妄想と戯言2

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温かい部屋(ガロ金)

2024-06-03 17:06:00 | 漫画
金バ君視点、イチャイチャするだけのガロ金です。幸せを噛み締めるガロさん。







 通いつめたアパートまでの道のりが、季節外れの寒空と相まって寂しげに続いている気がする。そう感じた瞬間、ポケットに入っているキーケースがカチャリ、と。
 まるで同感だよと言われた気がして改めて、深い深い溜息を吐いた。白い空気となって空へ昇って消えていくそれを眺めると、灰色の空が目に入る。一雨来そうだな、とアパートまで続く街路樹の下を早足で進んだ。

 鍵を回すと、ガチャリと聞き慣れた音が静かに響く。常備灯なんてものはないボロアパートの通路は薄暗く、曇天な空も相まってその不気味さに拍車が掛かっている。
 家主がバイトで不在だって事は把握済みで、勝手知ったるその玄関へと無遠慮に歩みを進める。相変わらず、殺風景な部屋だ。隙間風こそ吹いていないが、木造特有の肌寒さに少しだけ肩を震せた。部屋の隅に、申し訳程度に鎮座する灯油ストーブのスイッチを入れておく。その間にキッチンへ移動して、大きめのヤカンに水を貯めてコンロへセットする。チチチと音を立てて火が着いて、その青とオレンジに揺れる光にほっと安堵の息を吐いた。同時に、ストーブにも火が着いた音が部屋に響いて、寒さから胸元までしっかりとボタンを締めていたヒーロースーツである短ランを、カーキ色のローソファーの背凭れに適当に投げて掛けておく。

 再びキッチンに移動して、適当に調味料が放り込まれている収納棚からスティックタイプのインスタントコーヒーを二本取り出した。俺は砂糖を入れるが、アイツは無糖派だ。同じくスティックタイプの砂糖も一本取り出して、食器棚に仕舞われていた白いマグへコーヒーと共に入れて、ついでに黒いマグにもスティックのコーヒーを入れておく。しばらくするとヤカンがピーなんていう間抜けな音でお湯が沸いた事を告げてきて、コンロの火を消してそれを白いマグへと注ぎ込んだ。
 一気に広がったコーヒーの匂いと共に湯気がゆらゆらと昇って、外で見た己の白い息を思い出す。牛乳があれば入れてもいいが、生憎、切らしている事は把握していたから諦めて、マグを持ってソファーへと移動した。

 ズズズと音を立ててコーヒーを飲む。沸騰したての温度にしまったと思うが、まぁ許容範囲だ。そのまま、マグを片手にソファーへふんぞり返った。いつの間にかザァザァと降り出していた雨音が部屋に響いている。閉められたカーテン越しでも分かる程の大粒の雨が窓を叩いて、やっぱり降ったか、とその激しさに眉を顰める。
 雨のせいでより寒さの増した部屋だったが、ストーブのおかげもあって徐々に暖まっていくのが分かった。そして少しはマシになった温度のコーヒーを再び口をつけて、ほっと息を吐いた、その時だった。
「……ん」
 カンカンカンカン、と軽快に階段を駆け上がる音が部屋に響いた。マグから顔をあげて、玄関のほうへ視線を向ける。直後、ガチャリと勢いよく扉が開いた。銀髪の男が外気と共になだれ込んで来て、その冷たさにぶるりと身体が震える。
「ひっでぇ降り方しやがって、クソ…そこのタオル取ってくれ」
 家主であるガロウが顔を上げる。ソファーの側に乱雑に畳まれていた洗濯物からタオルを一枚取って、投げて渡してやる。受け取ったタオルを頭から被ったガロウが乱暴に靴を脱ぎ捨てて、そのまま作業着の上着から肩を抜きながらユニットバスの方へと消えて行った。
 
 仕方がない、とマグを畳の上に置いて立ち上がる。キッチンへ移動して、ヤカンの中を確認してまだ温かいお湯を黒いマグに注いでいく。適温になったコーヒーが出来上がり、それを背後から戻ってきたガロウに「ん」と手渡した。上半身裸に下はスウェットを着ただけのガロウがマグを受け取って一口、マグを傾ける。その頭からはまだ水滴が滴っていて、見ているだけでも寒そうだ。
「はーあっけぇ…さんきゅー」
「おう、ちゃんと頭拭けよ…つか服着ろ」
「へーへー」
 言いながら、マグを片手にソファーへ向かうガロウに続いた。部屋の隅に片付けられていた小ぶりの折りたたみテーブルを引っ張って来て、器用に片手でセットしていく。
「おまえの、置いとくぜ」
 コトリ、と白いマグをテーブルに置いて、その横にガロウの黒いマグも並べて置かれた。妙に可愛らしく並ぶ二つのマグがこそばゆい。俺も再びソファーへ移動して、定位置になっているガロウの座る右側に腰を下ろした。
「今日、妹は?」
 洗濯物の山からスウェットの上着を取り出して首を通していく。
「18時に迎え」
「ふーん…おまえ学校終わってすぐ来たのか?」
「おう、バイト早く終わるって言ってたの思い出してな」
 スウェットを着終わったガロウが、ピタリと動きを止めてふと俺を見つめてくる。なんだよ?と見つめ返せば、瞬間、ニヤリと口角を上げた顔で見下ろされて、嫌な予感が過った。
「おまえ、俺のこと好き過ぎだろ」
「……は?」
「彼氏の家直行して、コーヒーまで用意してよぉ、そんで帰ってくるの素直に待って…」
 にんまりと細められた瞳が弧を描く。そして、嬉々とした声色で続ける。
「通い妻ってやつだな!」
 瞬間、ガロウの首に掛かっていたタオルを引っ掴んで、それでヤツの頭を引っ叩いてやった。そのまま、誰が通い妻だ!とタオルで頭を包み込んでガシガシと強めに拭いてやる。
「イッテェ!もっと優しくしろバカ、ハゲる!」
「ハゲろ!」
 ぎゃあぎゃあと俺たちにしては可愛い罵倒を言い合っていたが、しばらくすると大人しくなったガロウが、されるがままに首を前に傾けて頭を差し出してきた。さっきより優しくタオルを動かしてやると、くくくと笑声を零して、肩が揺れている。
「フッ…なんだよ、気持ちわりぃな」
 釣られて笑ってしまい、呆れたように呟く。次第に前のめりになるガロウが俺の首元へ顔を埋めて、グリグリと押し付けてきた。タオルがズレてソファーに落ちる。
「くすぐってぇよ」
 短く切り揃えられた銀髪が首元を掠めていく。ハイネック越しでもその感触はハッキリとしていて、鎖骨辺りにかかる生暖かい息遣いも相まって首をすくめてしまう。そんな俺に、ガロウは構う事なく体重を掛けてきやがる。腹筋に力を入れるのも面倒で、そのままソファーへと倒れ込むように覆い被さられて、ぐえっと変な声が出た。
「バッド」
 くぐもった声が、甘えたように名前を呼んでくる。頭に片手を添えて、なんだよ?と聞き返す。しばらく考え込むように黙っていたガロウが、噛み締めるようにポツリと、呟いた。
「こーいう日に、おまえが待ってる、あっけぇ部屋に帰ってくるのがよ」
「…」
「何つーのか……幸せだ」
「…そうかよ」
 何となく、添えた手はそのままにガロウの頭を人撫でして、その体温を抱えるように息を吐いた。相変わらず首元はくすぐったいが、退けようとは思わない。

 飲みかけだったコーヒーを思い出して視線をテーブルに向ける。二つ並んだマグから上がる湯気がまるで寄り添うように昇って消えていくのを見て、照れているのか微動だにしなくなった体温と共に、愛おしい気持ちでいっぱいになった。





イチャイチャするガロ金でした!



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