Are you Wimpy?

次々と心に浮かぶ景色と音。
そこからは絶対に逃げられないんだ。

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1.流れ星の夜

2019年11月01日 | 日記
誰かが寝ている僕の足元を軽く蹴った。

それでも僕は眠くて眠くて,知らんぷりをしてそのまま目をつぶっていたんだ。
そしたら,そいつはもっと力を込めて蹴り上げた。

履いていたのは頑丈なブーツだったけど,流石に痛みを感じるほどだったんで,目を閉じたまま返事をすることにした。

「なんなんだ?」
「ウィンプ,起きろよ。流れ星だぜ」
「流れ星?」

背中が痛い。

当り前さ。
だって地面に寝てるんだから・・・。

僕は少し目を開けて,そのまま日本では見たことがない満天の星空をぼんやりと眺めた。

確かにほうき星がゆっくりと流れて行く。

しかも2つもだ。

「大変だ。願い事をしないと」

もう体中が痛くて仕方なかったけど,僕はぴょんと飛び起きて,そのほうき星の方を見上げた。

「ほんとだ。流れ星だ」

そして突っ立ったまま両手を胸の前で組んで目をつぶって祈った。

クスクスと聞きなれた笑い声が聞こえた。
昔見た「チキチキマシン猛レース」とか言ったアニメのケンケンってゆう犬みたいな笑い方はイギリス人のビクターだ。

すると,どもりのある独特な英語でリアノが僕に聞いた。
コイツが僕の足を蹴ったに違いない。

「ウィンプ,お前何を祈ってんだ?」
いつもの様に馬鹿にしたような話し方だ。
スペイン人はみんなこうなんだろうか。

「そんなの決まってんだろ。この国に平和が来るように」

ビクターが吹き出す。
リアノが意地悪な調子で笑い始めた。

僕は続けた。
「かわいそうな人たちを救ってもらうのさ」

ビクターや他の仲間も一斉に大笑いを始めた。

「お前,最高のジョーカーだぜ」
だれかが笑いながら罵った。
「ああ,最高のブラックジョークだな,ジャップ」

連中の笑い声は暫く続いた。
「祈りはよ,きっと届けられるぜ,なぁ!」
笑い声が夜空に轟いた。

僕はそんなこと気にせずに祈り続けた。
馬鹿にされたって,そんな事はどうでも良かったんだ。
だから僕は祈り続けた。
とにかく立ちっ放しで祈り続けた。
ずっと祈ってたら,少しずつ笑いが途切れて何故か白けたムードが漂い始めた。

「よせよ,ジャップ」
リアノが地面を軽く蹴り上げた。
舞い上がった砂粒が顔にぶつかったが,僕は祈りをやめなかった。

ジョークなんかじゃない。
本気で祈ってたんだ。

もうとっくに僕は神様なんか信じられなかったから,せめて流れ星に希望を託していたのかもしれない。

きっと世界中の人たちは見ることも聴くこともない。

瓦礫だけになったこの国の景色を。
僕の耳の中に永久に居座ることになる絶望に満ち溢れた吐息の音を。

だから僕は本気で信じて流れ星に願いを託していた。

「ウィンプ。悪かった。だからやめてくれ」
リアノの口調からは嘲りの調子は姿を消していた。

僕は一瞬力が抜けて跪いた。

不気味なほどの静けさが広がっていた。
もうだれも笑わない。

僕は両手を地面について大きくため息を吐いた。
力弱く瞼を開くと真っ白な息がゆっくりと漂っていた。

リアノがしゃがみ込んでるのが見えた。
泣いてるのだろうか・・・。

「もうよせよ,ウィンプ」
僕の肩に手を掛けてビクターが苦し気に言った。

ほんとさ。
その時は本当に知らなかったんだよ。

あれが流れ星なんかじゃないってことを。

後で流れ星だと思ってたのが何なのか知った時に僕は確信した。

やっぱり神様はいるわけないんだと。