で、ポーラのクリニックへ行った際、ちらっとその懸念を洩らした。
ドクターYには日頃、「人間ドックなんて行かなくていいよ。
なまじ癌なんか見つかって、その歳で苦しい治療をするのはいやでしょ?
いよいよというところまで放っといて、我慢できなくなったら緩和ケア。
で、静かに終焉を待つのが一番」と言われている。
さすが、看取りのベテラン。清々しいほどの突き放し様。
だから「あ、そう? まあ、先が見えていいかも」
という言葉を、覚悟というより「ですよね」くらいの気持ちで待った。
なのに、いきなり険しい表情になり「すぐに内視鏡検査!」。
さらに「検査の結果、手術ということも充分ありうるから」
と、その場で大学病院への紹介状作成。
「手術なんてしたくないです。ひっそり、静かに……」
消えるはずだったでしょ、と抵抗する私に、
「大腸癌は闘える癌なんだよ。行ってくれなきゃ主治医として困る!」
と、きっぱり。
で、癌より内視鏡検査とやらのほうが怖い私は、
体験者の友達に尋ねまくり、「大丈夫。たいへんなのは
検査の前だけだから」と励ましてもらい、ようやく、
今月の始め、初体験をしてきた。
確かに検査前、下剤入りの水を大量に飲むのは辛かった。
けど検査そのものは鎮静剤のおかげで「え? 終わり?
いつの間に……」と驚くほどあっけなかった。
眠っていたわけではないが、朦朧としていたらしく、
カメラ画像も見ていない。
「ポリープはないみたいですね」という声に一応、ほっとしたけど。
詳しい結果発表(?)はそれから二週間もたった今日。
「大丈夫ですね。大腸はきれいですから」と、あっさり告げられた。
そして自分の大腸を、初めて画像で見た。
いやあ、自分で言うのもなんだけど、きれいだったなあ。
かすかにオレンジ色がかったピンク。なめらかなうねり。
外見は日毎夜毎、老残を刻んでいくが、こんな美しい景色が
自分の体内にあったとは!
夕飯はパスタを茹で、しめじと舞茸とニンニクの芽を炒め、
具だくさんのペペロンチーノ。
おのが大腸を思い浮かべながら、安物のスパークリングワインを
しみじみと味わった。
