冬桃ブログ

シジフォスの悦楽

 この夏は歯の治療と身辺整理に明け暮れた。
 歯の方は一段落したが、身辺整理は終わらない。
 ともかく身軽になりたくて、写真だの資料だの
本だのをどんどん処分している。
 本なんか、段ボール三つがいっぱいになるたび
ブックオフに買い取りを申し込み、取りに来て貰う。
 数千円にしかならないけど、捨てるより誰かの
手に渡ったほうがいい。

 しかしこういう身辺整理はなかなかの肉体労働である。
 どうせ汗をかくのだからと、もちろんクーラー
なんかつけない。
 一時間もすると心臓のあたりがきりきりと痛くなり、
「地震か?」と錯覚するほどの目眩に襲われる。
 あと一歩で熱中症。
 水を飲み、息を整え、五分も休まず、また動く。

 パソコンに向かって頭を使おうとすると、五分と
たたないうちに疲労困憊するのに、肉体労働だと
五分も休まず数時間働ける。
「体が弱い」が売り物だったのにこれはどうしたことか。
 弱いのは頭だけだったのだろうか。

 そんなに溜め込む方ではないのに、なぜか
あとからあとから処分したいものが出てくる。
 ギリシャ神話のシジフォスになった気分。
(永遠に終わらない肉体労働を課せられた人物)

 でもこのシジフォスな日々は、なぜか快感になる。
 本の整理なんかいつまでもやっていたい気分。
(そういえば、図書館司書に憧れたっけ)
 今日はついに本箱が丸々ひとつ空いた。
 
 で、よっしゃ、これも…と捨てかけ、まてよ、
と手を止めたのが「日本残酷物語」(平凡社刊)。
 夫の蔵書だったものだが、タイトルの「残酷」
がいやで、私は読まなかった。
 「怨霊」なんてのはけっこう好きだが、「残酷」はねえ。
 「いじめ」とか「血みどろ」とか「暴力」なんていう
私の大嫌いな言葉が、その字面から這い出てくるようで。

 でもまとまって七巻あるし、ブックオフは
高値で買ってくれるわけでもないんだし、処分する前に
目次くらい見てもいいのでは、と思い直した。
 
 埃を払って箱からだし、ちょっと読んでみると、
あらら、これは興味深い。
 日本各地にあった差別、貧困、因習などがいろいろと
取り上げられており、たしかに残酷な話ではあるのだが
民俗学として非常によく取材されている。
 監修や執筆も宮本常一をはじめとして一流だ。

 頭からシャワーを浴びてシジフォスから抜け出し
冷えたスパークリングワインなんか飲みながら
1巻目をさっそく読み始めた。
 う~ん、おもしろい、止まらない!
 これは全巻読まなくては。
 処分しなくてよかった。

 

 時々、本を置いてテレビをつける。
 昨日は昼も夜も尖閣問題。
 「きょうは満州事変の発端になった柳条湖事件が
起きた日です」
 と、どのキャスターも前振りをするのだが、誰も
柳条湖事件とはどんなものなのかを言わない。
 まあ、それを言ったら、キャスターもコメンテーターも
あとがやりにくくなるのだろう。
 日本人はこうやって近代史から目をそらせてきた。
 だから、民族教育をたたき込まれている中国や韓国、北朝鮮との
温度差がいつまでも埋まらないのだろう。
 


 

コメント一覧

冬桃
機会があればぜひ!
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
ニキさん

 「日本残酷物語」は非常に真面目で、しかも読みやすい
民俗学の好著でした。
 図書館などで見つけたら、読んでみてください。
 ニキさんの「脳の記憶」と合致する部分もあるのではと
思います。
 虐げられ、忘れられた者の再生……というのも、ニキ
さんのテーマに入ってますよね?
探求者ニキ
読みたいかも
http://niki200705.blog.fc2.com/
冬桃さんこんにちは!
歯の具合はいかがですか?
実に、じつに凄い量の蔵書なのですね。図書館が開けそう・・・。
「日本残酷物語」ってタイトルがなかなかですが(笑)、内容はタイトルほどキワモノ的ではなさそうですし、裏の歴史の資料としても貴重なものになりそうですね。読んでみたいくらい。
そういえば、高校の図書館に「世界残酷物語(コリン・ウィルソン著)」という本がありました。著者のことは澁澤龍彦氏も幾度かとりあげていたみたいです。
冬桃
涙……!
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
酔華さん

「新成年傑作選」、もちろん全巻揃ってましたよ、うちに。
でもそのほかのたくさんな、た~くさんな本と共に、
ここへ引っ越すとき処分しました。
蔵書の三分の二は、その時、なくなりました。
それでも新しい住まいに入り切らなくて、私が古書市で
買い集めた古い「スクリーン」や「映画の友」なんかは
実家に送りました。おかげで見たいときに見ることが
できません。
横浜の古本屋を覗くたびに、あれはうちから出た本に
違いない、きっとあれも……と胸の詰まる思いをしております。
冬桃
http://members2.jcom.home.ne.jp/noa411/
ひーさん

 同じ感想かどうかわからないけど、私も「古事記」を
読むたびに思います。天皇が「神」の子孫であることを
証明するために編まれたものだというのに、なんなの、
この神様達の傍若無人、品性下劣は……と。
 いや、その分、物語としてはおもしろいんだけど、
これの意味合いが、いまいちわからんのよねえ。
 ギリシャ神話とは成り立ちが違うんだからさあ。
酔華
新青年傑作選 怪奇編
「本牧ヴィーナス」という短編が読みたくて、
それが収録されている本を借りてきました。
タイトルは『ひとりで夜読むな』。
最初は明るいうちに読んでいたのですが、
面白くて真夜中まで読み続けてしまいました。
おかげで、朝までトイレを我慢することに…。
ひー
今まで体が弱いふりだったことがわかった。。。
なんてねぇ・・・
今年の夏は暑過ぎて、今日もなんなのこの残暑~
そんな夏、よく頑張りました!
さぞや冷たいワインが美味しいことでしょう!

この夏私は「古事記」、しかもわかりやすい漫画を読みました。補足する本も読みました。

そしたら、「えっ?神様って・・」というショックと質問いっぱい浮かんでしまって困ってます。
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