
先日、ホテルニューグランドのレインボールームで
映画上映イベントが開催された。
広い宴会場だが、こういう時なのでもったいないほど
テーブル数はしぼられている。
上映映画はこのホテルも登場する「赤いハンカチ」。
1964年公開の日活映画で、主演は石原裕次郎。
1962年に裕次郎の歌う「赤いハンカチ」が
ヒットしているので、先に歌ありきで製作された
いわゆる「歌謡映画」なのだが、出来が良くて
日活ムードアクションの代表作と称されるようになった。
逆算してみると、封切りの頃、私は川崎市に住む高校生。
映画館なんか行かせてもらえなかったから、
観たのはずっと後。
もしかするとビデオ化されて、うちへそれが送られて
来てからではないかと思う。
うちで夫と一緒に観た記憶があるから。
脚本は監督の舛田利雄氏を含めて三人の連名になっている。
その中の一人が夫の山崎巖だ。
私は子供の頃、京都府宮津市の映画館で、
小林旭の「渡り鳥シリーズ」「流れ者シリーズ」、
裕次郎、赤木圭一郎、宍戸錠などの日活映画をみまくっていた。
そうした日活アクションでよく舞台になっていたのが
異国情緒漂う港町・横浜。
私の中で「横浜」は代えがたい憧れの街となっていった。
「赤いハンカチ」にはホテルニューグランドが登場する。
当時、紺の絨毯が敷かれた大階段を上がることは
セレブの象徴だっただろう。
昭和初期、外国人向けのホテルとして華やかに誕生したが、
終戦後は米軍に占領されていたこともある。
横浜の光と影を背負った、唯一の歴史的ホテルである。
横浜と映画の研究では第一人者の山岸丈二さんが
映画の上映前に、見どころを解説してくださった。
いまはなき互楽荘が出てくることも、この解説で知った。
外国人向け高級アパートだったのだが、終戦後の数日間、
米兵向けの慰安所にもなった。
そこがいかにもうらぶれたホテルとして登場する。
そのうらぶれ具合が、なんともムーディーなのだ。
他にもムードアクションの似合う「横浜」が幾つも出てくる。
しかしそれらのほとんどは、もう映画でしか見ることができない。
だからこそ、このホテルで、この映画を観て
「私の横浜」に浸ることができたのは嬉しかった。
コロナの日々にも、幸せはある。
さて、伊勢佐木町の映画館「シネマリン」では
9月19日~10月10日まで、「宍戸錠映画祭」が
開催されるそうだ。
宍戸錠さんは日活アクションにおいて、
石原裕次郎や小林旭にまさるとも劣らぬ存在感があった。
「エースの錠」はほんとにかっこよかったもんねえ。
上映のラインナップをみると、夫の脚本による作品が
何本も入っている。
横浜でこうして日活アクションが甦っていることを
あの世にいる夫もさぞかし喜んでいることだろう。

さて、こちらはホテルニューグランドを核にして
横浜の歴史をやさしく知ることができる拙著。
本館一階のショップにも置いてくださってます。
読んでいただけたら幸せです。
大森裕之さんによる表紙と中の写真もお楽しみください。
