なぜ恥ずかしいかというと、「春月」という立派な俳句結社に入れて
いただいてすでに5年くらいはたつというのに、私はまだ俳句がさっぱり
わからず、句会に出席する時だけあわてて詠む……というありさまだから。
さらに言えば、他人様に見せる文章には起承転結がなければ……という
思い込みから抜け出すことができず、「起承」しかないような俳句という
文章形態を、まだ受け入れることができないでいる。
それでも、規定の数句をひねくりだし、句会に出席するのは楽しい。
成績なんぞ悪くても、ユーモア溢れる主宰の句評、なんでも教えて
くださる先輩達と交わりで、「知る歓び」を堪能することができるのだから。
で、我が主宰、戸恒東人氏(ご子息は東京スカイツリーの照明デザイナー
として話題の戸恒浩人氏)。
句集はもちろんのこと、評論も出しておられるのだが、このほど
最新刊の「誓子ーわがこころの帆」(本阿弥書店)が加藤郁乎賞に輝いた。

俳人として一世を風靡した山口誓子を、主宰は長い年月、
丹念に研究してこられた。その集大成である。
句評はもちろんのこと、誓子の生きた時代背景、ことに
戦争とのからみが私にはとりわけ興味深かった。
誓子はサラリーマンでもあったので、昭和9年、仕事として旧満州を訪れている。
その時、平康里(ピンカンリイ)という娼館にあがり、
そこをテーマにした句を詠んでいる。
主宰はさまざまな資料をあたり、大連、瀋陽(昔の奉天)にまで出かけて
ついに娼館であった建物を突き止める。
さらに終章では、戦争中の句が収められた句集「激浪」にまつわる
大きな謎が提示される。
主宰は東大から大蔵省というエリートコースを歩まれた方だが、
ごく若い頃、ミステリー作家になろうかと思われたこともあるという。
そのせいか構成がサスペンスフルで実に読みやすい。
俳句にも山口誓子にも興味がない、という方にも、非常におもしろい
ノンフィクションとして、この本をお勧めしたい。
授賞式の戸恒主宰。

主宰の代表作として知られる「寒禽しづかなり震度7の朝」が
収められている句集「寒禽」(角川書店)。
主宰は神戸在住の際、阪神淡路大震災に遭遇された。
