抱っこなんか絶対させてくれない。
毛すきの時以外は、そばへも寄らせてくれない。
兄弟猫のフータは毎晩、私のベッドで寝るし、隙あらば
膝に乗ろうとするのに、この子は我が家で孤高を保っている。
野良の頃、なにかよほどいやな思いをしたのだろう。
健康にも問題があり、歯周病で歯は一本もないし、結石で手術もした。
しかしノアにとっては、病院へ連れて行かれることも治療も、
虐待としか思えないのだろう。
近くで見られないから最初は気がつかなかったのだが
ある時、片方の目に染みがあるのに気づいた。
オリーブグリーンの水晶体に、茶色い染みがふたつ、みっつ。
心配で、またむりやり捕まえて病院へ連れて行った。
「水晶体がぽろっと落ちたら問題だけど、べつに痛くないみたいだし
視力もあるようですね。このままにしておきましょう。
この子は警戒心が強いから、いじるとまたストレスになって
可哀想ですし」
獣医さんがおっしゃった。
で、そのままにしておいたのだが、染みは少しずつ大きく
なっていったようだ。
しみじみと見せてくれないから、なかなか実状が
わからないのだが、こうして写真を撮ってみると
片方の目はほとんど水晶体が染みで覆われ、周囲の色と同化している。
痛がってる様子はないし、スリムなのにデブのフータを
いまだに軽い猫パンチひとつで威圧しているし、このまま
そっとしておいたほうがいいのだろうか。
私は気になって、いやがられながらもなんとか顔を
覗き込もうとするのだが、そのたびにノアは、俺にかまうなと言うように、
ぷいと、隻眼を背けるのだ。
