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秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.20

2012-09-04 22:43:12 | Weblog
「先生、早速本題に入りましょう」
「何仕切ってんのよ!」
 あゆが口火を切り崇の母が反応する。
 あゆは腹式呼吸の効いた大き目の声で一気に先を続ける。
「一昨日、崇谷崇君は理由はどうあれ先に手を出し私は身を守るためにカウンターしました。そして昨日会議室の面談中に再び崇谷君は激昂したので私は体をかわし崇谷君は父が取り落とした書類を踏みつけ転倒しました。こちらに一切の非はありません」
「何言ってんのよ! 一昨日はあんた(あゆ)の過剰防衛で昨日はあんた(あゆの父)がわざと転ばせたんでしょ! かわいそうにあの子は頭を打って集中治療室で苦しんでいるのよ! 訴えてやるわ! 退学よ! ね、先生そうでしょ?」
 崇の母が大声で捲くし立て周囲の注目を浴びる。近くの席に座っていた客が次々と席を立つ。周りの目があればおとなしく交渉の席に着くだろうとの正担任の目論見は早々に脆くも崩れた。
「おばさん、そちらの暴力行為はスルーなの? 私じゃない普通の女の子だったら怪我をさせていたのよ、おばさんの息子は!」
 あゆも負けてはいない。
「お静かに」
 サヨリが崇の母の背後でたしなめる。
「うるさい、小娘が!」
 勢い良く後ろを振り向き歯をむく崇の母。
「わざとじゃありませんよ、凄い勢いで迫ってきたので動揺してしまい書類を落としてしまいました」
 あゆの父は弁護士との打ち合わせどうりの答える。やや情けないと思いつつも。
「うるさい!」
 再び凄い勢いで前を向く崇の母。
「そもそも、」
「おじいさんは関係ない!」
 崇の祖父がまた不動産の件を言い出そうとしたところをあゆがビシャリと封殺する。
「まぁまぁ」
 正担任が取り合えず的に双方の制止にかかる。
「まぁまぁ」
 弁護士が同じ台詞を力強く言う。ゼスチャも大きい。
「私の弁護士の大先輩がさっき崇君のお見舞いに行ったのですが元気そうだったそうですよ。面会時間外だったのですが弁護士ですと言ったら看護師さんが特別に通してくれて会えたそうです。自販機コーナーまでご自分で歩いて来てメモが追いつかないくらいの勢いで秋月親子への文句を言うくらい元気だったそうです。ああ、今は集中治療室でなく大部屋だそうで良かったですね」
 崇谷側が言葉を失う。崇や看護師は弁護士を母の差し向けた味方だと勘違いしたのである。勿論そうミスリードさせたのは弁護士の大先輩としての職人芸である。
「証拠はあるのかね?」
 崇の祖父が年の功で真っ先に立ち直り見苦しくも足掻く。
「録画を転送してくれました」
 弁護士はスマートフォンの動画を再生する。冒頭のところで弁護士の大先輩が日時、時間、場所、自分と相手の名を宣言し、
「崇君、記録してもいいかね?」と聞く。
 先輩の手帳とペンが画面端に写る。先輩弁護士は自分のスマートフォンのカメラを相手に向けた状態で胸ポケットに入れている。静止画と違い動画録画中は別にランプなどは点かないので相手に悟られる事は無い。
「いいですよ」
 崇は録画されているとは認識せず筆記による記録と思い込んでいる。
(おおっと、これはかなりギリギリの荒業だな。ミスリード戦法は拗れると大変なんだが)
 あゆの父が内心ほくそ笑みながらも心配する。
(ガンカメラか……)
 あゆとサヨリも感心する。
 あゆはフライトシミュレーションゲーム『月下の咆哮』でサヨリは超小型戦闘飛行艇の実機でガンカメラによる戦果確認に馴染みがあるので即座に理解した。
 あゆの母と正副担任はミスリード戦法がいまひとつ解っていないがとにかく崇が元気なのは認識できた。 
 まだ何か言おうとする崇の母の肩をサヨリが軽くポンと叩く。
 振り返った崇の母の頬にサヨリの伸ばされた人差し指が当たる。子供じみた指鉄砲であるがサヨリがやると妙な迫力がある。
「この試合はあゆの勝ち、タカシの負け。これ以上グズると大使館の大使が本格的に警察に働きかける。あなた達が大変なことになる」
「脅迫する気?」
 サヨリの警告にも崇の母は強気である。
「いいかげんにしろ、一度は警察に行ったが電話一本であっさり帰されたのは昨日見ただろう?」
 サヨリの物言いが本格的に恐くなりやっと沈黙する崇の母。祖父はとっくに戦意を喪失している。
「先生、よろしいか?」
 サヨリは正担任に身分証を見せながら迫る。
「ああ? 何これ? 何だ君は? 島嶼首相国連邦の軍人……?」
「あゆの家族だ、日本の学校を案内しろ」
 サヨリの語気の荒さがおさまらない。
「案内して下さいでしょ、サヨリちゃん。うちの子なら礼儀正しくしなさい」
 母は強しだとあゆの父は感心する。
「イエス・マムもとい、はい、おかあさん」
(娘が増えたな……)
 ひとり感慨に耽るあゆの父であった。

今後

2012-09-03 22:41:15 | Weblog
なんだかさっぱりハードSFどころか航空アクションが出てきませんね。
パソコンさえ出てこないラノベ状態です。

冬のコミケを申し込みました。
今度はちゃんとしたオフセ本にしたいのですが
冬コミが年末だから遅くても12月上旬には原稿をあげるとしてあと正味三カ月。
それまでに沢山テキスト書くのは勿論、コミPo!やグーグルスケッチアップを使いこなせるようにしたいのですが忙しくなりそうですね。

ハードSF航空アクションライトノベルのつもりですがまだ日常+αくらいですね。
これからもよろしくです。

月下の舞姫vol.19

2012-09-02 23:54:10 | Weblog
「結局サヨリは大使さんに崇谷家の陰謀の相談しそびれちゃったね」
「拳銃も返しそびれた」
「出さないで! 街中で!」

サヨリはあゆの中学時代のセーラー服を借りて着ている。本来海軍服なのでよく似合っている。
スカートのポケットに手を入れるとあゆの母がダッシュで近寄り拳銃を抜かないよう肘を握り動きを封じる。
おっ、やるなという表情を見せるサヨリ。
「ホルスター買うなら昭和通りにミリタリーショップがあったな。昔はヨドバシとかカメラ量販店にもエアガンコーナーがあったが所詮、悪い子のおもちゃか」
あゆの父が遠い目をする。
「カメラ量販店ってもう死語よ、今は家電量販店。」
あゆが突っ込む。

単位制三部制の都立秋葉原高校前。
時刻は午前11時。
「みなさん、あゆちゃんの担任の先生と連絡がつきましたそこのコーヒーショップのテラス席に居るそうです」
少し離れていた弁護士の先生が携帯電話を手に寄ってくる。
「おいおい、高校の中じゃないのか?」
あゆの父が高校が入っている高層ビルを仰ぎながら嘆く。
「お店の中ですらないわね」
あゆもプンスカ怒りだす。
「嵩谷家の人達もいらっしゃるんでしょ? 人目があった方がいいじゃない」
あゆの母が現状を追認する。
「いいことサヨリちゃん、あなたにとってそれは日用品でも日本では特別な物なの。何があっても使わないでね。出すのもだめよ。あと素手でも荒っぽい事はだめよ」
「イエス・マム」
男性の上官に対してはイエス・サーであるが女性にならマムである。
「サヨリが戦闘モードだ、目が怖いよ」
あゆはそっと父に告げる。
「大丈夫だよ、乱暴な子じゃないのはあゆが一番よくわかっているんだろう」
「さっき大使館で生敬礼初めて近くで見たけどちょっと怖かった」
「何だよ“生”敬礼ってw格好良かったじゃないか」
「秋月さん行きますよ」
弁護士の声で気が付けば秋月父娘以外は皆コーヒーショップに向かって行った。
(やれやれ昼からの開店に間に合うかな?)

コーヒーショップのテラス席にはあゆの正担任の男の先生と服担任の女の先生、それに崇谷崇の母と祖父の四人が着いていて空いている席は無かった。
秋月一同の姿を認めると副担任と祖父が隣の荷物が置いてあったテーブルに移った。
秋月側はあゆの父と弁護士が着席するがそばにはもう空いているテーブルは無かった。
「あっちが空いていますよ」
崇の祖父が嫌味ったらしく遠くの席を指差し自分達の荷物を空いている椅子二つに置く。副担任はおろおろしているだけである。
「若者は立っています」
あゆは父の後ろに見下ろすように立つ。小柄なので威圧感はない。
サヨリはあゆの母に手を引かれ遠くの席に行き掛けたが思い直し崇の母の後ろに立つ。小柄だが妙な存在感がある。
「何あなた? 失礼ね」
「おかまいなく」
「何の用? あなた関係ないでしょ」
「見学」
「ちょっと先生! なんですかこれ?」
取り合わないサヨリに早くもヒートアップする崇の母。
「君は秋月あゆ君の妹? その制服は地元の中学のだよね?」
「親戚」
正担任の質問にもそっけなく答えるサヨリ。語尾が若干上がって疑問形風味である。
(やれやれ盛り上がってきたな)
困惑するあゆの父、泣きそうな顔でコーヒーを買ってきて秋月側に配るあゆの母。







超軽量動力機

2012-09-01 19:58:04 | Weblog

ウルトラライトプレーン(ULP)、マイクロライトプレーン(MLP)とか呼び名は色々ありますが
要は最低限度のエンジンや機材で飛行する機械、飛行機ですね。

台風が心配ですが日本の沖縄のような台風の通り道ではない
台風の生まれるところではそう心配する必要はありません。
普通に嵐は起きますから油断大敵ですが。

島嶼首相国連邦ではサヨリのように適性の有る女児は10歳くらいから親元を離れ寮に入り、
小学校の授業が終わる放課後になりとまるでクラブ活動のようにウルトラライトプレーンの教習を受け各地に配属されます。

日本の神道や現地の精霊信仰のシャーマニー(巫女)でもあるし離れ小島の生命線でもあるので彼女達は大事にされます。

月下の舞姫Vol.18

2012-09-01 19:34:05 | Weblog
「昨夜飲み過ぎたか……」
 駐日島嶼首相国連邦大使館の在日島嶼首相国連邦大使はサヨリとあゆを見比べて思わず呻くように独りごちた。
 大使館とはいってもJR金町駅の映画フーテンの寅さんの舞台の近くにある安アパートの一室である。
 それは彼にとっての真の母国語である日本語だったのでその場に居合わせた全員に丸聞こえ丸解りだった。

 職員は老大使ひとりに外交官(見習い)の若い日系男性ひとり。彼の奥さんも来日しているが日本語が話せないので毎日日本語学校に通っているそうでそこは居なかった。
 他に現地職員というかパートのおばさん達が数人居るがどう見ても外交の仕事というよりは老人介護状態である。
 来訪者はあゆ、あゆの両親、弁護士そしてサヨリである。
 大使の独り言は失礼なものであったがさもありなんというか、あゆとサヨリは良く似た姉妹のようなので皆苦笑するばかりである。
 ひとりサヨリだけが無表情で直立不動の気を付けの姿勢を保っていた。

「この度は大使の格別なる、」
「ああ、ああ、いい、いい。堅苦しいのはいい」
 挨拶途中のあゆの父親の口上を遮り好々爺然とした老大使は大使の執務室で大儀そうにネクタイを緩めた。
「先代大使が若いくせに急病で倒れてしまい(公務員を)引退したワシが引っ張り出された。(日本の)先祖の墓に生きているうちにまたお参りが出来たのは良かったが気を抜いているとこっちがお墓に吸い込まれそうだ」
「おじい、あ、いえ大使さん本当にありがとうございました」
 あゆがぺこりとお辞儀をする。
「おじいさんでいいよ、もう91歳だ。皆、死んじまった。親も兄弟も親戚も友達も皆……近い肉親は内地の空襲で死んだ。友達の半分は外地で戦死した。実家はこの辺の下町で空襲が酷かった……だから怪我が治っても島(島嶼首相国連邦)から日本に帰る気にならなくてな。その上、士官は戦犯として全員処刑されるという噂もあって現地の娘が一族で匿うから帰るなと引き止めてくれた。その娘がその後の家内でな。それももうの墓の中だだからこっちでは死ねない、早く島に帰ってやらないと」
 老大使はお土産のマドレーヌをお茶うけに日本茶(紅茶ではない)をゆっくりと口にする。パートのおばさんの一人が横にぴったり張り付いて雑巾を握ったままスタンバイしている。見ようによっては介護の振りした護衛にも見えなくもない。撃たれても刺されても簡単には倒れそうに無い下町の女丈夫だ。
 大使は年齢の割りに一応健康だが手が震えて手元が覚束ない様子で見ていてハラハラする。
(イイハナシダナーとは思うが大使としてはそれはどうなんだ? 最近は地下資源貿易で忙しいだろうに)
 あゆの父はにこやかに頷きながら内心ちょっと呆れながらお茶を啜る。さすがに旨い。やはり大使館、最高級茶葉を使っているなと感心する。

「大使、よろしいですか?」
「ああ、おかわりならいくらでも遠慮するな」
 大使自ら大きな急須を持つが重たそうなので横のおばさんが「こぼすこぼす」言ってもぎ取りサヨリの湯飲みにとても高い位置から片手で無造作にじょぼじょぼ注ぐ。ちょっとした職人芸だ。
「アリガトウゴザイマス」
 サヨリが無表情に応える。憮然としないよう気を使っているのが伝わってくる。
(動揺している。しっかりしているようでまだまだ子供だな)
 秋月夫婦が何故かホッとする。特に母が。
「サヨリ アキヅキ准尉はいい子なんだがこうお固いんだよ、憲兵を思い出す」
「憲兵か、私のお爺さんもよく怒鳴られビンタされたとか」
 弁護士が祖父を偲び自分の頬をさする。
「海軍特別陸戦隊特殊航空班に配属される前は憲兵軍の航空軍族でありました」
「ああ、ああ、そうだったな空飛ぶ郵便屋さんだったな本当にご苦労さんだよ」
 あゆが興味津々で何か尋ねるかと思いきやにこにこしているだけなので後でゆっくり聞くかと父は考え、大使も身体が大変そうなので一行は大使館を後にした。

 食材の材料の買出しがてらパートのおばさんが駅まで送ってくれる。話好きな陽気なおばさんというか若く見えるお婆さんだ。
 昭和20年春、当時5歳だったそのおばさんは出征兵士を駅で大勢で見送る場面を覚えているという。あゆが笑顔で当時の事を色々聞く。
 JR金町駅の手前の京成金町駅直前の踏み切りを一行が渡った時おばさんが思い出したように語る。
「この線路の両側に空襲後に焼死体がズラーッと並べられてね、私も近所の可愛がってくれたおじさんを見つけちまって」
「ええ?」
 あゆがショックを受け踏み切りで立ち止まる。あゆの母が睨む。それを見られない様に父が摺り足でブロックする。警報がカンカンと鳴り始めあゆは再び歩み始める。
「おじさんの周りの人は手足が縮こまった遺体だったけどおじさんは何故か手足が伸びていてまるで眠っていたようだったよ、丸焼けだったけど」
「生きながら焼かれると熱く痛く苦しいので縮こまるというか丸まる傾向がある、おそらくその方は煙を吸って意識がなくなってから焼かれたと思われる」
 不意にサヨリが恐ろしい事を淡々と言う。妻の顔を想像すると見られないあゆの父である。
「そうかい、まだマシかねぇ……」
「サヨリは戦場で見てきたの?」
「わが国は何処とも交戦状態には無い、ただ警察軍に居たので色々見てはいる」
「あなたがいくつの、何歳の時の話?」
 あゆの母が案外落ち着いて尋ねる。むしろ父の方が動揺している。
「私は10歳からウルトラライトプレーンで小さな島を回って緊急物資を運び病人怪我人を運びパトロールをしてきた軍属」
「そんな小さい頃から? 学校は?」
 あゆの母がサヨリの肩を抱く。
「空を飛ぶのは女の仕事、小さければその分、荷物を載せられる。仕事は放課後の話」
 サヨリは微かに香るあゆと同じ柑橘系コロンをあゆの母に認めた。