冬桃ブログ

沈黙の希望

 10月の終わり、もはや枯れ木同然になった
山椒の木で、二頭の青虫を見つけた。
 まだ終齢になって間もない大きさ。
 とくに一頭のほうは、おそらく黒白の殻を
脱ぎ捨てたばかり。青虫として育つのはこれからだ。
 しかし我が家にはもう山椒の青い葉がほとんどない。
 変色しかかった葉をなんとか集め、瓶にさして
そこへ二頭を移した。
 二日後に一頭が瓶を離れ、昆虫ケースの中で
蛹になるための旅を始めた。
 しかし、問題がある。
 旅を始める時、青虫は必ず黒っぽい体液を出す。
 殻の中で蝶へと大変身を遂げるため、余分なものを
体から排出しておくのだ。
 なのに、それがない。
 一応、蛹にはなったが、ちゃんと蝶になれるのか、
かなり心配ではある。

 より小さいもう一頭に関しては、ほんとに餌が尽きた。
 なけなしの葉を周囲に置いたまま、私は三泊四日の狛犬ツアーに。

 
 帰宅した時はベランダを覗くのが怖かったのだが、
奇跡のように蛹になっていた。瓶に刺した山椒は
葉のかけらも残らず、枝まで齧った痕跡があった。

 秋の蛹は概して小さいものだが、この子たちは
これまで見た中でとりわけ小さい。
 長さは二センチに満たず、もっとも太い胴回りもは5ミリもない。
 この中で、蝶としての翅や胴、足、触覚などが形成可能なのだろうか。
 このまま冬を越すのかもしれないが、今日など日差しが
異常なほど強い。
 けどどちらかがうっかり羽化しても、他のアゲハ蝶に巡り合い、
子孫を残すことなど奇跡に近いだろう。
 飛べるかどうかもわからないが、飛べたとしても
急激に冷えたりする中、寒さと孤独に震えながら
どれだけ命が持つのか。

 心配してもしょうがないのに、心配性の私は
日に何度も、ぴくりとも動かない蛹を眺めずにはいられない。




 
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