回産業廃棄物処分場を受け入れればいくらかの雇用が生まれるでしょう。産廃処分場で働く人もいるだろうし、産廃を運ぶダンプの運転手の仕事もあるでしょう。だけれども、そういったことで輪島の本流を強めることができるのかということです。必要なのはやりがいのある仕事、誇れる仕事、輪島らしい仕事ですね。輪島らしい仕事をどうやってつくっていくのかということです。私は地域経済論という科目も専門にしていますが、企業を誘致するよりも、企業をつくれる人を誘致しようというのが最近の流れです。自分で業を起こす、そういった方向を目指すのが今の本流ということです。何といっても誇りをもっていない土地から人は去る、誇りを持っている土地に人は集まるということを訴えておきたいと思います。

住民投票で決めるべき
 終わりに、先ほど来、強調していますが、今回の計画は極めて大規模で、極めて長期間にわたるものです。数世代に渡るものです。今の世代では終わらない、次の世代でも終わらない、非常に長いですね。3世代とか4世代とかですね、そういう世代にわたって続くものです。こうしたものをどうするかといったときに、任期4年の市長や議会だけで決めるのはよくないと思います。実際の経過からしてもそういうふうに言えると思います。それから選挙の公約も見てみましたが、産業廃棄物処分場を誘致しますと選挙公報で書いていた議員さんはいない、反対と言われていた方は何人かいますが、誘致するといった人はいないわけです。そういった状況下で産廃処分場計画が進んでいくということはやはりおかしいと思います。
 検討委員会の答申にも反し、公約に反し、2回の議会決議にも反するというように進めるというのであれば、直接住民に聞く必要がある。直接、自分の子どもや自分の孫のこと、そのまた孫のことを考えている当事者に聞く必要がある。輪島をつくっていくのは何も市長さんや議員さんだけでない。一人ひとりが輪島をつくっている主体であり、主役であり、当事者だということです。その当事者が自ら決定するということが必要だろう、大切だろうと思うわけです。そういったことを考えますと、住民投票ということが大きな課題として出てくるだろうと思います。私自身は今回のような問題はやはり住民投票で決するのが正しいと考えております。これで終わります。ご清聴ありがとうございました。


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