冬桃ブログ

茅野から諏訪へ 女同士はやっぱりいいね

 サントリーのCMは心憎い。「頑張りましょう」とも「あなたは一人じゃない」とも言わず、
「上を向いて歩こう」をリレーで歌ってるだけだが、観るたび胸が熱くなる。
 この歌が大ヒットしたのは私の人生が画期的に変わった年だった。
 個人的なその記憶と重なるせいもあるのだろう。
 こんなご時世にこの歌を聴くと、周囲の人がみんな愛しくなる。
 友人知人が電話をくれたりすると無性に嬉しい。「会って食事でもしようよ」と
言ってくれたら「そうしましょ、そうしましょ!」と即、応じる。
 
 先日は高速バスに乗って長野県の茅野へ行ってきた。茅野には友人の画家、福山小夜さんが
住んでいる。だから年に2回くらいは訪れる。
 落語のCDを聴きながらうららかな景色を眺めているうちに、中央道茅野に到着。
 先に来ていたライターの友人、塩見弘子さんと福山小夜さんが揃って出迎えてくれた。
 三人で小夜さんのギャラリーへ直行。




 
 小夜さんとの付き合いはもう十五年以上になるかと思うが、その間に彼女が描くテーマも
次々と変わっていった。或る時は高倉健であり、或る時は騎馬スペクタクル「ジンガロ」だった。
 いまは西洋の有名画家が描いた「ヴィーナス」を模写している。
 泰西名画の「ヴィーナス」はすべて男性画家によって描かれているが、その筆を女である
自分がそっくりなぞったら、なにかが見えてくるのではないか……という思いがあるようだ。
 アトリエには素晴らしい仏画もあった。鮮やかなブルーで染め付けた皿もある。
 いつもながら、彼女のふんわりとした外見と力強い絵との差に戸惑いつつ、感服。
 塩見弘子さんとも同じくらい長い付き合いになる。彼女がインタビュアーとして我が家に
来てくれた時は、まだ夫が存命だった。

 三人でお茶を飲みながら気の置けないお喋り。話はどうしてもこの不安定な情勢のことになる。
 茅野のあたりも一時のブームが去り、ペンション、ホテル、レストランなどが次々と
閉じているらしい。その不景気なところへ大災害と原発事故による経済不況。
 三人とも収入不安定なフリーランスの身だから、そりゃ、打撃は大きい。
 けれど話してみると、この一ヶ月で三人とも似たような気持ちの変遷を辿っていた。
 最初はあまりのことにショックを受け、なにも手につかなくなる。テレビを見続け、
ちょっとしたことにも泣き、あげく体調を崩し、自分の殻に引きこもる……。
 しかしここへきてようやく、「起きたことは仕方がない」と思うようになった。
 そうしたら逆に、しっかりこの事態を見てやろうじゃないか、受け止めようじゃないか
という開き直りが出て来たのだ。人間は自分が思っているより強いのかもしれない。
 
 ともかく、今日だけは少し贅沢しておいしいものを食べようねと、塩見さんが
インターネットで探しておいてくれた「から木」という落ち着いた和食の店へ。
 一番安いコースを選んだが、旬の野菜や魚が美しくあしらわれ、量もほどよく、
私達はとても満足した。
 
 食後、下諏訪へ移動。そこに佐藤謙一郎さんが来ている。
 私の宿まで送ってくれた二人を佐藤さんに紹介した。
 佐藤さんは少しやつれていた。食の安全をテーマにしてきた人だけにいつもは玄米食。
それが単身、長野のアパート暮らしになり、忙しさもあって外食ばかり。
 組織立ち上げの苦労とあいまって「二日前からおなかは壊れっぱなしだし、熱っぽい」
という状態らしい。
 それでも佐藤さんは、私達三人と一時間ほど付き合ってくれた。そして明日、
佐藤さんが「いま、夢中になってる」という女性と会わせていただけることになった。

 朝、宿から見た諏訪。


 宿の脇には諏訪大社の秋宮がある。朝、あまりにもいい天気だったので
参拝に……と思ったら改修中だった。通学の中学生らしい一団が歩いてくる。
 突然、拡声器から大きな声が。「大地震です、大地震です!」
 びっくりして、私は境内で棒立ちになったが、学生達は聞こえないかのように
談笑しながら普通に歩いている。結局なにもおきなかった。
 「地震です」じゃなくて「大地震です」という警報だったのだが……。

 さて、佐藤さんから何度も「ほんとうに素敵な女性、ぼくはほとんど恋してる」
と聞かされていた女性、樽川通子さんのもとへ。
 彼女は下諏訪駅の近に、集会所と食堂を兼ねたサロン「しもすわ」を開いておられる。
 この地に生まれ育ち、一貫して女性の権利獲得のため活動を続けてこられたそうだ。
 なんだかんだ言いながらも私達の世代が思うように生きられたのは、
まだ女性差別が激しかった時代、平塚雷鳥、市川房枝、そして樽川さんなどが
凄まじいバッシングに耐えながら闘い続けてくださったおかげだ。
 82歳。オレンジ色のカーディガンがとてもよく似合う。

 樽川さん、福山小夜さん 塩見弘子さん


 佐藤さんが「恋してる」だけあって、ほんとうに知性と包容力のある方だった。
 活動家、ことに女性活動家というと、気が強くて自己アピールの強い人を
想像しがちだが、樽川さんは違った。信念はあるが押しつけがましいところがない。
 彼女を慕ってくる人一人一人にきちんと目配りし、手助けできることが
あると思えば惜しみなく動く。佐藤さんの体調が悪いと知るやいなや、すぐ病院に
電話を入れ、車を出してそこへ送り届ける。
「ほんとうに心配してくれる人と口先だけの人との違いだねえ」と、佐藤さんに
皮肉を言われてしまった。
 樽川さんは毎週、地域の女性達と勉強会を開いておられるというが、こういう人生の
大先輩が近くにいたら、私も喜んでサロンに通うだろう。

 一泊二日の短い旅だったが、このところ長野行きは私にとって活力源だ。
 一足先に長野市へ戻った佐藤さんに次いで、昼過ぎ、私も横浜へ。
 留守の間に震度4の揺れがあったようだが、ありがたいことに今回は
何も倒れていなかった。
 しかし最初に見たニュースは「原発事故、レベル7に」。
 ともかく、上を向いて歩くしかないだろう。 
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