真の動物福祉牧場を目指して

120. 秀祥之命(シューシャンのみこと)

 命を「みこと」と崇める信仰は、日本古来のモノで私は尊重しています。
 この信仰は当然、社会主義や国粋主義などのイズムよりも尊重すべきと思い、そうしたイズムの為に命を捧げるのは愚かなコトだとも思います。

 しかし、個人の「みこと」を守る為に命を捧げるコトは決して愚かだとは思わず、今回の物語でも「秀祥之命」を守る為に孫文徳とターシャに命を捧げて貰いました。

 それは占領されてディストピア(失楽園)と化した優樹に、若くて魅力的な秀祥を置く訳にはいかないという切実な動機によるモノでした…

 ドン(中共)は占領当初、孫文の孫である文徳の顔を立て、彼の「裸足の医者」としての功績も大いに宣伝しましたが、大躍進政策の失敗に続く文化大革命の混乱により、「善人の仮面」を打ち捨てて略奪者の本性を現す様になりました。

 チベットは革命の血に染まった漢族男性らに「地上の楽園」と呼ばれ、それはチベット人男性を悉く「断種」したコトによる女性の獲得を意味しました…

 こうした「惨劇」が起こるコトを見越した文徳は、妻のトゥルク(転生活仏)であるサラと、娘の秀祥を連れてヒマラヤを越えインドに逃れます。
 この逃避行の過程は既に「秀」章で描きましたが、そこでは主に文徳とトゥルクの護衛であるターシャの主観で描き、シューシャンの主観は描いていなかったので最後に捕捉します。

 秀祥は中国語とチベット語をネイティブに話せ、父の文徳はマカオ出身の医師なので英語も彼から教わりました。
 文徳は世界的に名の通った研究者であり、母のサラもその「共生微生物学」の発展に大きく貢献しました。

 こうした「世界的頭脳」の流出をドンは最も恐れており、文徳に世界中で「真実」を告発されてはとても敵わないので、なんとしてでもヒマラヤを越えさせない様に精鋭部隊の追っ手を差し向けます。

 これを迎え撃つケチャの部隊と、特別な修行を積んだ遊牧民の娘ターシャの活躍については「秀」に讓りまして、ここではシューシャンにとって父親との最後の思い出になった山旅を描こうと思います。

 私はエベレスト トレッキングを2回して、ヒマラヤ山脈の峠越えに相当する標高5500mくらいまで行きました。
 これには麓から往復で1月もかかり、ずっと民家や山小屋(一泊百円程)に泊まれたので手ぶらで行けましたが、チベット側にはそんなトレッキング ルートは無いので秀祥たちはずっとキャンプでの山旅となります。

 始めの1週間はヤクに荷物を乗せ、手ぶらで気楽なトレッキングを楽しめました。
 季節は春で気候も良く、ヒマラヤ杉が生い茂る川原の道を登って行きます。
 15才の秀祥にとって山旅は初めての体験ですが、頼もしい両親に護られて安心して行け、風と水と鳥の音のハーモニーを楽しめました。

 しかし2週間目には追っ手が迫っているコトを知り、ヤクと荷物を捨てて必要最小限のモノだけを担いでの登山となります。
 テントや食糧は文徳とサラが背負いますが、秀祥も衣服などを背負い、華奢な足で日が登ってから沈むまで歩き続けます。

 これは相当な苦行で、足の指には当然マメが出来て潰れ、これは始めは痛いのですがちゃんと手当てをすれば問題なく、文徳はチベットに抗生物質を広めた医者なので感染症の心配はありませんでした。
 彼は常にパーティーを励まそうと話しながら歩き、そこで語られた思い出話しは秀祥の心に強く残ります。

 しかしトレッキングは過酷さを増して行き、標高が4000mを超えると夜の気温は零下となり、三人はテントの中で固まって毛布を被って、その中でロウソクを灯し暖を取る必要に迫られます。
 これは私もチベットで野宿した時にやりましたが、ウッカリ眠って被っていたコートに火で穴を開けてしまいました。
 その為誰か1人は起きている必要があり、疲れ果てた秀祥はすぐに眠ってしまいますが、彼女の目が寒さから覚めた時、文徳はいつも起きていて娘を励ましました。

 そうして夜々に渡って語られた文徳の遺言は、秀祥の心に強く残って何度も追想され、その度に彼女の心は父の暖かい光に包まれて新しく生まれ変わります。
 
 その後文徳は、ヒマラヤの峠で秀祥に自分の靴を履かせて、彼女の足と引き換えに命を落とします。
 彼女にとってこの靴は父の分身で、成長して足のサイズも合う様になったシューシャンは、その靴で世界中を周りチベットの「真実」を伝え広めます。

 

 

 

 

 
 
 
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「農業」カテゴリーもっと見る