というニュースを見るたびに、そんな歳になったら
免許返上すればいいのに、と苦々しく思っていた。
電車、地下鉄、バスと、便利な公共交通が
たくさんあるんだから。
が、それは横浜にいればこそ。
S村は公共交通に関する限り陸の孤島に近い。
電車の駅までは遠過ぎるし、バスは一日五本程度。
若い人たちは外へ出てしまい、残っているのは高齢者層。
腰が曲がろうが足が不自由になろうが、田畑を耕し、
作物を運び、買い物にも行く。80代であろうが90代であろうが、
自分で車を運転して。
日本は小さな島国だが、地域格差は大きい。
人口が少なく、農業もそれだけではたちいかず、
兼業農家が多いという村は、それゆえに「不便」が置き去りにされる。
ついでに言えば、長野県はガソリン代が日本一高い。
S村はその中でもさらに高いと聞いた。
私は免許を持っていないが、いまのところ運転
できる人がそばにいる。その人に不都合が発生しても、
生協に加入すれば日々の食料品や日用品も届けてもらえる。
だけど病院、図書館、役場、集会所、横浜へ戻るための
列車駅などへ徒歩で行くのは無理。山里ならではの坂も多い。
というわけで、気になっていたのが村営の福祉バスだ。
一般的なバスより少し小さめかな、という大きさで
時々、見かける。だけどたいてい乗客の姿はない。
村内をぐるぐる周っているから、停留所になっている
ところにいればそこから乗れる、ということで「停留所一覧」
を役場でもらってきたが、他所から来たものには、
どこそこ前、と書いてあっても、その「どこそこ」がわからない。
それが先日、あるところで目の前に停まっていた。
誰かを待っているのかな、とも思ったが、このチャンスを
逃してはならじとドアをノックし、運転手さんに住所を告げ、
送っていただけるでしょうかと尋ねた。
どうぞどうぞ、と招き入れてくださった。
私しか乗客はいないようなので、運転席のそばに
陣取り、いろいろ訊いてみる。
実はネットで「S村の福祉バスが、来年から利用拡大される」という
新聞記事を読んだばかり。記事の日付は昨年のものだ。
これまでの利用規定では村内の高齢者だけになっていたが、
24年度から枠を広げ、学生の通学や観光客も使えるようになる、
という記事だった。
が、この日、運転手のI氏(70代くらいかな?)から
伺った話はまったく異なる。みんなが運転免許証や車を
持っているわけではなかった昔、村の高齢者達にとって
福祉バスはなくてはならないものだった。
けれども次の世代の高齢者、つまり私くらいか、もう
少し上の世代になると、自家用車が普及し、福祉バスの
需要がどんどん減っていった。なので拡大どころか縮小
されることが決まり、いまのよりもっと小型のバスに
もうすぐ代わるのだという。
しかもタクシーは村に一台しかなく、必要な時に
来てもらえないケースも多いらしい。
利用者減はもっと早くから始まっていたはずなのに、
なぜ昨年は「拡大」が発表され、なぜそれが急転直下、
縮小になったのか。このことについて、村役場の
サイトにはなにも記されていなかった。
バスを降りてから自分なりに考えた。
もしやリニア中央新幹線の完成が大幅に延びたから?
リニアの駅が飯田市に誕生する予定だ。
飯田はS村から車で一時間ほどの距離。。
そうなるとS村にも人や産業などが来る可能性がある。
昨年の「拡大計画」はそれを見込んでのことだったのだろうか。
リニアの完成予定は当初、2027年だった。
だが昨年、2034年以降に延びるという発表があった。
環境問題などいろいろあったが、予定駅周辺は
リニアによる発展の期待も大きかっただろう。
それが遠のいてしまったのだ。
この推測が当たっているかどうかは、いまのところ
私にはわからない。
けれども、種類豊富な野菜が育つここの自然、
歴史文化など、アピールできるもの、失っては
いけないものがまだまだあるはず。
過疎を進ませないため、そこをちゃんと見直し、
活用できないだろうか。
若い移住者を求める気持ちはよくわかるが、
まずは、いまここに暮らす人々への心配りを
怠らないことこそ、村の大きな魅力として
外へのアピールにもなると思うのだが……。
はなし変わって。
谷にかかる長い橋の両端に、この季節、
びっしりと張り付くこの奇妙な黒いもの。
当初は落葉などが吹き寄せられ、固まって
腐ったのかと思った。
丸みを帯び、少し膨らんでいる。あえていえば、
子供の頃、路上でよく目にした牛や馬の糞に似ている。
でもここは車が行き来する国道。牛馬など通らない。
気になって、似たようなものがないかとネット検索した。
結果、「イシクラゲ」というものではないかと…。
陸に生息する藻の一種で、コンクリート上などに繁殖する。
しかも昔から食用にされてきたとか。
時々、ゲテモノも好奇心から口にするわたしだが、
う~ん、これはちょっとねえ。
