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岸田政権の「看護師・介護士の年収アップ」

2021年10月06日 07時02分00秒 | 保管記事


 

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岸田政権の「看護師・介護士の年収アップ」

政策、その 「驚きの効果」 と 「実行可能性」

    2021 10 06  () 7:02 配信

   2021 10 06 岸田政権の「看護師・介護士の年収アップ」【保管記事】

 10月4日に招集された臨時国会で首班指名が行われ、岸田文雄内閣がスタートした。岸田氏は「新しい日本型資本主義」を構築するとして、所得の再分配を経済政策の基本に据える方針を訴えてきた。所得再分配は今の日本経済にとって重要なテーマであり、方向性そのものを否定する人は少ないだろう。だが岸田氏は具体策や財源の詳細を示しておらず、所得格差是正の原資をどこに求めるのか議論となりそうだ。

目玉は看護師・介護士の年収アップ
 岸田氏は自らの分配政策について、「下請けいじめゼロ」「住居費・教育費支援」「公的価格の抜本的見直し」「単年度主義の弊害是正」という4つの方針を提示した。このうち「下請けいじめゼロ」については、すでに下請法の改正などが行われていることに加え、政策集でも「3方良し」の経営を企業に要請するという曖昧な内容しか記されておらず、政策とまでは言えない部分がある。同様に単年度主義の弊害是正についても、複数年度の予算要求については国庫債務負担行為という制度がすでに存在しており、新政権の目玉政策になるようなものではない。

 そうなると分配策の中核となるのは、子育て世代の住居費・教育費の支援と看護師や介護士など公的な職業の賃金見直しの2つだろう。もっとも教育費についても、以前の政権で大学無償化など各種支援策が立案されてきたことを考えると岸田内閣特有の政策とは言えない。今のところ看護師や介護士などの賃金アップが目玉政策ということになる。

 岸田氏は「公的価格評価検討委員会(仮称)」を設置し、看護師や介護士などの賃金を抜本的に見直すとしている。介護士や看護師の年収が増えれば、その分だけ消費が喚起されるのは間違いなく、実現すれば相応の効果が得られるだろう。だが、こうした業務に従事する人の年収を増やすためには、公的な財源の確保が必須となる。岸田氏は今のところ詳細な財源については触れておらず、議論はこれからというのが現実だ。

 では仮に看護士や介護士の年収を増やした場合、どの程度の効果が期待でき、財源はどう手当てすればよいのだろうか。現在、日本国内では約160万人の看護師・准看護師が業務に従事している。看護師や准看護師の平均年収などから単純計算すると年収が1割アップした場合、6000億円ほど所得が増加する。

 介護士はさらに人数が多く約180万人が従事しているが、こちらも年収を1割増やすと5400億円程度の所得増加となる。看護師と介護士の両者を合わせると1兆1400億円の経済効果が見込める計算になる。岸田氏は幼稚園教諭や保育士などについても言及しているので、こうした職業も含めれば2兆円程度の所得増加となる可能性が高い。

消費増税の選択肢はない
〔PHOTO〕iStock

 これは単発ではなく、毎年継続する効果なので、経済に対して地味ではあるが底上げ効果が見込めるだろう。一方で、これらの職業は公的なものであり、賃金を上げるためには財源が必要となる。しかも、この支出は半永久的に続くので、国債増発といった一時的な財源には頼りにくい。何らかの形で歳入を増やし、それを充当するしか方法はない。

 看護師の給料は基本的には医療保険制度から出ているし、介護士は介護保険制度なので、年収を上げるためには、各制度の中で検討する必要があり、作業は容易ではない。ここでは話をシンプルにするため、基本的に一般会計から財源を手当てすると仮定して議論を進めていく。

 看護師と介護士の年収を1割増やすためには約1兆2000億円、他の職業も含める場合には2兆円近くの恒久財源を確保する必要がある。これだけの恒久財源を捻出できる項目はそれほど多くない。他の予算項目を大幅に削減することは不可能なので、基本的には増税(あるいは税以外の形での負担増)を検討せざるを得ないだろう。

 岸田氏はこれまで明確な財源を示してこなかったが、首相就任当日の記者会見では、株式の売却や配当などにかかる金融所得課税の増税について「考える必要があるのではないか」と述べ、検討を進める方針を明らかにした。現在、株式の譲渡益や配当については一律で20%となっているが、この税率を上げて税収を増やそうという目論見である。一般的に配当収入や譲渡収入があるのは富裕層が中心なので、これは富裕層課税強化の一環と考えてよい。

 だが、株式や債券などを大量に保有し、そこから高額収入を得ている人は限られる。仮に譲渡益や配当に対する課税をすべて30%に増税すれば1~2兆円程度の税収を確保できる可能性があるが(一定の仮定を置いた筆者による試算)、金融所得に課税すれば株価に大きな影響が出る。加えて、一部の株式保有者が海外に資産を移したり、株式を売却しない形式での資金調達に変更する可能性もあるので、実際に得られる金額はもっと少なくなるだろう。しかも、景気や株価に大きく左右されるため税収は不安定になりがちだ。

 安定的な恒久財源として候補に挙がるのはやはり消費税だが、岸田氏は当分の間、消費税の増税はしないと明言している。加えて今の政治情勢において消費増税を持ち出すことはほぼ不可能に近いので、消費税に手を付けるという選択肢は消える。ちなみに2兆円の財源を捻出するには消費税を1%上げる必要が出てくるので、国民は11%の消費税を負担しなければならない。

 次に候補となるのは法人税だろう。実は安倍政権は財界からの強い要請を受けて在任期間中に3度も法人減税を行っており、以前は30%だった法人税率は23.2%まで低下している。加えて法人税の一部を減税する優遇措置(いわゆる租税特別措置)の適用によって、大企業を中心に相当な法人税が免除あるいは軽減されている。

 安倍政権が実施した量的緩和策は、大量のマネーを市場に供給してインフレ期待を醸成し、実質金利を引き下げて設備投資の拡大を狙う政策だったが、企業は設備投資を増やすどころかむしろ内部留保を増やす結果となった。

安倍政権では法人減税を繰り返した
 企業が内部留保を増やしているのは、日本経済の先行きに悲観的で投資を控えていることに加え、度重なる減税によって最終的に獲得できる現金が増えたからである。

 業績が順調に拡大し、付加価値が高まった結果として最終利益が増えた場合、企業はそのキャッシュを惜しみなく次の設備投資に充当する。だが業績が低迷する中、減税によって手元の現金が増えた状況では、先行投資は行わない。今の日本企業は減税によってゲタを履かせた好業績であり、本来の意味での業績拡大とは言い難いのだ。

 一時期、安倍政権は企業の内部留保増大を批判し、積極的に投資に回すよう求めたことがあったが、内部留保増大はむしろアベノミクスによってもたらされたものであり、企業に対する批判は少し論点がズレているといってよいだろう。

 仮に安倍政権下で行われた法人減税を元の状態に戻した場合、大雑把な計算では1兆3000億円ほど税収増が見込める。また、先ほど述べた優遇税制の対象となっている所得金額は3.8兆円に達する。しかも、こうした優遇税制の恩恵を受けている企業の大半が資本金100億円以上の超巨大企業である。

 優遇税制は研究開発の促進など、国益上必要なものもあるが、一度、適用を受けたものが利権化し、長期間、継続しているケースも少なくない。優遇税制の見直しを本格的に進めれば、さらに1兆円程度の財源捻出も不可能ではない。そうなると、消費税を1%増税したことと同じ効果が得られる。ただ、法人増税と優遇税制の見直しを進めた場合、経済界から猛反発の声が出るのは必至であり、消費増税ほどではないかもしれないが、実現のハードルは高い。

派閥相乗り政権の限界を超えられるか
 ここでは一般会計から負担すると仮定して議論を進めたが、より本格的に対応する場合には、医療保険制度や介護保険制度を改革し、保険料率を上げるという選択肢も出てくるだろう。いずれにせよ、国民に相応の追加負担を求めることに変わりはなく、保険料率の引き上げを検討すれば、やはり一部の国民からは反対の声が上がる。

 公的な賃金を見直すとなれば、財源が必要であり、そこには必ず何らかの利害関係者が存在している。こうした利害関係を調整するのが政治の役割であり、その意味では岸田政権には強い調整力と突破力が求められている。ただ、岸田政権は各派閥の相乗りで成立したという事情があり、多くの利害関係を足して2で割るような解決策しか提示しにくいという面があることは否定できない。

 岸田政権が強いリーダーシップを発揮できるのかは、公的賃金の見直しについて明確な財源を提示できるのにかかっている。ここで強い主導権を発揮できるのであれば、今後の政権運営にはかなりの期待が持てる一方、目玉政策において最初から玉虫色の方針しか示せない場合には、前途多難と言わざるを得ないだろう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5e7710a3e9ad30ba61c156c3fd07cb597098ff58?page=1

 

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