総合診療医からの健康アドバイス

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新しい薬でのがん治療

2016-11-21 10:47:53 | お知らせ

 皆様こんにちは。総合診療医からの健康アドバイスの時間です。今回は緊急記事をお届けします。

「新しい薬でのがん治療。精密医療(プレシジョン・メディシン)とは何か?そしてその課題とは?」

をどうぞ。

 

 
【1】精密医療とは?

 
 精密医療(プレシジョン・メディシンPrecision Medicine)とは何でしょうか? 聞きなれない言葉ですね。

 昨年、米国のオバマ大統領が、これから目指すべき医療の在り方として、2016年度から2億ドル以上の資金を投じることを発表しました。

 この発表により、この言葉が一気に世界に広がりました。

 これは「精密医療イニシアチブ」と呼ばれています。

 

 精密医療とは、がんなどの病気になった人のがん細胞の遺伝子配列を調べて、同じ病気でも微妙に違う「個性」を検出して、最も効果的な治療薬を使って治療する、というものです。


 

 期待している結果は、病気になった細胞のDNAにある特徴に合わせてより効果的な治療を行えば患者さんの治療結果が良くなることです。


 実際に、進行がんがこの治療で消えた人も多数出てきています。


 また、ある治療薬の副作用が出るリスクの高い患者さんでその薬の使用を控えることも可能になります。
 


【2】個別化医療との違い
 
 精密医療と個別化医療(パーソナライズド・メディシンPersonalized Medicine)を混同している人がいます。

 医者や研究者のなかにもいます。

 しかし、両者は同じ概念ではありません。
 
 

 従来型の医療は、「one-size-fits-all」型医療と呼ばれ、「平均的な患者」に対してデザインされたものといわれます。

 しかしながら、現実の臨床現場では、病気の個別の状態やステージ、患者さんの社会心理的な背景、多臓器障害の状況、患者本人の希望、医療環境の状況、などを考えて、個別化した医療を提供しているのです。

 そのため、従来型の医療はもともと個別化医療なのです。
 

 精密医療とは、従来型医療とは異なり、病気の状態を分子レベルまで分析して、その分子を標的とした治療介入を行うというものです。

 身長・体重や血圧より全ての遺伝子を調べたほうがより「精密」な医療介入を行う、という発想です。
 

 米国では、NIH(国立健康研究所)などが中心となって、100万人規模のコホート研究(住民や集団を定期検査して死亡するまで継続的にフォローすること)をスタートさせました。
 

 このコホート研究の計画は、人々の電子カルテに、診察や検査データに加えて、全ての遺伝子データ(全ゲノム情報)を記録していき、病気や治療データと合わせたビッグデータとして分析していくというものです。
 


【3】精密医療の課題
 

 精密医療にも課題はあります。

 まず、がん治療では期待されますが、生活習慣病にはあまりなじまないということ。

 生活習慣病のリスクの違いは個別の遺伝子配列の違いではほんのわずかな差のみに由来します。

 そして、そのような遺伝子配列の違いについて本人が知ったとして、生活習慣改善につながるかどうかが不明なことです。
 

 乳がんや卵巣がんの原因とされるBRCA遺伝子異常を持つ患者は乳がんや卵巣がん患者の約5%のみです。

 BRCA遺伝子を発見して治療(予防的乳房切除)を行うことで乳がん死亡のリスクを下げた人々は、全乳がん患者のうちほんのわずかなのです。
 

 精密医療の初期研究デザインは、データマイニングと呼ばれる「仮説なき発見」を主体としています。

 特異的な遺伝子配列と病気との関連について因果関係を証明するためには、研究対象者の選択や個々の背景因子によるバイアスも考えて慎重に判断しなければなりません。

 その意味では、精密医療の研究も「仮説と検証」という自然科学の研究方法の基本路線を守る必要があります。
 

 精密医療では、個別化を進めていくために、大規模臨床試験が本質的に難しくなっていきます。

 Nof 1研究(1人の患者に対してトライアル・アンド・エラー式に薬を試して効果を測る)が主体となるでしょう。

 Nof 1研究を進めていくためには、「勇気」あるボランティアが必然となります。
 

 精密医療のコストも課題です。国民全員の全ゲノム解析のコストは膨大となります。

 また、個別化に基づく少人数のためのオーダーメイド薬のコストは高くなります。

 既製品より、オーダーメイドの洋服が高いことは当然のことで。
 

 最後は国民全体への効果のサイズの課題です。

 歴史的にみて、死亡低下や寿命の延長は、医療介入ではなく、保健介入でした。

 人々が病気にならなくなり、病気になっても死ななくなった最大の理由は、薬や検査の開発ではなく、衛生状態や栄養状態の改善、ワクチン接種の普及、禁煙の普及だったのです。
 

 しかしながら、精密医療には、不治の病とみなされてきた病気に罹った患者を少人数でも治癒させる可能性があります。

 われわれがこれから目指す健康増進は、精密医療のメリットを「精密」に評価して、既存の保健医療のシステムにバランス良く組み込みことでしょう。
 

 

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