妄想と戯言2

完全自己満足なテキストblogです。更新不定期。
はじめに!を読んでください。

その心、濁すも救うもアナタ次第(魯粛+周瑜)

2017-01-12 20:33:47 | 無双シリーズ

さくまさんリクエストの魯粛殿と周瑜様のお話。短いよ!









「────と、なる訳だ。良いか、呂蒙」
「はっ。この呂 子明、周瑜殿のお言葉、しかと胸に刻みました」

とりわけ珍しくもない光景ではあった。
上の者が下の者へ教え、そして導く。かつては己でさえ、その道のりを歩いてきたというのだから問題などあってはならない。
そう、例えばそれが未来へ繋ぐための襷のような物だとして。その襷を俺は彼から受け取り、今度は俺が、その役目を成さねばならないというのに。

己の中の小さな感情が疼き始めていると確信を持った頃、難しい顔で書簡を睨み付けていた弟子と、そして、それを懐かしむように瞳を細めていた、俺が師として仰いだ端正な横顔が、不意にこちらへと向けられた。気付くが早いか、まずは弟子である呂蒙が俺に頭を下げる。それには頷いてだけ返し、呂蒙の隣で微笑む男へと向き直り手を合わせて挨拶を済ませた。

「魯粛殿!」
「ああ。いつになく勉強熱心だな、呂蒙よ。周瑜殿も、こやつに物事を学ばせるにはさぞ骨が折れた事でしょう」
「そ、それは…否定は出来ませんが…」
「フフ、そうでもないさ魯粛。才能とは物分かりの良さではなく、その探究心にある。キミは良き弟子を持ったのだな」

さらり、と溶けるように美しい髪が揺れる。その隙間から除く顔が、一層優しく微笑んだ。あの周瑜殿に誉められたことに気を良くしたのか、普段はしかめ面ばかり浮かべる呂蒙でさえも、つられて笑顔になっている。よくもまあ簡単に言えたものだ。「良き弟子」などと。

芽生えた濁りが渦巻きを深くし、目の前に広がる「当たり前の風景」にさえ疎ましい色が掛かってしまう。

未熟な弟子の顔つきが締まることはない。微笑む美しい横顔が此方に向くことも然り、だ。未だに周瑜殿への質問が尽きぬのであろう、書簡を広げる男の名を呼ぶ。なんでしょう!と顔を輝かせたのも束の間。

「日々精進せよ、お前はまだ甘い」

ハッといつものしかめ面に戻った呂蒙は、短い返事の後、鍛練があるからとその場を急いで去ってしまった。




「…浮かない顔だな?」

呂蒙を見送った直後、軍議へ向かう途中の廊下に響いたその言葉は、悪戯に俺の動揺を誘いだした。いつもならば軽口のひとつでも返すところだが。

「はて、俺の事ですかな?」
「フフ。キミも存外、イヤらしい男に育ったな」
「…返す言葉もありませんな」
「ははは!今のは褒めたのだ、魯粛よ。軍師たるもの、その性格は称えられるべきだ」

そう思うだろう、と言葉にはしなくとも、数歩先を行く偉大な背中から全てが伝わってきてしまう。おそらく本心なのだろうが。今の俺には何を言われようとも、全てが影を引いてしまうのだ。

「何を意地悪することがあるんだ」
「意地悪、でしたか?」
「褒めて伸ばしてやる事は基本だろう」
「ほう…それは可笑しいですな」
「…と、言うと?」
「周瑜殿の仰る事が本当ならば、どうにも俺は褒めて伸ばされた記憶だけが抜け落ちてしまったようだ」

少し大袈裟に、天を仰ぐような仕草で返せば、振り返った周瑜殿が一瞬だけ呆けた顔で此方を直視した。しかし、すぐ俺に向き直ったったかと思えば、次はくつくつと、堪えるでもなく豪快に肩を揺らしている。

「そうか、魯粛。そう言うことか。どうにも私は勘違いをしていたらしい!」
「……」
「ははは、安心するといい!」

宥めるように、その優しげに細められた瞳に見上げられる。気づかれたとて、今更な感情ではあるが…どこか居心地の悪さと、呂蒙に対する幾らかばかりの罪悪感とに自然と肩を竦めていた俺を、やはり笑い飛ばして彼は続けた。

「私は弟子一筋だ。その可愛い弟子の、次の後継者を甘やかしてしまう気持ちを許してくれ、魯粛」

言われ、流石に言葉に詰まる。今度は俺が呆けた顔をしてしまっているだろうが、幸いにも薄暗い廊下では背丈のあるほうが表情は見えにくい。先ほどまで心を支配していた濁りは微塵も見当たらず、案外単純な己に呆れ返る暇もなく。
さあ行くぞ、と響いた優しい声に、やはり敵わないと今度こそ大袈裟に、天を仰いだのだった。





おわり!

誰だって、大好きな尊敬する師匠を取られたくはないはず、と思い書きました。どちらかというとブロマンス的なイメージの二人。

リクエストありがとうございました!


お粗末さまでした!

関羽×呂蒙

2017-01-12 19:55:17 | 無双シリーズ
ついったで呟いたネタから。
※いたしてる表現あります。












牢から覗く微かな月明かりだけが、その男の乱れた姿を映し出す唯一の光だった。
けっして広くはないその部屋には、両の手を後ろに縛られうつ伏せに寝かされた男と、それを後ろから覆い被さるように犯す男。組み敷かれた男の露になった背中にはポツリ、ポツリと汗が浮んでいる。そしてよく見ずともわかる程に、男の身体は生新しい傷に包まれていた。何が、あったかなどとは聞かずとも伺えた。
ざんばらに広がった髪は男の顔を隠しているが、時折、唸るような声を漏らすその唇には血の赤色が滲んでいる。表情は見えずとも、その顔がどのように歪んでいるかなど、組み敷く男、関羽にとっては、想像するも容易いことだった。

「まだ、答えぬか」

ゆっくりと、だが確実に責めたてる。揺さぶられる背中には鞭で打たれた痕が赤黒く浮んでいる。その痛々しい背中にもう一度、次は言い聞かせるように、答えぬか、と問いかけたが、浅い呼吸を繰り返していた男は、震える肩越しに関羽をにらみ付けただけだ。その挑発的ともとれる様子に、スゥっと関羽の瞳から色が消えた。そしてより激しく、男を犯す。
二人の間に情などは存在しない。ましてや、互いに引くことなど考えもしない。ただただ、その行為を繰り返すだけだ。

男は知勇を兼ね備えたと名高きウワサの、敵国の将だった。捕らえ、拷問し、情報を得ようとしていた、はずだった。
何故、と関羽は考える。しかし答えは出ない。いや、そもそも、そんなものは在りえないのかもしれない。幸いにも、二人を見つめる唯一の存在は格子から覗く月だけだ。言い訳などは必要ない。

「…命を奪うことまでは命じられておらぬ。しかし呂蒙よ、与えられた刻までは、貴殿の命はそれがしが握っているのだ。もうしばらく付きおうてもらうぞ」
「ぐっ…な、にをっ、馬鹿な事を!」
「ほう……馬鹿とは?」
「っ、貴様のッ、あの義兄がここまでを望み、そして貴様のこの行動を許すとでも思っているのか!…それを『命じられた』などと、戯言を、ッ!」

男が言い終えると同時、鈍い痛みが背中を襲った。その晴れ上がった背中には真新しい歯形の痕が増えている。

「関羽っ、きさまっ!!」

油断していた刺激に、男は背を丸めその痛みをやり過ごそうとしたが、より一層、深く腰を進められ思わず首を仰け反らせてしまう。
痛みと、敗北感、そして言い表すことの出来ない感情がこみ上げた。それでも男が堕ちることはない。ギラギラと、獣のように鋭い眼光で関羽をにらみ続けている。

「うっ…あ、あ!」
「呂蒙っ、」
「あっ、か、関羽!貴様は必ず……!!」
「ああ、そうだな…だが、刻がくるその時まではっ」
「…ッ!!」

男の肩が大きく跳ねた。同時に、関羽は男の腰を掴み、深く、自身を埋め込んだ。下腹部に注がれたその熱い感覚に吐き気さえ覚える。快楽などはあるはずがない。己を犯すこの男の意図が読めない今、屈辱に耐えるしか、男に逃げ道はない。ただただ、刻が過ぎることを願う。
そんな男の背を見下ろしながら、関羽は小さく息を吐いた。急ぐことはない、明日の日出までは、と。


まるで互いの心など分かろうともしないその愚行を嘲笑うかのように、牢を照らしていた月は東の暗闇へと吸い込まれていった。










オチなんてないよ勢いで書いたからね!
どっちかといえば関羽→呂蒙さん。

お粗末さまでした。

それはまるで、杯に浮かぶ月のように(魯粛×呂蒙)

2017-01-12 19:53:17 | 無双シリーズ




急ぐ必要はない。そう言ったはずのアナタが取ってきた行動のどれを思い返しても、その言葉を理解することなどオレには到底無理だった。それでもこうして共に歩むうち、その答えなど、とうに...





「どうした、呂蒙」

疲れたか。そこまで続いた言葉によって、ぼんやりと一点だけを見つめていた己に気づき、ハッと顔を上げた。
先ほどまでの心地良い騒音は遠くに響き、雲から覗く月明かりがぼんやりと、隣に座る男の顔を映し出す。声こそは出さないが明らかに楽しげな笑みを浮かべている。

「戻るか。それとも部屋で休むか?」
「いえ、平気です」
「そうか。だが、呑むのはこれで終いにしよう。明日の軍議に響いては話しにならんからな」
「はい...魯粛殿」

差し出された杯を受け取る。いっぱいまで注がれた酒には月が入り込み、この質素な庭園に趣を造り出す。
遠くからは男たちの笑い声が響いている。まだ続くのであろう宴は盛り下がる気配もない。
ぐいっと杯を傾ける。魯粛殿も同じようにそれを飲み干していく。おそらく互いに、抜け出したことを後悔はしないだろう。

「魯粛殿」
「ああ、なんだ?」
「...聡いアナタのことです。オレの考えなど、とうにお見通しでしょう」
「......」
「アナタが違うと言うのならば、恐らく、そうなのでしょうな」
「......」
「だが、この想いは.....ああ、いや、違うのです魯粛殿。オレはアナタを尊敬している...尊敬、しているからこそ...」

酒のせいか、伝えたいと思うことは山ほどあるというのに。だらだらと溢れる言葉は、己の意思とは真逆の意味を繋いでしまう。
俯くオレに魯粛殿の表情は分からない。ただただ静かに、オレの言葉を受け止めている。込み上げてしまったこの気持ちをどう吐き出せばよいのか。ふと、目頭が熱く動いた。

「魯粛殿、オレは...言葉遊びに興じる気など、微塵も...」

ないのです、と続けようと声を絞り出したその瞬間、杯に浮かび揺れていた月が一瞬、その姿を隠してしまった。何が起きたかなど理解できないほどに、そこに落とされたものが誰の涙か、など。
泣いてしまったことに気づいたのか、はたまた偶然のような頃合いで肩を掴まれ、顔を覗き込まれる。魯粛殿の瞳には情けない顔をした己が写りこんでいた。互いの視線が嫌でも交わるこの距離は、段々と危うい感情を呼び起こしていく。呂蒙、と先を促す低い声が鼓膜に響いた。

「...アナタは以前、答えを急ぐ必要はないと、仰いましたな」
「ああ...」
「いつ尽きるやも知れんこの時代を生きるオレたちに、その言葉は一番アナタらしくないと、あの日から常に考えておりました...」
「......」
「逃げたのはどちらでしょうな、魯粛殿」

少し、生ぬるい風が吹いた。酒によって火照った身体には居心地が悪い。
この、宴会場から離れた庭園を選んだのは魯粛殿だった。風通りが良いわけでもなく、ただ月がよく見えるから、と。
抜け出すことを提案された時には覚悟を決めていた。それはおそらく...いや、魯粛殿とて同じはずだった。逃げることで楽にはならない。かと言って、進むわけもないのだ。
じろりとその顔を見上げれば、いつもの笑みが真剣なものに変わる。そして先ほどよりも低く、唸るように、呂蒙と。

「...その先はおそらく、互いを狂わせる選択になるやもしれんのだぞ」
「フッ...今さらですな」
「...泣いたと思えば次は笑うか」
「いいえ、違うのです魯粛殿。オレたちは......最初から、終わることを恐れてさえいなければ...始まってもいないことを、恐れてさえいなければ...」

自然と、互いに手を掴み合う。

「...良いのだな、呂蒙」
「...アナタこそ」

見上げた瞳が大きく揺れる。覚悟と、後悔と、見出だしてしまった答えと。全てを今吐き出すかのように、自然と、互いの唇を引き寄せ合った。深く求めるように頭を押さえつけられる。
荒い呼吸と鋭い視線を交わしながら何度かその行為を繰り返し、ようやく離れてもなお、視線だけはまるで睨み合うかのように離れない。
いつの間にか側で転がっていた杯に、こぼれてしまったであろう酒と、あの危うい月を思い浮かべる。

「熱いな、」
「...酒のせいでしょう」
「フッ...」


そうしてまた、月夜に浮かぶ二人の影が重なった。










みたいな粛蒙がみたいなーって(笑)
お粗末さまでした!

夜明けに泣く(魯粛×呂蒙)

2017-01-12 19:48:27 | 無双シリーズ


泣くとかタイトルにつけたけどまったく悲しいお話とかじゃない魯粛×呂蒙。短いよ!










「...正気ですか」

普段のしかめっ面をより一層、険しくした目前の男からの問いに頷いてだけ返すと、まるで信じ難いものでも見ているような顔でもう一度、次は口調を強くして同じ問いを繰り返した。
少し涼しくなったからと、酒を理由に呼び出したのはいつ頃だったか。結局は用意した肴にも手をつけることなく、このようなやり取りを繰り返すだけだ。

「何度も言わせるな」
「し、しかし魯粛殿...これはあまりにも...」
「ならばおまえは、オレを抱くことが出来るか?」
「......」
「観念することだ。なに、悪いようにはせんさ」
「いえ、その...ですが、」
「何だ、歯切れの悪い...よもや臆したとでも言うまいな、呂蒙」
「そのような言い方は止めてくだされ!」

向かい合うように座るオレたちの直ぐ横には寝台と、所謂そういう事に使うための生々しい道具が並べてある。
用意したのはオレだが、昨日今日の話しではない。目の前で目を泳がせるこの男と想いを確かめ合ったその時より、準備はいつでも万全だった。だと言うのにオレたちは、それをどちらに使うのか、等という初歩でつまづき合う始末。
男同士だ、抵抗はあるだろう。しかし、先ほどから言葉を濁し続ける呂蒙の意図がいまいち理解できないでいる。
怖い、というわけでも無さそうだ。ではやはり、想いと欲情は別だと、そういう事なのだろうか。

「...オレはな、この際、情を交わすか否かは、どちらでもよいと思っている。だが今のおまえのように煮え切らない態度をとられてしまっては、未練も残るというものだ...おまえの気持ちに嘘偽りはないのだろう?」

とりあえずは本心を探るためにと発した言葉だったが、誠実なこの男には幾分かの動揺を与えたようで、腰かけていた椅子を倒すほどの勢いで立ち上がりオレを睨み付けてくる。
まるで、探ろうとしていたオレの内心を見透かしたようなその様子に、この男も成長したものだ、とどこか他人事のように思えてならなかった。当事者だというのに、おかしな話しだ。
微かに震える拳を握り締めたのを横目に、まさか殴るつもりか...と、この男の堪忍袋をそこまで刺激してしまった己を浅はかだと悔やむ。普段は軍師だ策士だと頼られる存在だというのに、この男の前だと、どうにも答えを焦る癖があるらしい。
事が起こる前に謝罪してしまおうと、とりあえずは落ち着かせるために立ち上がる。同時に見上げてきた瞳には、羞恥の色が浮かびあがっていた。

「魯粛殿、アナタは今、勘違いをしている!オレにも欲はあります。だが、相手がアナタとなれば話しは別です!」
「ああ、呂蒙、すまなかった、オレはそういうつもりで言ったのでは......うん?」
「オレはアナタをお慕いしているのです!それを、此のような行為などしてしまっては...余計にアナタのことを......」

そう言ったあと、ハッとした顔でオレを見つめ返してくる。わざとらしく片眉を上げて返してみせれば、これでもかと顔を赤らめてしまった。
自分でも何と言葉にしたのか理解していないようで、互いに無言で椅子に座り直す。また目を泳がせ始めた呂蒙と、この男の真意を整理しようと考えこむオレとの間には、妙な空気が流れていた。
なるほど、そういう事か、と内心で安堵の息を吐く。やはりどうにも、この男の前では何もかもを急ぎすぎるようだ。

「呂蒙、やはり今夜おまえを抱くことにした」
「はっ...え、は?」
「なに、心配はいらん。何も今日すぐに交わるというわけではない。こういうものは慣れることが重要なのだ。戦と同じでな」
「そ、そういう問題ではっ...」
「もう聞く耳は持たんぞ、呂蒙」

次に反論を述べようとする前に腕を掴み寝台へと誘導する。魯粛殿!と目に見えて焦る声が聞こえたが、時とて黙認することも必要なのだ。
寝台へと押し倒してみるが、もっともらしい抵抗がないところを見ると、やはりそういう事なのだろう。

「...フッ、想いが強すぎるというのも考えものだな、呂蒙よ」
「アナタはまた、そのような言い方を...!」

寝間着代わりに着ていた、薄い着物に手をかける。反射的にその腕を掴まれるが問答は無用だ。いやしかし、流石は武勇で名を馳せる将だけはある。

「...ああ、そうだ」
「っ、え...?」
「慣れろ、とは言ったが、初心は忘れるなよ、呂蒙」
「しょ、初心?なにを...」
「おまえは存外に人を惹き付けるらしい」
「......」
「油断するなということだ。他の者に身体を許すなよ」
「なっ!」




直に、夜が明ける。



















たぶんこの後、呂蒙さん泣くだろうなと思ってこのタイトルにしただけだよ意味なんてないからね。

お粗末さまでした!


初夜(魯粛×呂蒙)

2017-01-12 18:56:27 | 無双シリーズ


※この作品には性的表現が含まれています。観覧は自己責任となりますのでご注意ください。
またTwitterにてお世話になっているさくまさん(@cap_i_)の素敵すぎるイラストから、背景やセリフをお借りしている部分がご在います。もしTwitterでいいねやリプライをする場合は失礼のないよう、お願いします。

「夜明けに泣く」の続編となっていますが、読まなくても大丈夫です。














『いつもと違う空気』というものは意外にも身近に転がっているものだ。時には食事中、またある時には鍛練中。そして現に、自分がこの身をもって体験している、と呂蒙は複雑な気持ちで目前の男を見上げていた。

普段は纏められた艶のある黒髪がまるで余裕など無いと言いたげに乱れ、穏やかな声色がほんの少しだけ上擦り、いつも諭すように己を見つめるその瞳には、確かな欲望がくっきりと浮かんで見える。こうも分かりやすく主張するのが珍しくもあり、同時に呂蒙はひとつの確信を抱いた。

おそらく今夜、自分はこの男に「抱かれる」のだろう、と。




ー初夜ー



幾度かの逢瀬を繰り返すうちに交わしてきたその行為。何事にも準備が必要だ、と半ば強引に組敷かれたあの日から、どれだけの時を共に過ごしただろうか。最初こそ、羞恥からくる戸惑いや男としての威厳を崩されていく実感に何度も制止の声をあげていた。しかし慣れというものは恐ろしく、ゆっくりと丁寧な順序を踏まれたその行為。
悔しいが、と呂蒙は息を飲んだ。不安であると同時に期待している自分がいる、と。

呼び出されたのはあの日から一月程が過ぎ、月の満ち欠けが趣を感じさせるような、そんな美しい空が印象的な夜だった。曇りひとつ無い月明かりが部屋の格子戸から男たちの姿を照らしている。微かな息遣いと乱れた衣服の擦り合う音が心地よくもあり、何処か初心のように浮わついた快感が呂蒙を支配していた。

「うっ…」
「大丈夫か」
「っはい…」
「……指を増やすぞ」

ぬるり、と呂蒙の股下を撫で上げ、少しでも不安を抱かぬようにと、彼を組敷く男が優しく問いかける。はい、と震える声を絞り出し、小さく息を飲むその姿に安堵した男は、側らにあった潤滑油を取りその手に滑らせた。

いつものように、まずは受け入れる側の負担を減らすためにと解すように動いていた指が、呂蒙の良い処を掠める。その都度、軽く腰を揺らして逃げようとする彼に、組敷く男…魯粛は、宥めるような仕草でその顔を覗き込んでやった。愛しい相手の全てを把握するようにゆっくりと、じっくりと時間をかけて解してやる。恥じらいが完璧に無くなったわけではないだろうと、その箇所だけに向けられる快感を誤魔化す為に額へ、首元へ、鎖骨へと唇を滑らしていく。敏感になった肌は薄く色付き魯粛の触れた箇所からじわりと広がっていった。

「辛くは、ないか」
「ッ、」

既に三本の指が動く其処を、様子を伺うようにぐるりと掻き回され途端に呂蒙の吐息に色が混ざる。自然と噛み締めてしまう頬に、そっと手を添えた魯粛の息もまた上がっていた。その様を見上げ、思えば如何なる時でも気遣いを忘れない男だった、と呂蒙の瞳が切なげに揺れる。

慣れることが大切だと説明をされたあの夜からの長い毎日を思い出す。辛かったはずだ、と彼の瞳を見つめたまま、丁寧に動く指の動きに合わせるように深く息を吐いた。同じ男だ。挿入できない辛さや苛立ちは痛いほどに解る。解ってしまうからこそ、魯粛が本気だという実感が嫌でも伝わってくるのだ。
気持ちの整理を済ます期間など、当に過ぎているだろうに。

「魯粛殿……俺はもう、っ大丈夫です…だからっ」

そっと魯粛の肩を抱き寄せる。微かに震えた其処から熱が伝わり、呂蒙を見下ろす瞳には期待と安堵の色が浮かび上がった。

「お願い、しますっ…」

次の瞬間、先ほどまで優しく、そして労るような瞳を浮かべていた魯粛の顔に笑みが溢れた。
愛しそうに呂蒙の髪を撫で上げ、互いに密着していた身体の体温が高まる。それを直に感じ、ぞわりと背筋を粟立てた呂蒙を見下ろす魯粛が、熱のある視線と共に優しく微笑む。その表情にいつもの気遣いなどは感じられない。欲しいがまま、普段より幾分か低く捻るような声で、ようやくだな…と呂蒙の耳元で呟く。

「魯粛殿……?」
「フッ、いやなに…」

改めて呂蒙に覆い被さった魯粛の、その瞳が欲望の色と共に楽しげに揺れている。

「ようやくお前を抱けるのだな…呂蒙」
「っ、アッ…!」

言うが早いか、魯粛の其れが軟らかくなった穴をイヤらしく掠める。何度か繰り返し、そしてゆっくりと当てがった。咄嗟に、魯粛を抱き寄せる呂蒙の腕にも力が入るが、それさえも愉しむように目を細めた魯粛は、呂蒙の足を抱え直し、ずぶり、と柔らかくなった其処に自身を埋め込んでいく。

「魯粛、殿ッ!」
「案ずるな、呂蒙」
「っ……!」
「決めたからな…優しく、丁寧に、と…」
「うッ!」

ゆっくりと腰を押し進める。普段の慣れ親しんだ指とは異なるその感覚に、抱え上げられた呂蒙の内股がぶるりと震えた。魯粛は反射的に引こうとする腰を掴み、より深く繋がろうと押し入る。

「あっ、あっ!」
「ッ、こら、逃げるな、呂蒙」
「しかしッ、魯粛殿っ…」
「もう少しだ、っ」
「ッ!」

ピタリ。肌と肌が触れ合う限界まで射れられ、拡げられた其処は赤く充血し、呂蒙が荒く深呼吸を繰り返す度に、まるで魯粛自身を離さんとばかりに吸い付いてくる。大丈夫か、と一応の気遣いを見せる魯粛の顔にも、余裕などは見当たらない。弛く腰を揺らしながら、その動きを徐々に変えていく。

「ハァ、あっ、あ!」
「っ、」
「ろ、しゅくどのっ!」
「呂蒙っ」

ゆっくりと挿入し、そしてまたゆっくりと腰を引いていく。幾度かそれを繰り返し、少し強めに中を擦ってやると呂蒙からは上擦った喘ぎが漏れる。

丁寧に、時間をかけて解された内部の何処を刺激すれば良いかなど、とうに身体が覚えている。魯粛の動きがより深く激しいものへと変わり、呂蒙の口は無意識に彼の名前を繰り返すばかりだ。どうにか快感をやり過ごそうにも、敏感になっている其処を突かれる度に背中は仰け反り、情けない声が漏れてしまう。

「あっ、魯粛、殿!くっ……アァッ!」
「っ、」

荒々しい息を吐き、たが、それとは対照的に優しい顔付きで魯粛は呂蒙の頬に触れた。低く通る声が、気持ち良いか?と言葉を紡ぐ。その間も肌と肌のぶつかる乾いた音が彼らの鼓膜を甘く刺激し、激しかった律動も緩かなものへと変わる。
虚ろ気だった呂蒙の視線が、熱と涙を浮かべながらも魯粛を捕らえた。そして彼の問いに答えるように、その緩かな律動に合わせて自ら腰を揺らして見せる。

「おまえという奴はっ…」

普段の彼からは想像もつかないその様に、魯粛は自身の熱が一気に中心へ集まるのを感じた。こうも自我が抑えられないとは、と己の不甲斐なさに戸惑いながら、その欲に忠実に、手と手を絡め合う。

「どうなっても知らんぞっ」

それはまるで、怒りすら感じられる程に強い意志を含んだ言葉だった。優しくしなくては、と思うだけならば簡単だ。だがどうにも、この男を前にした自分の不甲斐なさは相当のものらしい、と魯粛は切なげに顔を歪める。普段の彼らしからぬその表情に、向けられた呂蒙自身もまた、言い表すことの出来ない苦しみに心を奪われていた。

「魯粛殿…オレは……覚悟など、とうにっ」

それだけを返した呂蒙は、絡められた手を強く握り返す。次の瞬間、はた、と動きを止めた魯粛の、其の口元が大きく歪んだ。

「魯粛、殿……!」
「なるべくお前の負担にならぬよう努めるが…」
「あっ、あっ…」
「もう、我慢は効かんぞ」

不適な笑みが溢れた。今までとは違う、明らかに遠慮の無い動きで腰が押し進む。途切れていたはずの突然の快感に、呂蒙から一際大きな喘ぎが漏る。そしてそれが合図だとでも言うように魯粛の動きが激しいものへと変わっていった。

「ろ、しゅっ…どの!」

ただただ、されるがまま。その、欲する為だけの激しい動きに合わせて漏れる声が虚ろに揺れる。ようやくだ、と互いに絡める指をいっそう強めた。

「呂蒙っ、」
「魯、粛っどの!」

先ほどまで輝いていた月明かりに影が射す。まるで、これ以上この二人の一時を覗く事を野暮だとでも言うように、そっと雲の裏側へと隠れてしまう。


今宵の逢瀬は、まだ続く。







おわり!


もう勘弁してってことで中途半端に終わりましたが、書きたいことがまとまらなすぎて。もうヤダ誰か続き書いて。
最後にさくまさん、素敵な絵をありがとうございました!

お粗末さまでした。