YS_KOZY_BLOG

History, Strategy, Ideology, and Nations

海軍善玉論への疑問

2010年06月12日 | MILITARY
 以前、NHKが「海軍反省会」という特別番組を放送していた。
 すでに書籍化されているそうなので、関心のある人は一度、手にしてみるとよいかもしれないが、
 番組の中で、ヘラヘラと笑いながら、自らの失敗を語る元海軍将校の面々を見ていると、
 激しい嫌悪と憎悪の念が沸き起こってきたことは、今でもよく覚えている。
 あんな不実な連中のために、三百万人もの日本人が命を落とし、
 挙げ句に敗戦という憂き目を見なければならなかったのかと思うと、
 怒りに震えない方がおかしい。
 その時以来、海軍善玉論(逆に言えば、陸軍悪玉論)というものをまったく信用できなくなった。
 
 実際、太平洋戦争の歴史をひもといてみると、
 補給線の確保もできないままに、ひたすら戦線を拡大させた結果、
 米国の反転攻勢によって、前線がすぐに崩壊してしまったのは、海軍の戦略上のミスが原因である。
 世間一般には、戦線拡大といえば陸軍を想起するかもしれないが、
 元来、陸軍の関心は、太平洋に出て行って米国を叩くことではなく、
 援蒋ラインを押さえて中国への補給ルートを断ちつつ、
 やがてはインドからの補給ルートも中断して、中国戦線を孤立化させることにあったのだから、
 太平洋に戦線を拡大させることに合理的根拠がない。
 結局、太平洋進出を推進したにもかかわらず、
 戦後になって、その失敗の責任を一方的に陸軍に押し付けたのは、
 陸軍との面子争いに執着し続けた海軍にほかならないのである。
 何たる姑息な連中であろうか。

 しかも、すでに多くの歴史書が明らかにしているように、
 日本の海軍暗号は、米国によってすっかり解読されていたのである。
 呆れるのは、山本五十六提督がビルマ上空で撃墜された際に、
 陸軍側から暗号解読の可能性が示唆されても、それをまったく無視して、
 同じ暗号を使い続けていたというのだから、怠慢の誹りを免れることはできないだろう。
 補給線を担う輸送船が、米国の潜水艦によって次々に撃沈されていっても、
 暗号を変更しようとしなかったこともよく知られている。
 一事が万事、この調子である。
 要するに、たまたま真珠湾では不意をつかれて大きな損害を受けたが、
 米国にとって、日本海軍はカモだったのである。

 そうした評価は、極東軍事裁判にも反映されている。
 もし、それが戦勝国による報復劇であったとするならば、陸軍の評価はすこぶる高かったと言えよう。
 とりわけA級戦犯となった28人のうち、陸軍関係者は15人にも上っているからである。
 一方、海軍関係者はたったの3人、しかも死刑判決を受けた者はいなかった。
 随分と舐められた話である。
 また、日本に進駐してきた米軍は、すぐに軍関係者への尋問を開始し、
 その第一号として、陸軍参謀本部第二部長を務めていた有末精三中将が選ばれたが、
 そこには、情報活動の面における陸軍と海軍への評価の差がはっきりと表れていたというべきであろう。
 なぜなら、米国は海軍暗号の解読には成功していても、
 陸軍暗号の解読にはほとんど成功していなかったからである。
 つまり、進駐後、米国が真っ先に知りたかったことは、
 日本陸軍の暗号技術に関する情報にほかならなかったのである。

 この他にも、陸軍への非協力的姿勢や戦術・戦略上のミス、現状認識の甘さ、
 さらには、作戦失敗を大勝利と伝えて世論をミスリードしたことなど、
 海軍が負うべき失態はあげつらうことに暇がないほどである。
 そうであるにもかかわらず、
 現在においても、陸軍ばかりが非難されるというのはまったく筋が通らない。
 絶対に見直されるべき歴史観である。