冬桃ブログ

プリーツプリーズの頃

 もう20年くらい前になると思うが、
「宝恵駕籠(ほえかご)」というお祭りに
参加するため、友人のエッセイストKさんと一緒に
大阪へ行ったことがある。
 画家の故・岡田嘉夫さんが「ほえかごの来る料亭に
あと二人入れるからいらっしゃい」と呼んでくださったのだ。

 「ほえかご」が「宝恵駕籠」だということも知らず
私達女二人は「大阪へ行こう! 料亭だって!」と
喜んで出かけて行った。

 そこは名のある大きな店らしく、広い土間があった。
 十数人の客が集まっている中、江戸時代の道中駕籠に
飾りをつけた感じの「ほえかご」が土間に入場。

 「ほえかご」に乗って揺らしてもらうと、良い年になる、
という言い伝えがあるらしい。料亭側はご贔屓さんが
その恩恵にあずかれるよう、それなりのことをして
ここに来てもらったのだろう。

 女将さんは、招待したVIPを順繰りに駕籠に乗せようと、
「ほら、せんせ、はよ次に乗って! はよこっち来て!」
 と土間を駆けずり回っている。
 が、さすがVIP達。いそいそと乗り込んだりせず、
ゆったりと構えている。
 VIPのおひとりである岡田嘉夫さんだけが素早く動き、
私達二人を乗せようとする。
 とたん、女将さんが鬼の形相でこちらを睨む。

「もう、なんやの、あのどこの馬の骨かわからんような
女二人は! あんなんを乗せるために頑張ったんやないで!
誰が連れてきたんや、出てけ! さっさと出てけ!」
 と口には出さねどその顔が如実に吠えている。

 じつに居心地が悪かったのだが、岡田さんに背中を
押しまくられ、私達は駕籠に乗り込み、揺らしていただいた。

 女将さんの孤軍奮闘にも関わらず、VIP達は余裕の
笑顔で拍手までしてくださる。
 その中に三宅一生さんがいらした。

 当時、私はイッセイミヤケのプリーツプリーズという
シリーズが大好きで、かなり持っていた。
 色が美しい。服全体が細いプリーツ状になっているから
旅行に行くときなど、適当に丸めて持っていける。
 軽くて皴にならない。
 なにより、洗濯機でばしゃばしゃ洗える。型崩れなし。

 その日はたまたま着ていなかったが、駆け寄って
「あなたのプリーツプリーズの大ファンです!」
 と言いたかった。
 もちろんそんな勇気はなく、ただご尊顔を拝しただけである。

 それから年月は流れ、もう十年くらい前から上着くらいしか
着られなくなった。プリーツというのは、ふんわりしているようで
着るとぴったり体に沿う。つまり見せたくない体の線が
容赦なく出てしまう。
 泣く泣く大半を処分した。
 最近のものをネットやデパートででたまに見たりするのだが、
大胆なデザインだったり、細かったりしてしてあきらめざるを得ない。
 さらに言えば、「万」のつく服なんか買わなくなった私には
かなりお高い。

 三宅一生さんが亡くなられたというニュースに接して、
そんなことを思い出した。
 いろんな意味で軽やかだった、私のプリーツプリーズ時代。
 「三宅さん、素敵な服をありがとうございました」と、
思わず天に向かって手を合わせていた。


 
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