封鎖

2006-01-10 21:18:37 | その他
 見ず知らずの他人同士が同時にまったく同じ事を考えるというのはほぼ奇跡に近い。

 しかしその奇跡が今日起きた。

 僕が道を歩いていると行く先に宅配便のトラックが止まっている。そのトラックは道路脇にある電柱ギリギリのところに止まっていたので、電柱とトラックの間は子供が一人通るのがやっとという幅である。当然ほとんどの通行人は電柱のない方、つまり車道側を歩いていく。しかし果敢にもトラックと電柱の間に挑戦しようとする強者が現れた。僕の前を歩いていた主婦だ。
 先に断っておくが、この主婦はただの主婦ではない。身体の横幅が僕の2倍はあろうかという大柄な主婦だった。女相撲大会に出たら地区チャンピオンくらいにはなれそうな立派な体格だった。そんな彼女がより確実にトラックを交わすには言うまでもなく車道側を通った方が間違いない。しかし地区チャンピオンは勝負を挑んだ。なんと彼女はトラックと電柱との間にある僅かな隙間目がけてズンズンと進んでいったのだ。
 彼女があの間を通過するのが無理なのは容易に予想はついたのだが、好奇心旺盛な僕が結末を見ずして車道側を行くはずがない。当然後方から彼女の様子を窺った。
 
 彼女はムギュウと身体をその隙間に埋めてゆく。僕にはトラックが気持ち車道側に傾いた気がした。一方の彼女はというとそんなことは気に留めずにひたすらに突破を図っている。しかし、しばらくするともうこれ以上は進めないといった感じで彼女の前方への動きがピタリと止まった。詰まったのだ。そしてその瞬間、電柱とトラックと主婦は見事に三位一体となった。

 いくらチャンピオンと言えども(僕が勝手に言っているだけだが・・・)、さすがにあの幅では歯が立たなかったらしく、しぶしぶ重心を後ろに傾けた。そして次の瞬間、スポッ!!っといった感じで彼女は隙間から解放された。

「最初から通らなきゃいいのに・・・」

僕はそう思った。

そしてここから事態は思わぬ方向へと発展する。

 チャンピオンはトラックの前方に回り込み、運転席の窓をゴンゴンと勢いよく叩いた。伝票を数えていた運転手はビックリしたように彼女を見つめた。そして彼女は運転手に「こんなところにトラック止めないでよ。通れないじゃないの。」みたいなことを言っていた。運転手は帽子をとって一応は「すいません」と言っているようだった。

しかし彼女が去った後の運転手の口の動きを僕は見逃さなかった。あの運転手は窓を閉めた後に間違いなくこう言っていた。

「最初から通らなきゃいいのに・・・」