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秋風

アキバ系評論・創作

超軽量動力機

2012-09-01 19:58:04 | Weblog

ウルトラライトプレーン(ULP)、マイクロライトプレーン(MLP)とか呼び名は色々ありますが
要は最低限度のエンジンや機材で飛行する機械、飛行機ですね。

台風が心配ですが日本の沖縄のような台風の通り道ではない
台風の生まれるところではそう心配する必要はありません。
普通に嵐は起きますから油断大敵ですが。

島嶼首相国連邦ではサヨリのように適性の有る女児は10歳くらいから親元を離れ寮に入り、
小学校の授業が終わる放課後になりとまるでクラブ活動のようにウルトラライトプレーンの教習を受け各地に配属されます。

日本の神道や現地の精霊信仰のシャーマニー(巫女)でもあるし離れ小島の生命線でもあるので彼女達は大事にされます。

月下の舞姫Vol.18

2012-09-01 19:34:05 | Weblog
「昨夜飲み過ぎたか……」
 駐日島嶼首相国連邦大使館の在日島嶼首相国連邦大使はサヨリとあゆを見比べて思わず呻くように独りごちた。
 大使館とはいってもJR金町駅の映画フーテンの寅さんの舞台の近くにある安アパートの一室である。
 それは彼にとっての真の母国語である日本語だったのでその場に居合わせた全員に丸聞こえ丸解りだった。

 職員は老大使ひとりに外交官(見習い)の若い日系男性ひとり。彼の奥さんも来日しているが日本語が話せないので毎日日本語学校に通っているそうでそこは居なかった。
 他に現地職員というかパートのおばさん達が数人居るがどう見ても外交の仕事というよりは老人介護状態である。
 来訪者はあゆ、あゆの両親、弁護士そしてサヨリである。
 大使の独り言は失礼なものであったがさもありなんというか、あゆとサヨリは良く似た姉妹のようなので皆苦笑するばかりである。
 ひとりサヨリだけが無表情で直立不動の気を付けの姿勢を保っていた。

「この度は大使の格別なる、」
「ああ、ああ、いい、いい。堅苦しいのはいい」
 挨拶途中のあゆの父親の口上を遮り好々爺然とした老大使は大使の執務室で大儀そうにネクタイを緩めた。
「先代大使が若いくせに急病で倒れてしまい(公務員を)引退したワシが引っ張り出された。(日本の)先祖の墓に生きているうちにまたお参りが出来たのは良かったが気を抜いているとこっちがお墓に吸い込まれそうだ」
「おじい、あ、いえ大使さん本当にありがとうございました」
 あゆがぺこりとお辞儀をする。
「おじいさんでいいよ、もう91歳だ。皆、死んじまった。親も兄弟も親戚も友達も皆……近い肉親は内地の空襲で死んだ。友達の半分は外地で戦死した。実家はこの辺の下町で空襲が酷かった……だから怪我が治っても島(島嶼首相国連邦)から日本に帰る気にならなくてな。その上、士官は戦犯として全員処刑されるという噂もあって現地の娘が一族で匿うから帰るなと引き止めてくれた。その娘がその後の家内でな。それももうの墓の中だだからこっちでは死ねない、早く島に帰ってやらないと」
 老大使はお土産のマドレーヌをお茶うけに日本茶(紅茶ではない)をゆっくりと口にする。パートのおばさんの一人が横にぴったり張り付いて雑巾を握ったままスタンバイしている。見ようによっては介護の振りした護衛にも見えなくもない。撃たれても刺されても簡単には倒れそうに無い下町の女丈夫だ。
 大使は年齢の割りに一応健康だが手が震えて手元が覚束ない様子で見ていてハラハラする。
(イイハナシダナーとは思うが大使としてはそれはどうなんだ? 最近は地下資源貿易で忙しいだろうに)
 あゆの父はにこやかに頷きながら内心ちょっと呆れながらお茶を啜る。さすがに旨い。やはり大使館、最高級茶葉を使っているなと感心する。

「大使、よろしいですか?」
「ああ、おかわりならいくらでも遠慮するな」
 大使自ら大きな急須を持つが重たそうなので横のおばさんが「こぼすこぼす」言ってもぎ取りサヨリの湯飲みにとても高い位置から片手で無造作にじょぼじょぼ注ぐ。ちょっとした職人芸だ。
「アリガトウゴザイマス」
 サヨリが無表情に応える。憮然としないよう気を使っているのが伝わってくる。
(動揺している。しっかりしているようでまだまだ子供だな)
 秋月夫婦が何故かホッとする。特に母が。
「サヨリ アキヅキ准尉はいい子なんだがこうお固いんだよ、憲兵を思い出す」
「憲兵か、私のお爺さんもよく怒鳴られビンタされたとか」
 弁護士が祖父を偲び自分の頬をさする。
「海軍特別陸戦隊特殊航空班に配属される前は憲兵軍の航空軍族でありました」
「ああ、ああ、そうだったな空飛ぶ郵便屋さんだったな本当にご苦労さんだよ」
 あゆが興味津々で何か尋ねるかと思いきやにこにこしているだけなので後でゆっくり聞くかと父は考え、大使も身体が大変そうなので一行は大使館を後にした。

 食材の材料の買出しがてらパートのおばさんが駅まで送ってくれる。話好きな陽気なおばさんというか若く見えるお婆さんだ。
 昭和20年春、当時5歳だったそのおばさんは出征兵士を駅で大勢で見送る場面を覚えているという。あゆが笑顔で当時の事を色々聞く。
 JR金町駅の手前の京成金町駅直前の踏み切りを一行が渡った時おばさんが思い出したように語る。
「この線路の両側に空襲後に焼死体がズラーッと並べられてね、私も近所の可愛がってくれたおじさんを見つけちまって」
「ええ?」
 あゆがショックを受け踏み切りで立ち止まる。あゆの母が睨む。それを見られない様に父が摺り足でブロックする。警報がカンカンと鳴り始めあゆは再び歩み始める。
「おじさんの周りの人は手足が縮こまった遺体だったけどおじさんは何故か手足が伸びていてまるで眠っていたようだったよ、丸焼けだったけど」
「生きながら焼かれると熱く痛く苦しいので縮こまるというか丸まる傾向がある、おそらくその方は煙を吸って意識がなくなってから焼かれたと思われる」
 不意にサヨリが恐ろしい事を淡々と言う。妻の顔を想像すると見られないあゆの父である。
「そうかい、まだマシかねぇ……」
「サヨリは戦場で見てきたの?」
「わが国は何処とも交戦状態には無い、ただ警察軍に居たので色々見てはいる」
「あなたがいくつの、何歳の時の話?」
 あゆの母が案外落ち着いて尋ねる。むしろ父の方が動揺している。
「私は10歳からウルトラライトプレーンで小さな島を回って緊急物資を運び病人怪我人を運びパトロールをしてきた軍属」
「そんな小さい頃から? 学校は?」
 あゆの母がサヨリの肩を抱く。
「空を飛ぶのは女の仕事、小さければその分、荷物を載せられる。仕事は放課後の話」
 サヨリは微かに香るあゆと同じ柑橘系コロンをあゆの母に認めた。