伝言

2006-01-19 17:41:33 | その他
他人の勝手な聞き間違いほど迷惑なものはない。


僕が幼稚園に通っていた頃のことである。僕の通っていた幼稚園では「おゆうぎの時間」というのがあり、その日その日によって様々な遊びをしていた。その日する遊びは「今日は鬼ごっこしま~す」とか「今日はみんなで歌を歌いま~す」みたいな感じで先生から発表されていた。

ある日のことである。いつものように先生からおゆうぎの内容が発表された

「今日は伝言ゲームをしま~す」

しかしその先生独特の鼻にかかるような発音が災いしてか、僕の耳にはあろう事か、

「今日はれんこんゲームしま~す」

と聞こえてしまった。ここが運命の分かれ道だった。

僕のまわりにいた園児たちはそれを聞いてきゃっきゃとはしゃぎ出す。しかしそんな中、僕は一人で悩んでいた。れんこんゲームなんて初めて聞いた。れんこんゲームとは一体何なのだろうか。僕が知らないだけで世間ではけっこう有名なゲームなのだろか。れんこんをどうやってゲームに使うのだろうか。さっぱり分からなかった。しかし、恥ずかしがり屋の幼稚園児だった僕に、先生に質問するという選択肢はなかった。周囲の園児もかなり盛り上がっていて、とても「れんこんゲームって何?」と尋ねられる雰囲気ではなかった。かくして意味不明のまま「れんこんゲーム」という謎のおゆうぎは始まってしまった。

僕の幼稚園での伝言ゲームは園児が縦一列になって、前の人から順番に耳打ちで言葉を伝えていくというスタイルだった。そして未だに「れんこんゲーム」の意味の理解に苦しんでいた僕は、とりあえず前の人の見よう見まねでゲームに参加しようと後ろのほうに並んだ。

ゲームが始まると前の人が何かを次の人に囁いているのが見えた。それがまた後ろの人にも繰り返されていく。ここでピンときた。

「そうか!後ろの人に『れんこん』って言えばいいのか!」

大間違いである。しかし僕の頭はそれが「れんこんゲーム」のルールということで勝手に認識してしまった。しかもれんこんというのは細長い穴が空いているので入口で発した言葉が出口からそのまま聞こえる。だから先頭の人の耳に入った言葉が最後尾の人まで伝わっていき、最終的に最後尾の人の口から出るのだと思っていた。

この理路整然とした誤解が僕の間違った解釈を確信に変えてしまった。しかも誤解の割には部分部分中途半端に正解しているので話が余計ややこしくなってしまった。

いよいよ僕の番が来た。前に並んでいた園児が僕に耳打ちした言葉はたしか「すいか」だった。「れんこん」以外の言葉は必要ないのに何を言ってるんだこいつは、と思った。そしてこの状況を立て直すのが自分の使命だとばかりに、僕は迷うことなく次の人に「れんこん!」と耳打ちした。

結局それが最後尾まで伝わってしまい、先生に「答えはなんですか?」と聞かれた最後尾の人は「れんこん」と言った。もちろん不正解である。

しかもそれが一回や二回ではない。何回やっても最後の人の答えが「れんこん」になるのだ。かなり不気味である。

あの時の園児達の不思議そうな表情は今でも忘れることができない。