yokkieの気になること

障害者・児童福祉のことが多くなるかな

『自閉症のすべてがわかる本』を読んで

2015-05-30 23:09:49 | 福祉
『自閉症のすべてがわかる本』 講談社 健康ライブラリーイラスト本 佐々木正美:監修 2006年

日本における「TEACCH」研究の第一人者である佐々木正美先生が監修した、自閉症の入門書。自閉症傾向に気付くサイン、自閉症の原因や診断、特徴、療育についての考え方とTEACCHの紹介、といった内容を、子どもの障害に気付き、悩み、育てていく過程に沿って紹介している。

おだやかな気持ちで子どもと生活していけることへの願いが、やさしい語り口につながっているのだろう。特に基本的なことを、言葉を選びながらも間違いなく伝えることを重視していると感じた。保護者や経験の少ない支援者に向けての本だろうが、そういう本だからこそ、監修者が大切にしていること、必ず伝えたいことが語られている。基本的なことを振り返るにも良い本だと思う、読みやすいし。

生まれながらの障害で、心でなく脳の障害。ただ、成長に関しては親がしっかりとした知識を持って、専門家と相談しながらその子に合った対応をしていくことが重要であるということ。そのとおりなのだが、本当に難しいことを伝えるためにはどうしたらいいのか。最近、個人的には二次障害の難しさを改めて実感しているだけに、その点を考えさせられながら読んだ部分もあった。まあ、対応が重要だけど難しいのは障害のある子に限ったことじゃないけどねえ、全く人のことは言えない。




『中国の歴史 中』を読んで

2015-04-26 00:07:37 | 本(一般)
「中国の歴史 中」 岩波新書D41(青版713)  貝塚茂樹:著 1969年


最近、異動もあって読書ペースは低調だが、上巻に続き、中巻を読了。
西晋の成立~元の滅亡までがが書かれている。

いかに中国の皇帝や君主、実権者が寿命を全うするのが難しいかを思い知らされた。目まぐるしく勢力の盛衰が移り変わった五胡十六国や五代十国時代はもちろん、外戚、皇后、王子、豪族、宦官などが実権を争い、まさに殺し合いのいかに多いことか。大きな版図の国はこうなってしまいがちなのだろうか。権力もすさまじいし、でも目が行き届かないだろうし。それ以上に、圧倒的な権力の座にありながら、力に惑わされずに政治を行うことがいかに困難なのかということなのだろう。中国独特の宦官制度がさらに状況をややこしくしている。宦官制度の功罪は様々な研究がなされているだろうし、私はもちろん詳しくはないが、中国史での影響の大きさは、この本でよくわかる。権力者になどなりたくないが、大勢の民衆も戦乱で命を落としているのだ。今の平和の貴重さに感謝してしまう。

また、漢民族は圧倒的な人口と進んだ文化を持ちながら、絶えず異民族に悩まされ、実際に何度もその支配下に置かれてきた。中国の歴史では、洗練された文化は軍事力とは両立しづらいことが示されている。与えられた平和を享受すると危機感はどうしても薄れがちになってしまう。そして多くの異民族は進んだ漢民族の文化に多大な影響を受け、漢民族の文化や政治を取り入れたり、漢民族の文官や宦官を用いたりしている。

膨大な中国史をコンパクトに濃縮させる筆者の力量のおかげで、長く多様な中国史の様々な物語を楽しむだけでも魅力十分でありつつ、ごく簡単に学ぶだけでも、権力、国家、民族間対立と融合、軍事力と文化など、多くの考える材料を与えてくれる著作となっている。あとは下巻だ。

『あべ弘士の動物よもやまばなし』を読んで

2015-03-28 12:51:22 | 本(一般)
『あべ弘士の動物よもやまばなし』 あべ弘士:著 2011年

旭川市旭山動物園の飼育係を長年務めた後、絵本作家に転身し、代表作「あらしのよるに」など数々の絵本を世に送り出している著者が、北海道新聞への4年間の連載をまとめた本だ。

新聞連載したものを、季節ごとにまとめてリズムよく読むことができる。著者が生まれ育った北海道の野生動物、長年勤めた旭山動物園の動物、全国・海外に出かけて出会った動物と様々な動物の話が全48編。味のある暖かいイラストとフランクな語り口で語られる。

北海道の自然と動物の近い生活、長年動物と関わってきた著者の年輪を感じられるところがまずこの本の大きな魅力と感じた。また、動物の魅力的な営みを書いたうえだから、破壊する人間の愚かな行為をピシッと指摘する言葉に重みがある。

動物の死、惜しまれる死だけではなく、狩猟による死、食することによる死にまつわる体験も多く書く(どじょうの話は、おーっと声が出た)。生き物として他の動物の命を頂く行為と、脈々と続いてきた動物の営みを破壊する行為との違いを改めて考えさせられる。かわいがるのだけではない、まさに動物と生きていくのが大好きな人なのだろう。

「中国の歴史 上」を読んで

2015-03-02 23:31:42 | 本(一般)
「中国の歴史 上」 岩波新書580  貝塚茂樹:著 1964年

久しぶりにコーエーのシミュレーションゲーム「三國志」をやって、そういえば、三国時代以外の中国史っていい加減にしか把握してないよな。殷、周、、なんだっけという感じなので、少し中国史を読んでみるかと図書館で中国史のコーナーを見た。結構通史というのは少なくて、手ごろに読めそうで人物史になっていない通史が古いこの本くらいしか見当たらなかった。岩波新書なら大きな外しはないだろうし、1960年ころまで追えればいいだろうと手に取った。

本が古いと最新の部分がないという想定は、ある部分で間違っていたことが上巻で判明した。遺跡発掘は近年進んでいるので、古代史が少し古い情報になってしまうのだ。一部、インターネットで補間しながら読めば特に問題はない。京都大学文学部東洋史科卒を卒業し、中国古代史専攻で数々の著作のある著者は、世界の中、アジアの中の中国という視点を持ちながら、文化、政治、人物とバランスよくしっかりとした通史が書かれている。

上巻は中国の地理、中華意識、民族性などに簡単に触れたあと、神話と原人から歴史を語りはじめ、夏、殷、周、春秋戦国、秦、前漢、後漢、三国時代、晋の成立によって三国時代が終わるところまでが書かれている。黄河を中心として発展してきた漢民族中心の国家でありながら、北方異民族等の影響を大きく受けたことや、春秋戦国時代のように発展した文化を持ちながら、統一国家のない時代が五百年も続いた状況の魅力が印象的だった。

時々、文化や思想、政治に優劣をつけるような論じ方が気になるものの、大きな問題ではなく、この本が書かれた時代では普通の視点なのかもしれない。中巻、下巻が楽しみな本であるとともに、三国時代だけでなく、春秋戦国時代の本ももう少し読みたいと思わせる本であった。

『「女性の活躍躍進」の虚実』を読んで

2015-03-01 11:20:26 | 本(一般)
『「女性の活躍躍進」の虚実』 「都市問題」公開講座ブックレット33 
公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所:発行 2015年

自分が以前派遣研修で所属していた研究所の公開講座のブックレット。竹信三恵子氏が基調講演、パネルディスカッションも海老原嗣生氏をはじめなかなか面白いメンバーで、100ページ弱のブックレットなこともあり、楽しくあっという間に読めます。

竹信さんはデータを使いながら、世界の中での男女格差解消に関する日本の遅れ、男女の所得格差、正規と非正規問題等をテンポよく説明し、自分の教えている女子学生たちの無自覚さをはさみつつ、アベノミクスの取り組みの課題を指摘しています。出産による退職が依然として多数を占めること、女性管理職の少なさなど、この分野に関心を持っている人なら知っていることが多いですが、あらためて確認することができます。

また、政策を決定する国会議員や、男女格差を報道するマスメディアにおける女性比率がいかに低いかを示し、社会を動かすこういった分野からクオータ制を導入していくべきと論じ、最後に標準労働者像を、労働と一緒に家事、育児、介護といったケアを入れ込んだ上での働き方に変換していかないと変わらないと述べています。

後半のパネルディスカッションでは、まず海老原氏が、クオータ制をやるなら入社時、さらに大学入学時からやる方がいいという説を投げるところから始まります。人事管理の経験から、女性比率が3割を超えれば企業社会が変わる、女性を管理部門を寄せることができなくなるという論点です。自分も少数派の困難さは考えていたのですが、なるほど、こういう発想は面白いなと感じました。日本にノンエリートコースがない課題も指摘しています。

個人加盟の労働組合「なのはなユニオン」の委員長を務めている鴨桃代氏は、正規と非正規と人材派遣の問題を提起し、毎日新聞の東海林智氏も安倍政権の示す雇用流動化から労働者派遣法の課題と加えて労働組合の組織率の低下、組合の役員に女性が少ないという課題を指摘しています。立教大学コミュニティ福祉学部教授の湯澤直美氏は、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークの共同代表も務めている立場から、日本のシングルマザーが世界でもトップクラスの就労率でありながら、トップの相対的貧困率の置かれた状況を指摘します。比較的政策の関与によっての効果が表れる貧困率の現状は、日本の福祉政策の弱さを示しており、女性への構造的暴力をいかに解体できるのかという観点から政策を検討すべきと述べています。

成蹊大学法学部の西村美香氏が司会進行し、ジョブ型の賃金に対する意見交換に一番時間が掛けられる形になりました。組合側からは、企業に都合のよいようにジョブ型が導入されることへの危惧が強く、なかなか同じところから前に進めない状況を改めて感じるとともに、パネリスト間では、最低賃金の低さの問題はある程度共有されていることもわかりました。もちろん、企業側の反発は強いわけですが。

さらに、自治体が非正規雇用にしても、アウトソーシングを入札により結局労働条件が押し下げられている問題にしても、男女格差、正規と非正規の格差に悪い意味での大きな役割を果たしていることを改めて感じざるをえませんでした。アウトソーシングの問題について挙げられていた実例を簡単に紹介したいと思います。窓口業務の委託会社から時給1200円で雇用されていた人がいました。翌年入札で別の会社が落札し「仕事をを続けたいなら、その会社に移ってください」と言われ、低い価格で落札した業者からは時給1100円になってしまう。キャリアも経て仕事も覚えて時給だけ下がる、そういう状況を生み出す入札になっているわけで、それを防ぐには、まずは委託事業者に労働者の賃金や労働条件を担保させる「公契約条例」の導入からしっかり取り組まないといけないよなと思いました。

限られた時間で、しっかりとした結論が出るわけもないですが、様々な課題を整理して把握し、問題意識を持つためにはなかなかいい資料で、楽しく読めたなというブックレットでした。