とうとう七番目の「終」の章に辿り着きました。
この「シュウ」の章はずっと政治的な葛藤を描いて来ましたが、それを終わらせる目的で書きます。
専制政治に終止符を打つことは、香港時代革命の一番大きなテーマでした。
この革命は成就しませんでしたが、闘いは台湾に受け継がれており、日本からの援助を求めています。
物語の時代背景としましては、文化大革命が華中で熾烈化していた75年とし、優樹国が滑落してから10年後とします。
勿論この章の主人公は曹希聖で、毛沢東の右腕とされた人物の消息を創作します。
彼の消息は公式には、チベットの労働改造所を脱獄した所で途切れており、その後チベット軍の軍事顧問となって人民解放軍の戦略を漏らした裏切り者と見られ、名前を抹消されました。
物語ではチベット軍の砦に原子爆弾まで落とされ、曹希聖はそれで死んだと見なされますが、行善と伴にチベット僧に扮して地下に潜らせます。
当時チベットはまだ占領されたばかりで、いきなり苛烈な革命を行っては人民の心が離れてしまうので、後に比べればまだ友和的な統治が行われていて地下に潜る余地も在りました。
しかしこの余地も文化大革命が広まる事によって無くなってゆき、人民は皆革命戦線に駆り出され、地主や寺院は打倒されて焼き払われて、隠れる余地が無くなり2人は放浪を余儀なくされます。
二匹の裸馬(ラマ)はまるでインドのサドゥーの様に、寒空の下で夜を明かします。
日中は目立つので洞窟に潜み、夜はどのみち寒くて寝られないので、満天の星空の下を歩き通します。
2人は華中へ向かい、この悲惨な革命の根源を探って行きます。
チベットと四川省の間にはかつて西康省というのがありましたが、ここでは大躍進時代の餓死率が安徽や山東に迫り、それだけ苛烈な革命が行われました。
西康省ではチベット族の反乱も相次ぎ、文化大革命によってこの省は消滅してしまいます。
行善と希聖が歩いたのはそうした場所で、2人のラマは貧しく虐げられた農民達の家に泊めてもらい(雨の夜など)、行善は「共感の技法」を用いて彼等の心身の痛みを和らげます。
希聖は己が行った革命の結末を思い知る事となり、この共産革命を真摯に総括します。
そしてこの革命を終わらせる事が自分の使命だと悟り、文革の派閥闘争が最も激化していた重慶を目指して行きます。