冬桃ブログ

大きなリュックの背中

 安倍元総理が凶弾に倒れた、というTVニュースを観て、
反射的に思い浮かんだのは福井功さんのことだった。
 福井さんは私の友人だった人で、もちろんこの事件とは
なんの関係もない。
 「友人だった」というのは、彼が3年前の春に亡くなった故人だから。

 彼と知り合ったのは私が50歳の頃だった。
 福井さんは私より8歳年下だった。
 その頃、私は夫に先立たれ、独りになっていた。
 看病の疲れやら自分の体調不良やらで仕事も激減し、
なにもかも空っぽになってしまったように思えた。
 初めてのノンフィクションを書き終えた後だったかもしれない。
 先の目標も見えないまま、人生をリセットしようと考えた。
 その結果、「住まいを売り払って上海へ移住しよう!」
という、(後で考えると)とんでもないことを思いつき、
知り合いの編集者さんに「上海に詳しい人がいたら紹介して」
と頼んだ。そして会ったのが福井さんだった。

 そのいきさつはこちらに書いた。
「上海の幻」
https://blog.goo.ne.jp/yokohamaneko/e/e8f18933da9063f33c9447579707d900

 福井さんのおかげで上海に一カ月滞在し、それ以上の無謀な冒険を
せずに済んだわけだが、以後、ほんとに仲良く付き合っていただいた。
 当時はSNSがなくて、個人の「掲示板」があったのだが、福井さんの
掲示板を通じて、たくさんの人と友達になった。福井さんのほうは、
友達を引き連れて、私が出ていた野毛大道芝居の応援に来てくれた。
 私も横浜の友達を何人も彼に紹介した。
 互いに世界が拡がったと思う。
 スクリーンでしか観たことがない中国、香港の大監督、大スターに
会えたり、垣間見たりできたのも福井さんのおかげだった。
 彼は、まちづくりプロデューサーや薬膳関係の仕事で活躍していた。
 その関係で彼の出身地である鳥取にも何度か招いていただいた。
 3・11の時も、一緒に鳥取県庁にいて、揺れが始まった時を
共に体験したのだ。

 翡翠海岸へ一緒に行ったとき、私が撮った写真。
 「後ろ姿の写真って一枚もなかったから」と喜んでくれた。
 そういえば、旅だろうと日常だろうと、福井さんのトレードマークは
大きなリュックサックだったっけ。


 好き嫌いがとてもはっきりしていたので、好きな人には
労をいとわず親切にした。逆に嫌いだとなると、仕事に
マイナスになろうとどうしようと、言葉や態度に平然と表した。
 そういういさぎよさが好もしかったが、本人はかなり
損もしていたと思うし、それを覚悟の上の生き方だったと思う。

 彼が安倍総理の熱烈ファンになったのは、いったいいつからだったのだろう。
 私が気が付いたのは、病気で亡くなる2年くらい前だったと思う。
 腕に日の丸もつけるようになった。
 「従軍慰安婦なんてでっちあげだ」という、私から見れば「檄文」も
SNSにアップされるようになった。

 私はその急激な変化についていけなかった。
 なんとなく距離をおくことしかできなかった。
 でもいまになって、自分の考えがどうであろうと、勇気を出して
彼の考えもじっくり聞いておくべきだったと思う。
 長い付き合いだったのだから。

 相手が誰であろうと臆することのなかった福井さんだから、
あの世できっと、大きなリュックを背負って安倍さんを待ち構えているだろう。
 さっと近寄り、手を差し出し「ども! 福井と申します。
じっくり話しましょう!」と切りだしているに違いない。
 この世とは「長いお別れ」になってしまったけど、
新しい世界から、こちらを見守っていてほしい。
 時々、「元気?」と手を振るからね!
 

コメント一覧

yokohamaneko
福田さん

 私も同じ気持ちです。ひょいと戻ってきて、
あの大きなリュックの中から桃グッズを出して
「こんなのあったから」と言ってくれそうな
気がしてならないのです。
 いろんな人に、いろんなチャンスを与えてくれました。
 一緒に行った旅の数々も忘れられません。
 心から感謝しています。
福田美知子
もう3年になるなんて信じられないです。今でも福井さんから電話が入るような気が時々します。
いろいろ楽しませていただいたなあ。
また一緒に上海に行きたいなあとかなわない願いを抱くときもあります。
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