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日ロ交渉は大博打。
3つの賭けに負ければ、北方領土は返らず日米関係まで険悪に
2018年11月19日 19:07
14日の日ロ首脳会談で、両国は領土問題の解決に向けて平和条約交渉を加速させることで合意しました。これは安倍政権にとっても日本にとっても、大博打です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2018年11月16日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
平和条約締結に立ちはだかる3つの壁。失敗なら安倍政策も窮地に
平和条約交渉加速で合意
ロシアのペスコフ大統領報道官によると、安倍総理とロシアのプーチン大統領は14日、アセアン会合が開かれているシンガポールで首脳会談を開き、領土問題の解決に向けて、平和条約交渉を加速させることで合意したと述べました。
これを受けて、日本の菅官房長官も15日午前の会見で、14日の日ロ首脳会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に、つまり「平和条約締結後に、歯舞・色丹の2島を日本に引き渡す」との前提で平和条約締結交渉を加速させることで合意したとの認識を示し、これを前向きに評価しました。
もっとも、官房長官はあくまで4島一括返還を求める日本の姿勢に変化はないとしています。
安倍総理には起死回生策にも
これには伏線がありました。先のウラジオストックでの共同会見の場で、安倍総理が記者席に向かって日ロ平和条約締結に向けて応援を求めたのを受けて、プーチン大統領が即座に「今頭にひらめいたのだが、年末までに何の前提もつけずに平和条約を結びましょう。すべてはそれからだ」と返されました。安倍総理は笑顔でしたが、永田町はパニックになりました。
北方領土問題はさておいて、先に平和条約を結ぶということは、その時点で両国の国境は確定するわけで、もはや領土問題は存在せず、北方領土の返還交渉はできなくなることを意味するからです。いわば、公衆の面前で安倍総理に泥をかけられたプーチン大統領が、仕返しに安倍総理の頭近くに「ビーンボール(反則投球)」を投げてきたようなものです。
そこまでの認識がなかった安倍総理はニコニコしていましたが、菅官房長官以下、自民党幹部は即座に日本の立場を確認し、火消しに躍起となりました。
それでも、かつてプーチン大統領は1956年の日ソ共同宣言に沿った解決をと言っていたので、平和条約締結後に、歯舞・色丹の2島を返還してもらうことに賭け、交渉を進めることになったようです。
日本の立場はあくまで北方4島一括返還となっていますが、これはかつて米国に横やりを入れられたことによる認識で、本音は2島返還で御の字のはずです。従って、懸案の日ロ平和条約を締結し、そのあとに歯舞・色丹の2島を返還してもらえれば、安倍政権にとっては、数少ない「成果」となり、苦境にあえぐ安倍政権には「起死回生策」となると期待されています。
「日米安全保障条約」が邪魔をする?
しかし、56年共同宣言に依拠した返還交渉には、これを阻む3つの壁があります。
1つは、日米安全保障条約の壁です。日米間には、正確に言えば日本政府と米軍との間には日米安保条約に関わる「密約」があって、米軍は日本国内のどこでも軍事行動を起こすことができ、日本政府はこれを拒否することができません。米国政府幹部でさえ知らず、その存在に驚くほどの代物です。
このために、北方領土が日本に返還されると、米軍は原則、北方領土で軍事活動を起こすことができ、そこに米軍基地を置くこともできます。日本政府は口出しできません。北方4島に米軍基地を設置すれば、ロシアにとっては大きな脅威となり、これは許容できないはずです。
結局、北方領土の返還に当たっては、ロシアからすれば、米軍が基地もおかず、軍事行動を起こさないことが前提となります。
このため、日ロ平和条約締結には、現行の日米安保、およびその密約のもとでは、米軍の存在がネックになり、米軍の了解をとるか、日米安保を破棄するかしないと交渉が進まないことになります。
ただし、この壁が100%突破できないわけでもありません。トランプ大統領とプーチン大統領との間には安倍・トランプ以上の信頼関係があり、この壁を取り除けるチャンスはあります。
例えば、トランプ氏は在韓米軍に続いて在日米軍もいずれ引き揚げるつもりでいます。そうであれば米軍基地、軍事行動もいずれ問題がなくなります。問題はむしろ米軍が引き揚げた時の日本自身の防衛をどうするかです。
それと、歯舞・色丹の2島の場合、島が小さいために米軍基地を置く余地はありません。国後・択捉島の場合は十分な基地予定地はとれるので問題になりますが、歯舞・色丹のみならば、この問題は回避できる可能性があります。
プーチン大統領の御家事情
第2の壁は、プーチン大統領が了解しても、モスクワがこれを認めない可能性があることです。
北方領土問題解決には、相手がプーチン大統領の間に行うのが得策であるのは確かですが、最近のモスクワではそのプーチン大統領に対する反発も高まり、北方領土の返還に国民や議会が納得する可能性は極めて低いと考えられます。
しかも、歯舞・色丹にしても、日本人が居住しているわけではなく、むしろロシアがすでに実効支配しています。領土を日本に返還しても、ロシア人に出てゆけとは言えない状況になっています。
またプーチン大統領も、単なる日本びいきのお人よしではありません。KGB上がりの策士です。自分の立場を危うくしてまで日本のために領土返還するとも考えにくいところがあります。
56年共同宣言は絶対か
最後に、そもそも56年の日ソ共同宣言が絶対的なものなのか、という問題があります。
当時ここまで話が進みながら、その先に行けなかった裏には、米国の横やりがあっただけではなく、この共同宣言自体にあいまいなところがあり、これを盾に進むことができなかった面も否定できません。どこまでこれに信頼を置けるのか、これも賭けとなります。
失敗すれば政権が倒れる
一見起死回生策のような「蜜のにおい」がしても、細心の注意が必要です。
外交戦略の上では、簡単に操れる人物ではなく、平和条約にこぎつけても領土返還がかなわない事態も想定されます。その場合は、恐らくトランプ・プーチン連合に見放された可能性があり、安倍政権は立ちいかなくなります。
安倍総理としては、政権の座をかけて十分な戦略のもとに交渉を進める必要があり、危ないと感じれば、即座に交渉を取りやめ、引き返す胆力も必要です。
一人の失敗で国富を失うわけにはいきません。
https://blogos.com/article/339787/
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■ 2009年7月9日
「我が郷は足日木の垂水のほとり」 はじめました。
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■ 2010年3月2日
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