ツイッターでつぶやいてたやつ。前に書いた現パロの続きのようなもの。くそ短いよ。
人と人とが、ましてや他人同士が同じ空間で過ごし、暮らし、生活してゆく。世間一般的に恋人と呼ばれる存在は交際何年目でこの選択を強いられる事になるのだろうか。
どこか他人事のようにぼんやりと浮かんだ疑問は、浮かんだその瞬間に泡となって消えて行った。世間一般的という言葉は、些か語弊がある。
三十路になろうかという男同士の会話にしては、それそこ不毛なのではと思わなくもないのだ。
「...俺は譲りませんよ、一歩たりとも!理屈じゃなくて、アンタの気持ちを聞いてんですよ、俺は!」
何処か遠くでキンキンと耳鳴りがしているように思うのは、決して目の前のこの男から逃げたいだとか、この話題は記憶の奥底へ沈めてしまいたいだとか、そういう気持ちからきている訳ではない。だったら何なのか。募る思いはキラキラワクワクした未来への希望などではない。
「俺と一緒になってください、呂蒙さん!」
それは、不安と、焦りと、少しばかりの理性の問題だった。
休日、恋人である凌統の部屋で二人きり、まったりと過ごしている最中だった。
成人男性が並んで座るには幾分か狭いソファーに二人、肩を寄せ合いながらダラダラとテレビ画面を眺めていた俺たちの雰囲気は、昨夜からの熱い余韻が残っているのかどこか気だるげな物だった。
先ほどからリモコンの所有権を握るのは凌統だ。さして観たい番組もない。昼飯はどうするか、と最近人気だという芸人がご当地グルメを巡る特番を眺めていた、そんな時だった。
「...そろそろ、いいと思うんですよねぇ」
リモコンを弄びながら凌統が呟く。
何のことだ、と続けた俺を横目に捉えながら、男は意を決した様子で同棲、とだけ答えテレビの電源を切る。聞こえた言葉に思わずその横顔を凝視すると、タレ目がちな瞳が歪んだ。
「俺たち付き合って一年ですよ、呂蒙さん」
「あ、ああ...本気か?」
「マジです」
「イヤ、しかし凌統、」
「呂蒙さん、俺はもう我慢できないんです!」
暗闇が浮かぶだけのテレビ画面。それを真っ直ぐと見つめる凌統の横顔は真剣そのもので、俺の言葉を遮って続けられた言葉の語尾には力強さまで感じさせる。それに気圧された訳ではない。そういう訳ではないが、これは不味いと三十数年生きてきた俺の本能が警告音と共に叫んでいた。
「そもそもですよ、呂蒙さん!」
「な、なんだ」
「おかしいと思いませんか!昨日だって久しぶりにアンタの事を抱けて、今日はようやく二人同じ日に休みになって!でも明日になればまーたお互い仕事仕事で、ゆっくりデートも儘ならない、ただでさえスレ違いの多い生活してるってのに!」
「凌統、」
「言っときますがね、俺は至って冷静ですよ!俺はね、呂蒙さん、アンタに対しては何時だって実直であろうとしてきたし、年下だからって甘えてばかりじゃ愛想尽かされねーかとか、わがままなんて以っての他で、それなりに良い子にしなきゃなとか!そーいうのをこの一年、俺なりに我慢してきたんですよ」
頭で理解して尚、この年下の恋人の謂わんとする事が把握できない。
目を白黒される俺には反撃の余地もないらしく、一気に捲し立てた凌統はそれでも足りないようで、でも、と続けた。
「そろそろ、いいと思うんですよ」
「...」
「次に進んでも...あんたにワガママ通しても..」
今度は真っ直ぐと、此方を捉えた瞳。それに映る狼狽えた己の顔が赤らんでいくのが分かる。それは凌統も同じようで、真剣な瞳の中にどこか照れたような熱も含まれていた。興奮しながらも冷静だと宣うこの男は、果たしてその言葉の意味を全て理解しているのだろうか。
「...俺は譲りませんよ、一歩たりとも!理屈じゃなくて、アンタの気持ちを聞いてんですよ、俺は!」
「ッ!」
言葉と共にゆっくりと、俺の両手を包むように握りしめる。ズズイと無遠慮に近づいた見慣れた顔が、一瞬ぼやけかと思えば直ぐに離れていった。不意打ちにキスをされたと理解し、そして、ハッとして左手の違和感にも気づいてしまう。いつの間に!
「りょ、凌統、」
「給料きっちり3ヶ月分ですよ」
「なッ、」
「俺の一生で、たった一回のあんたへのワガママだ」
左手の薬指に感じる重みが俺に追い討ちをかけてくる。俺は最初から分かっていたのだ、逃げられないという事を!いや、ワガママを通すと覚悟を決めた凌統が、逃がしてはくれない事を。
真剣な瞳、迫られる選択、鳴りやまぬ警告音。
「俺と一緒になって下さい、呂蒙さん!」
おわり
いつか続きをかけたらいいな。