冬桃ブログ

クリスティーを観ながら

 NHKのBSでアガサ・クリスティーの「ミス・マープル」シリーズを
放映していたので、毎回観ていた。
 
 ミス・マープルは田舎に住む普通の老女だが、時折、誰かのお屋敷に
招かれたり由緒あるホテルに泊まったりする。
 そのたびに連続殺人が起きるのだが、彼女は警察より鋭い観察眼及び
洞察力で事件を解決していく。
 エルキュール・ポアロと並ぶクリスティー作品の名探偵だ。

 クリスティーには子供の頃、ほんとうに楽しませてもらった。
 故郷の町の図書館でハヤカワ・ミステリを読みまくっていたのだが、
クリスティーが一番好きだった。
 物語はもちろんおもしろかったが、そこに登場する瀟洒なホテル、
豪華客船、豪華列車、古い大きな館などに心がときめいた。
 
 あの頃、普通の日本人、とりわけ地方の小さな町に住む子供にとって、
こうした華やかな世界はまるで馴染みがなかった。
 クリスティーを読みながら、「大人になったら外国へ行けるだろうか。
こんなホテルに泊まることができるだろうか」と、わくわくしたものだ。
 いまでも、ホテル、ことに雰囲気のあるホテルが大好きで、必要も
ないのに泊まったりするが、そのルーツはここにある。

 私が大人になるにつけ、日本は経済大国になっていった。
 もはや庶民であっても、伝統あるホテルに出入りし、お金さえあれば
豪華客船の旅もできる。
 だからといって、クリスティ作品の登場人物になれるわけではない。
  
 「飛鳥」という豪華客船に仕事で乗せてもらったことがある。
 某女性誌の企画だった。
 行く先は、当時まったく人気のなかったベトナム。
 乗務員が600人くらいいるのに、乗客はその十分の一。
 「飛鳥」も日本の豪華客船のはしりとして宣伝の必要があったらしく、
私のようにタダで乗ってるマスコミ関係者が何人もいた。
 セレブな雰囲気もいまいちだった。
 問題は、船ではなく乗客にあったのだろう。

 オリエント急行にも乗った。しかしこれはバブルの頃、日本に持って
こられたオリエント急行である。
 やはりなにかの雑誌関連で乗せてもらったのだ。
 日本の線路とオリエント急行の車輪が合わなかったらしく、えらく揺れた。
 欧米人用にできている座席に私が座ると、床に足がとどかなかった。
 不動産屋だという中年の女性客が、白人のハンサムな男性乗務員をつかまえ、
万札を何枚もポケットに押し込んでいた。
 
 たまたまタダで体験した豪華客船と豪華列車は、やはりクリスティーの世界
とは似ても似つかぬものだった。
 身の丈に合わないことは、たとえタダでもするものではないと、この二つの
体験で思い知った。

 まあそれはそれとして、複雑な家庭環境で厳しい子供時代を送った私に、
クリスティー作品は夢だけではなく、生きる力も与えてくれた。
 ドラマを楽しみながら甘く懐かしい思いにかられ、はたまた、苦い感慨にも
ふけったことであった。
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