秋風

アキバ系評論・創作

月下の舞姫vol.8

2009-11-08 22:18:15 | Weblog
「私が強暴なら教頭先生は、」
「圧迫面接は止めていただけませんかね先生」
 不意に会議室のドアが開く。
「だっ誰だお前は!」
 教頭も分りそうなものだがとぼけているのか素なのか真顔で聞いてくる。
「当てて下さいメードカフェにご招待します」
 四十路前半のスーツ姿でいかにも生真面目な技術者風の男性が名刺入れを取り出しながら歩み寄る。
「お父さん、やだ何、恥ずかしい」
 それまでの目剣が険しかったあゆが父親の乱入で緊張が解ける。
 あゆの父親は少年漫画「コブラ」直撃世代で若い頃ならストレートにコブラの台詞、
『当ててみろ、ハワイへご招待するぜ』と言ったと思われる。
「私は……」
 あゆの父親が名刺を取り出しかける。何故か年相応立場相応ではない無印良品のアルミケースである。
「メードカフェの店長か?」
 この教頭先生は大丈夫かしら?とあゆの父親を除く一同が心の中で呆れる。

 あゆは教室内の騒ぎの直後素早く父親の携帯電話に連絡を入れていた。
 その様子は騒ぎを聞きつけて隣に教室から駆け付けた正担任もチラッとは見ていたが暴れる男子生徒を取り押さえるので精一杯だったので今の今まで忘れていた。
 双方、特に女の子のあゆに怪我は無かったので親への連絡はこの最初の事情聴取の直後にしようと思っていただけに先手を取られたのは対面上失策だったと正担任は思わず心の中で舌打ちをする。

その後、本来案内するはずだった先生と共に弁護士も会議室に入って来る。
 二人揃って同じポーズでメタボのお腹を揺らし息が上がっている。
「生き別れの兄弟か?」
 あゆの父親が小声でひとりごちる。耳のいいあゆが思わずふきだす。
 その弁護士はあゆの父親の商売上のパートナーで専門は貿易関係だがやはり弁護士バッチがものをいい、また遅れて来た校長も法曹関係者との直接対決は避けたがりあゆはお咎め無しで開放される。
 帰り掛けに入れ違うように男子生徒の母親らしき人が飛び込んで来る。
 危うくあゆと接触しそうになるが、ひらりとかわしぶつかるようなあゆではない。
「あのおばさん、私の事、まったく見えて無かったね?」
「そうだ視野狭窄だな。今の件はともかく息子の刃傷いや刃物沙汰の件でちょっと言いたかったが明日にしてくれと校長に頭を下げられてはな」
 あゆの父親は胸からスマートホン(携帯電話兼電子手帳のようなもの)を取り出し録音を停めた。

「なぁ、あゆ」
「何?」
 父親の真剣な顔にあゆは小競り合いを咎められるのかと思い身構える。
「お父さん、格好よかったろ?」
「……そうね、コブラならぬマムシ?」
「毒蝮三太夫は勘弁してくれウルトラシリーズのキレンジャーだよ」





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