というお招き。
小高い場所にあるKさん宅に伺うと、白い梨の花が
眼下を埋めていた。
中国・唐の時代の故事にある「梨園」とは
このような光景だったのかも……と思いを馳せる。
唐の最盛期を統治したのが玄宗皇帝。
彼に寵愛され、女としての頂点に立ったのが、
後に美女の代名詞にまでなった楊貴妃。
玄宗は歌舞音曲をこよなく愛し、梨の木が植えられた
広い庭に楽士や妓女を養成する学校を建てた。
白い梨の花が頭上を覆う春に、あでやかな衣を
翻し、かの楊貴妃も舞ったことだろう。
日本で歌舞伎の世界を「梨園」と呼ぶのは
こうしたことに由来している。
が、唐に反乱が起きると、玄宗を溺れさせた楊貴妃こそ
その元凶だと、人々は怒りの矛先を彼女に向けた。
結果、玄宗は愛する女を死に追いやるしかなくなったのだ。
Kさん宅の庭にある木。
一本の木から赤、白、ピンクの花が咲き出る。
ネットで検索したら「源平桃」というのが出てきた。
源氏と平家が一緒に咲いたような……という意味だろうか。
ここでも伝説の美女を思った。
義経の愛妾だった静御前。
頼朝に、義経ばかりか生まれた子まで殺され、
その後、行方知れずとなった。
それゆえ、静伝説が各地に生まれたのだが、
私の故郷、丹後にも「静神社」がある。
無人の小さな神社だ。
流浪の身となった静は、故郷である
このあたりへ住みつき、夫と子の冥福を
祈り続けた……という言い伝えがあるようだが
事実かどうかはわからない。
海の向こうに大陸があるので、丹後には渡来伝説が多い。
なにしろ、楊貴妃が流れ着いたという話まであるのだから。
真贋はともかく、栄華と悲劇をまとった美女は
こよなく魅力的だ。
野の花でしかない女も、それはそれで
小さな物語を、日々紡ぎながら生きている。
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