まだ生後六か月くらいかな、と思われる保護猫。
猫に飢えている私はさっそく見に行った。
保護猫とはいえ、保護した方がとても可愛がってらした
ようで、初めての私でも抱っこさせてもらえた。
おっとりしたイケメン君。
私の名付け子、希望姉妹の次女Mちゃんと一緒に。

私も昔は猫を飼っていた。
その前に犬がいた。
戸建てに住んでいた頃、まだ横浜にも野良犬という
存在があったのだが、その一頭が近所の藪で子供を産んだ。
親のお乳を飲んでいた頃はその存在に誰も気づかなかったのだが
乳離れするや否や、子犬が四頭、いきなりキュンキュン
鳴きながら藪から出てきた。
そのうちの一頭が、うちの玄関に来て、小さい声を
上げながら抗いがたい瞳で私を見上げ、餌をねだる。
犬も猫も飼ったことはなかったが、即座に決めた。
誰がなんと言おうとこの子犬をうちの子にすると。
幸い、ほかの三頭も貰い手がつき、保健所行きを免れた。
ビンゴと名付けたこの子は、外犬として庭の犬小屋に
いたのだが、来る人には誰にでもしっぽを振る。
決して吠えたりしない。だから番犬にはならなかったが
私が物書きとして歩み始める直前から、夫の死を経て
独り暮らしになってからも、ずっと一緒にいてくれた。
この子が亡くなってから数年後、マンションに引っ越した。

マンション暮らしを初めて一年後くらいたった頃だろうか。
あるところで会った初対面の人が、大船で保護猫の
世話をしている人だった。
その人の話をなにげなく聞いていたのだが、突然、
「猫、飼いません? 兄弟猫を保護したばかりなんです」
と言われた。
実をいうと私は、子供の頃、化け猫映画というのを
観たせいで猫がかなり苦手だった。
なのに、押しの強いその人の説得に負け、キジと黒の
兄弟猫を引き取ってしまった。
来たら来たで私は夢中になった。
野良の頃、よほど怖い目にあったのか、二頭とも
おそろしく警戒心が強く、キジ猫フータは13年、
黒猫ノアは14年生きたのだが、どちらも抱っこなんか
させてくれず、愛想のないことこの上なかった。
だけどこの子たちが「家族」としていてくれたおかげで、
私はどれほどやすらぎを得たことか。
「命の気配」がそばにあることは、なにものにも代えがたい。
生まれた時から家族の縁が薄かった。
だけどなぜか、身内を何人も看取った。
正直に言うとその身内より、犬のビンゴと
ネコのフータ、ノアを看取った時のほうが
ずっと切なく、辛かった。
犬か猫を飼うなら保護犬、保護猫以外考えられない。
でももう歳をとって、それも許されない身となった。
あきらめるしかないことが、ひとつずつ増えていく。
よしんばその夢が叶ったとしても、必ず別れが来る。
どっちが先になるにせよ。
「愛おしい」と「切ない」は同義語なのだ。
ビンゴとノア。
