妄想と戯言2

完全自己満足なテキストblogです。更新不定期。
はじめに!を読んでください。

音楽2(森田×太田)

2022-01-25 00:02:42 | その他
音楽の続きのようなものです。森田×太田ふえろ。






初めて森田の歌声を聞いた時、俺は自分の中で何かがザワつき始めたのを確信した。よく分からない、名前の付けようがない気持ちは森田が歌い終わるまでずっと騒がしくて...いや、歌い終わったって騒がしいままで、その鬱陶しそうな黒髪から見えるメガネの奥ではどんな顔してギター弾いてやがんだ、と。
分厚いレンズ越しの表情なんか分かるはずもなく、その小さな小さな興味心は俺の中で次第に、だが確実に大きくなっていった。



「ライブ、楽しかったですね太田君!」

さらりと揺れた金髪に思わず視線がいきそうになって、耐えた。視線は窓の外に向けたまま、手元で弄んでいたストローの紙屑がグシャリと潰れる。ゆっくりと森田に視線を向ければ、喫茶店でも外すことがないらしい度入りのサングラスが楽しげに光っていた。
森田が頼んだのはアイスコーヒーで、意外とブラックが好きだって事はさっき知ったばかりだ。対する俺はオレンジに輝くジュース。氷が溶けて薄くなったその味もまた、美味いと思う。

「やっぱり音楽ってスゴい!」
「そうだな」
「ケンジくんは天才ですよ!音楽の天才だ!」
「おまえだって、カッコ良かったよ」
「そんなことないです!僕はまだ、音楽について知らない事ばっかりだ!」

力説する森田はアイスコーヒーを一気に飲み干した。ストローを咥える度に揺れる金色が、何だかコイツじゃないみたいで新鮮だ。
あんなに激しくギターを掻きむしる癖に、いざ褒めると謙遜する森田。らしいな、と思った。

「...スゴかったよ、本当に」
「えっ、エヘヘ...あ、ありがとうごさいます」
「それも似合ってる」
「それ...?」
「髪だよ、金髪」
「あ、ああ!これは、ライブの時はいつも染めてて!」
「うん」

照れたのか少し赤くなった頬っぺがぎこちなく笑う。誰に言い訳してんだが、と笑った俺も、残りのジュースを飲み干した。

それはフェスの翌日。
何となく暇だから、と昨日の余韻を引きずっていた俺は森田を連れ出し、俺たち行きつけの喫茶店へと誘ってみた。そんな、何でもない休日での事だった。



何度かCDの貸し借りをするようになった森田とは友達のつもりだったし、俺は森田という男を何となく理解したつもりでいた。
あの日、初めて古美術の音楽に触れた日からそんなに経ってはいなかったが、森田は特に俺に対しては遠慮が無くなったと思う。もちろんケンジより話しやすいってのはあっただろうけど、それだけじゃない事を俺はわかっていた。
森田の部屋を訪れ、またCDを借りたあの日。強く握られた手に、森田の想いまで伝わってくるようで、どうしてもその手を振り払えなかった。同じ事を他のダチにされようもんなら、それこそ気持ち悪いとすぐに振り払っていただろうけど、何故か出来なかった。そして俺を見つめるコイツの、あの熱の籠った顔は嫌いじゃない。そう、思ってしまったんだ。
二回目に聞いた森田たち古美術の演奏は、最初に聞いたフォークソングってやつとはかけ離れていて、そして森田の見た目にだって驚いた。伸びた黒髪は染められ、分かりづらかった表情はサングラスによってもっと理解できなくなりやがった。
普段はどこかオドオドした男だけど、音楽と、そして俺の事になると大胆になる。森田はそーいう奴だと俺は思っていたのに、だ。
コイツの中にある本能的な部分はケンジと似てるのかもしれない。大胆で、実直で、そして卑怯なんだよコイツらは。

「太田君」
「なに」

カランッという軽快な音と一緒に氷が溶ける。まだ夏には早い気もするけど、窓際に座った俺たちには、外のアスファルトが揺れる景色は夏にしか見えない。視線は外に向けたまま、何となく森田の言いたい事は分かっていた。

「あ、いや...その、ね」
「うん」
「今日は誘ってくれてありがとう。嬉しかったです、僕」

俯く金髪。照れてやがるな、とその頭を横目に、またあの日を思い出す。好きなものを知ってほしいと手を握られたあの瞬間、俺の中にあった森田に対するザワつきは更に大きく、そして騒がしくなったんだ。冷静に考えたら何ともワガママでムカつく野郎だと思う。そしてやっぱり俺はコイツが嫌いじゃない、とも思う。何かに一生懸命なやつはいつだってカッコいいという事を、俺は森田を見て知ったのだ。
窓から向き直って頬杖をついた。照れ隠しなのか、とっくに中身の無くなったストローを咥えている。なあ、と無遠慮に呼んでみれば、驚いたのか、はい!?と声を裏返した。

「...太田君?」
「髪、また黒に戻すのか?」
「え、あ、はい!今日の夕方には」
「ふーん。そっか」
「あの、それがどうかしました?」
「別に......おまえのそーいう姿は、俺だけが知ってりゃいいのにつて思っただけ」
「えっ」

またまた驚いたらしい森田は、ソファーの背もたれに勢い良くのけ反った。サングラスがズレたようにも見える。その様が何だが可笑しくて、やっぱり俺はコイツが嫌いじゃないと確信する。

「も、森田くん、それはどういう...?」
「そのままの意味だろ」
「え、えっ?」
「すげぇ挙動不審」
「っ...も、森田くん!」

ステージに立つコイツはあんなにカッコいいってのに、何故こうも不自然な態度がとれるのか。
自然と、ニヤリとした笑みがこぼれた。

「おまえって、そんな髪色には出来るくせに、俺に対してはけっこう臆病だよな」
「え...」
「俺だって、おまえに俺の好きなものくらい知ってほしーんだぜ、森田」

サングラスで見えなくたって、今コイツは間抜けな顔をしているってことが俺には分かる。間違いなく、強く手を握られたあの時の俺と同じ目で、俺を見ている。

「森田君の、好きなもの...?」
「おう」
「...し、知りたいです」
「んー...まぁ、いろいろあるけど、今はそうだな...バンドの練習してる時に見る海とか、この店の濃い目のオレンジジュースとか...そんで、しばらくは見納めになるその金髪、かな」
「ッ、も、もももっ森田くん!!」
「アハハ、すげぇ声でけぇ」
「わ、分からないんですまだ、僕!自分の気持ちとか、こーいうの初めてで!」
「うん...俺もだよ」

今にも立ち上がりそうな森田を宥めて、震えてるその手に触れてみる。一瞬ビクついたが、すぐに震えは止まった。

「別にいーじゃん。俺もわかんねーけど、おまえとこうしてダベってんのは嫌じゃないぜ」
「うっ、うぅ....!」
「お、おいおい、泣くなよ」
「嬉し泣きですぅ!」
「そっか、嬉しいか」
「はいぃ~!」

握っていた手を離すと、名残惜しいと言わんばかりに、すかさず森田が握り返してくる。あの時と同じく汗ばんではいたが、コイツの好きなようにさせてやりたい。
嫌いじゃない。森田も、金髪も、その態度も、音楽だって。コイツじゃないから、嫌いにはならない。


まるで恋みたいだ、と思った。







おわり。
気持ち悪い森田とそんな森田が嫌いじゃない太田。まだ、恋ではない二人。

音楽(森田×太田)

2022-01-22 22:11:20 | その他
音/楽という長編アニメの森田×太田妄想。短いよ。








「おまえに借りたCD聴いたよ。よく分かんねーけど、スゴかった」

そういって片眉を浮かせた彼からカラフルなケースを受け取り、ミュージシャン毎に別けられたラックの定位置へとそれを戻した。
学校が終わってから一度家に帰り、そして貸していたCDと共に僕の家へ来たという彼は、いつものリーゼントを崩したラフな格好をしていて新鮮だ。
太田君は相変わらず、部屋の壁を埋め尽くす数万枚のCDという異様な光景に表情を輝かせている。まじまじと棚を見上げ、初めて部屋へ通した日と変わらないリアクションをしていた。
そして、あれから数日しか経っていないというのに、オタクである自分から厚かましくもオススメしてみたCDを聴いて、そしてわざわざ返しに来てくれた事が妙に嬉しく思うのは何故だろうか。

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいです、太田君!でも、また家にまで来てもらってすみません...学校で渡してくれても良かったのに」
「いやぁ、俺はこだわりとかねーけどさ、こーいうのってお前らからすれば宝物みたいなモノなんだろ?俺らいつ喧嘩になるか分かんないし」
「あっ...」
「壊したって弁償できるわけじゃねーしさぁ。ほら、CDは返ってきても、思い出は返ってこねーってやつ」
「なるほど」

そうだった。彼ら不良というのは、律儀なのだと再認識する。
普段は喧嘩だサボりだと教師たちから目をつけられている彼だけど、口をポカンと空けてCDを眺める今の太田君の横顔は素直に好ましいと思った。

「宝物...うん、そうですね。僕には本当に、これしか能が無いから...次はこっちもオススメなんだけど、どうですか?」

視線がぼくの手元へと流れる。あっその表情もイイ、等と考えるが、何がイイのかまでは理解不能だ。興味津々に手元を覗く太田君は可愛いと思う。

「ナニソレ」
「違うミュージシャンのアルバムなんですけどジャンルは同じで...太田君の言葉を借りるなら、分かんないけどスゴいってやつですかね!」
「ほぉ、そりゃスゴそうだ。わかった、聴いてみるよ」

CDを受け取り、スゲー派手なジャケット!とはしゃぐ太田君。その顔は、普段のツンと澄ました彼より幾分か穏やかさと年相応な柔らかさもあって、何とも言えないが、僕は好きだと思った。

「じゃ、コレ借りてくわ」
「はい!返すのはいつでも大丈夫だから」
「そういうワケにゃいかないだろー」
「...いいんですよ、太田君」
「うん?」

手元からまた、視線が流れる。やっぱり僕は彼のその顔が好きだと意識してしまう。名前を呼ばれた事に傾げられた首がイイ。優しくケースを持つその仕草もイイ。僕はいつからか、彼を想う度に泣きたくなるようになっていた。
彼の、CDを持っていない方の手を取る。その行動はほぼ無自覚によって起きた事で、手を握られて驚く太田くんよりも、こんな大胆な行動を取れる自分自身に僕は内心驚いていた

「森田?」
「僕はね、キミに...君だけに、僕の好きなものを少しでも伝えられたらそれで...それだけで満足なんです!」

僕は分かっていた。太田君は人の想いや感情をきちんと読み取れる人だし、僕はそんな彼の優しい部分に気づいている。そして無自覚にも僕は、そんな彼を試しているのだ。
握った手が湿り気を帯びて、それに気づいたように太田君の手が微かに震えたのを感じる。たった数秒だったけど、僕たちは向かい合って見つめ合った。あまり大きいワケじゃない太田君の瞳がぱちくり、と音をさせそうな程ゆっくり瞬きしたことが、何だか面白いなと思った。

「...それの次はフォークソングもオススメしたい。太田君とセッションだってしたいです!」
「あ、ああ、うん」
「僕はもっともっとキミに、僕の好きなものを知ってもらいたい。ギターに、歌に、音楽だ!」

握る手に力を込めてみた。少し固い表情をした太田君だったけど、何かを理解するようにゆっくりと頷く。それからしばらく、僕が満足するまで握られ続けた汗ばんだ手が振り払われる事は、けっきょく無かった。






「じゃあ、コレありがとな。帰ったら聴いてみるよ」
「是非!」
「おう。また、学校でな」

玄関先で、太田君は軽く手を振って踵を返した。沈みかけた夕日がキレイだと、彼を見送りながら思った。自室に戻って壁の宝物たちを見渡す。さっきまで彼が眺めていた棚を見上げ、そして窓に沈む夕日を振り返る。込み上げたこの気持ちは何だろうか。

僕は繰り返した。
棚を見る、夕日を振り返る、そして、彼を想う。


ギターが好きだ。歌が好きだ。音楽が好きだ。そして今日見た彼の表情全てが、好きだ。
僕はギターを手に取った。既に馴染んだコードを敢えてメチャクチャに掻きむしる。
違う、こうだ!いや違う!そうじゃない!!剥き出された思春期の感情はまだ僕には理解できない。そして彼の瞳を思い出して、僕は今日も無性に泣きたくなるんだ。








おわり。

書きなぐった感がすごいので修正するかもです。