(※某カフェ発行の読書関係フリーペーパーに寄稿しました)
「空色」は,空の色だから空色であるが,たとえば,もしかしたら,空が,本当はレモン色だとしたら,「空色」は,「レモン色」の意味をもつはずで,でも「レモン色」は,同じようにレモンの色だからレモン色で,つまりは,鮮やかな黄色のはずだが,これもレモンが,本当はショッキングピンクだとしたら,「レモン色」はショッキングピンクの意味をもつことになるのではないか。
と,いうのはただの空論であり,実際のところ,「空色」は,おおよそ,淡い青色という意味をもっている。でも,ときどき,みんなのいう「空色」というのは,自分の思うような「空色」なんだろうかと考えてしまう。同じ色だと思っていても,同じ言葉をつかったとしても,それが本当に,全くの同じ色を指しているかはどうすればわかるのだろう。
誰かと同じ空をみていても,同じ空をみているはずだなんて,どうやって証明できるのだろう。この空を美しいと感じても,隣にいるあなたと,この美しいという感覚を,どうやって一片の違いもなく共有できるのだろうか。
もちろん,ある程度,わたしたちは言葉をつかって感覚をわかちあうことはできると思う。共感することもできるだろう。でも本当に,本当にわかちあえたと,本当にそのままを共有していると,どうやって確かめることができるだろう。わたしたちが言葉で伝えることができるのは,言葉でしかない。言葉で確認しあうことは簡単だけれど,確認できるのは,やはり言葉だけである。言葉をもつわたしたちは,決して,真から一片の違いもなく,心からわかちあうことはできない。
自分にとっての美しさは,きっと永遠に,自分にとってだけの美しさなのだろう。それは,とても「孤独」なのである。何かを美しいと感じるとき,それは涙がでるほど,とても「孤独」なのである。
美しさの前には,わたしたちはこの世界にたったひとりになる。美しさの前に,言葉はいつも力を失う。(いや,言葉は最初から大した力なんて持っていないが)
しかし,どんなに叶わないとわかっていても,海の深さほどの絶望でも,それでも誰かに伝えずにはいられない。言葉では伝わらないとわかりながら,言葉でしか伝えられなくても。言葉にすればするほど,その言葉は,その真実から遠ざかってしまうとしても。
美しさと対峙するとき,それは孤独な戦いである。もどかしくて,悔しくて,かなしくて,打ちのめされて,泣きながら,あえぎながら,もがきながら,苦しくてもいい。あなたとわかちあいたいと,心から願う。
テーマ:美
おすすめの本:尾崎 翠『第七官界彷徨』
「空色」は,空の色だから空色であるが,たとえば,もしかしたら,空が,本当はレモン色だとしたら,「空色」は,「レモン色」の意味をもつはずで,でも「レモン色」は,同じようにレモンの色だからレモン色で,つまりは,鮮やかな黄色のはずだが,これもレモンが,本当はショッキングピンクだとしたら,「レモン色」はショッキングピンクの意味をもつことになるのではないか。
と,いうのはただの空論であり,実際のところ,「空色」は,おおよそ,淡い青色という意味をもっている。でも,ときどき,みんなのいう「空色」というのは,自分の思うような「空色」なんだろうかと考えてしまう。同じ色だと思っていても,同じ言葉をつかったとしても,それが本当に,全くの同じ色を指しているかはどうすればわかるのだろう。
誰かと同じ空をみていても,同じ空をみているはずだなんて,どうやって証明できるのだろう。この空を美しいと感じても,隣にいるあなたと,この美しいという感覚を,どうやって一片の違いもなく共有できるのだろうか。
もちろん,ある程度,わたしたちは言葉をつかって感覚をわかちあうことはできると思う。共感することもできるだろう。でも本当に,本当にわかちあえたと,本当にそのままを共有していると,どうやって確かめることができるだろう。わたしたちが言葉で伝えることができるのは,言葉でしかない。言葉で確認しあうことは簡単だけれど,確認できるのは,やはり言葉だけである。言葉をもつわたしたちは,決して,真から一片の違いもなく,心からわかちあうことはできない。
自分にとっての美しさは,きっと永遠に,自分にとってだけの美しさなのだろう。それは,とても「孤独」なのである。何かを美しいと感じるとき,それは涙がでるほど,とても「孤独」なのである。
美しさの前には,わたしたちはこの世界にたったひとりになる。美しさの前に,言葉はいつも力を失う。(いや,言葉は最初から大した力なんて持っていないが)
しかし,どんなに叶わないとわかっていても,海の深さほどの絶望でも,それでも誰かに伝えずにはいられない。言葉では伝わらないとわかりながら,言葉でしか伝えられなくても。言葉にすればするほど,その言葉は,その真実から遠ざかってしまうとしても。
美しさと対峙するとき,それは孤独な戦いである。もどかしくて,悔しくて,かなしくて,打ちのめされて,泣きながら,あえぎながら,もがきながら,苦しくてもいい。あなたとわかちあいたいと,心から願う。
テーマ:美
おすすめの本:尾崎 翠『第七官界彷徨』