冬桃ブログ

いまそこにある危機

 なにが困るって、真夏に冷蔵庫やエアコンが
壊れることほど困ることはない。

 今日、なにげなく冷蔵庫の製氷室を引っこ抜いた。
 たまには掃除しましょう、くらいな気持ちで。
 そしたら入らなくなった。

 え~、こんなシンプルな構造の物、入らないわけないでしょ!
 いや待て、私に限り、そういうことは起こりうる。
 なにがいけないって、すぐ冷静さを欠き、思考能力ゼロに
なるからいけないんだろうけど、まったく何度こういうことが……
などと思い乱れ、押したり引いたりしながらどんどんパニクっていった。

 製氷室を引っこぬいたということは、冷蔵庫の表面に
ぽっかり穴があいたということで、冷気がそこから
抜けていくということ。
 つまり冷蔵も冷凍もこの穴のために機能を果たさなくなる。
 それくらいは私でもわかる。
 案の定、ピーピーという警戒音が鳴りだした。

 使用説明書の類を放り込んである引き出しをひっかきまわし、
冷蔵庫の保証書とマニュアルをようやく見つけ出した。
 買ったのは2009年。おお、十年保証に入っている!
 けどもう10年過ぎてる。
 だけどお金を払ってでも直してもらわないと困る。
 保証書やらマニュアルやらに記されている相談窓口に
片っ端から電話をした。
 なぜ片っ端から掛けることになったかというと、
どこも繋がらないから。
 
 「コロナで人員削減しておりますので、ただいま
繋がりにくくなっております」とか「電話番号が
変わりました」だの、そっけないガイダンスが流れるばかり。

 この時点でもう私なりに冷蔵庫と大格闘していたし、
マニュアル捜しや電話でへとへとになっている。
 どうしよう、どうしよう。こんなことは電話で
誰かに相談してもしようがないし……便利屋? 
そうだ、便利屋さんをネットで捜して電話したら?
 なにしろ近場には誰も頼める知人友人がいない。
 いや、近場でも、こんなことで呼び出されたらうんざりするだろう。
 便利屋、捜さないと。でもほんとにすぐ来てくれるのだろうか。

 いちかばちかで管理人さんに頼んでみよう、と考え、
汗だくで部屋を飛び出し、長い廊下を走り、
階段を駆け下り、マンションの受付へ。

 ああ、よかった、夜中じゃなくて。それに夏休みも
終わったらしく、コンシェルジェの姿が!
 「あの、あの……」ともつれる声で訴えた。
「こんなこと、お願いしちゃいけないことはわかってるんですけど
冷蔵庫が、製氷室が、あの、引っこ抜いたら入らなくなって
修理の電話も繋がらなくて、でもってピーピー音が鳴ってるんです。
た、助けていただけないでしょうか!」

 「ああ、そういう時には電源を引き抜いてください。音が鳴りやみますから」
  と、笑顔で応えるコンシェルジェ嬢。
 「いえ、あの音は消えても、そこにぽっかり穴が開いたままで
冷蔵庫が、つまり扉の一部が閉まってないことになって!」

 「ああ、それはたいへんですね。ちょっと見てみましょう」
 
 え? あなたが? 男性の管理人さんにお願いできないかと……。

 たいていの女性は自分と同じく家電に弱い、と
思い込んでいる私は、「あ、でも、わ、わからないかも…」
と意味不明なことを呟きながら未練たらしく管理人室へと目をやる。

 そんなことは意に介さず、大きなマンションの、
玄関から一番遠い場所にある我が部屋へと、彼女は一緒に走ってくれた。
 そして、「ああ、これですね」と言いざま、すんなりと製氷室を
差し込んでくれた。警戒音もぴたりとやんだ。

 「ありがとうございます! ほんとに助かりました!」
 土下座せんばかりに礼を繰り返す私。

「けっこう、単身、高齢者の方、ここにもいらっしゃるのですよ。
 皆さん、心細いようです。なにかありましたら、どうぞ
おっしゃってくださいね」
 と言って去っていくその姿の神々しかったこと。
 ああ、この人に、なにか苦情を言ったこともあったっけなあ、
と思い出し、ぺたりと座り込んだまましばし放心状態。

 気を取り直して、電源はどこだろうと捜してみた。
 冷蔵庫の裏にあるのだとばかり思っていたが、
裏は裏でも冷蔵庫より高い壁にあった。
 それを引き抜こうと思ったら、三脚に乗っても手が届かない。
 三脚から冷蔵庫の上へとよじ登るしかないだろう。
 降りるとき、へたして三脚を倒してしまったら、
もう足がかりがなくて降りられない。
 冷蔵庫の上にちんまりと座ったまま、即身仏になるかも。
 この世は危険に満ちている。
 こんな自分が長いこと独り暮らしを続けてきたなんて、奇跡としか思えない。
 これまで助けてくださった皆様、ほんとうにありがとうございます!





 
 

コメント一覧

yokohamaneko
野田さん

 時々、金沢区某所あたりを散策していてください。
 スマホにSOSが入るかもしれません。
 その際はぜひ!
野田邦弘 
近ければはせ参じたのにな
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