1/31
「悪魔」
【あらすじ】
エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。
「ボッコちゃん」
【あらすじ】
バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。
2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。
「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。
「来訪者」
【あらすじ】
突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。
「変な薬」
【あらすじ】
ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。
「月の光」
【あらすじ】
五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。
2/2
「包囲」
【あらすじ】
私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。
「ツキ計画」
【あらすじ】
新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。
「暑さ」
【あらすじ】
1/31
「悪魔」
【あらすじ】
エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。
「ボッコちゃん」
【あらすじ】
バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。
2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。
「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。
「来訪者」
【あらすじ】
突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。
「変な薬」
【あらすじ】
ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。
「月の光」
【あらすじ】
五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。
2/2
「包囲」
【あらすじ】
私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。
「ツキ計画」
【あらすじ】
新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。
「暑さ」
【あらすじ】
ある暑い夏の日。交番に一人の男がやってきた。別に犯罪を犯したわけではないが自分を逮捕してほしいという。不思議に思った巡査が訳を尋ねると、その男は暑さを感じると何かを殺さずにはいられなくなるという。はじめはアリ、次の年はカナブン、その次の年はカブトムシ。おととしは犬で去年はサルだった。最近はもう秋から準備をしているらしい。話を聞いた巡査は犯罪を犯していないものは逮捕できないと男を帰らせる。別れ際になにげなく巡査が聞く。「家族はあるんだろう」「ええ、去年の秋に結婚して……」
【所感】
この男が次に犯罪を犯すのが読者の目にははっきりうつる。しかしそれを見逃してしまう巡査のおろかさと、犯罪者になる前に自首する男のとんちんかんな行動の対比がこの話をより面白くさせている。
「約束」
【あらすじ】
空飛ぶ円盤が着陸。宇宙人は植物の標本を少し手にいれようと地球に寄り道したのだ。そこで野原で遊んでいた子どもたちに遭遇。子どもたちは宇宙人の植物集めを手伝った。宇宙人がお礼をしたいというと、子どもたちは大人にウソをつかないようにしてほしいといった。宇宙人は帰りにもう一度地球によってそれをすることを約束した。
帰路。宇宙人がもう一度地球によってみると子どもたちは大人になっていてこういった。「そんな約束なかったことにして、いまさらよけいなことはしないでくれ」
【所感】
あどけない子どもたちも結局大人になれば純粋さは消えてしまう。この事実を宇宙人という別世界の生物の視点から見ることにより、地球の人間のおろかさをうまく描き出している。
「猫と鼠」
【あらすじ】
毎月二十日。私は決まってある男に催促の電話をかける。昔やった殺人を種にゆすっているのだ。しかしとうとう我慢ができなくなったのだろう。この男は綿密な計画をたてて私を殺すことにしたらしい。いいだろう、しかしきっと驚くことになる。なんせ毎月二十一日には私の犯した殺人を種にゆすってくる人物がいるんだから……。
【所感】
猫と鼠。力関係がはっきりしているが、「窮鼠猫を噛む」こともある。まさにこの話は「窮鼠猫を噛む」。しかし、猫を噛んだ窮鼠には新しい猫が現れてしまうのだ。物語の結末が容易に想像できないところに著者の工夫がある。
「不眠症」
【あらすじ】
ケイ氏は不眠症だった。全くもって眠れないので夜中も仕事をすることにした。睡眠なしで二十四時間働いたためお金がかなりたまった。そこでかなり高価な不眠症を治す薬をうってもらうことに。そこで目が覚めすべてが夢だったことに気付く。ずっと眠りから覚めないので高価な薬を投与されたらしい。その金額はこれから当分眠らずに働かなければ払えない金額だった。
【所感】
最後の最後に大どんでん返し。読者に予想をさせない結末を用意することでこの作品を面白くさせている。
2/3
「生活維持省」
【あらすじ】
生存競争と戦争のない平和な世界。この平和な世界が保たれているのはこの生活維持省のおかげである。そしてこの生活維持省の仕事は生存競争にならないために毎日機械が無作為に割り出した人間を抹消し人口を増やさないようにすることだった。
【所感】
平和な世界とはみんなが憧れる理想の世界。そんな理想の世界が実現するためには人を無作為に殺していく生活維持省の存在が必要。この矛盾がこの話の面白さだ。最後に生活維持省で働く人物もターゲットとして選ばれ、それに素直に応じているところが皮肉でもあり、おかしさをかもしだしている。
2/4
「悲しむべきこと」
【あらすじ】
クリスマスの日。エヌ氏の住む大邸宅に強盗が侵入してきた。なんとサンタクロースだ。今まで無償で子どもたちにプレゼントを与え続け、とうとう借金までしていると言う。そこでエヌ氏は提案する。デパートはクリスマスセールで一儲けをしているがサンタクロースはそれを報酬としてもらう権利があるはず。Gデパートは多大な売り上げを得たのでGデパートから金をるべきだと。Gデパートの地図を渡し、サンタクロースを見送ったエヌ氏は別のデパートの社長だった。
【所感】
サンタクロースというファンタジー要素の強い人物をあえて現実的に描いているところがこの作品の特長である。また強盗に入るサンタクロース、自分のライバル会社のデパートを強盗するように提案する社長とのまじめなやりとりが客観的な目の読者からすると面白い。
2/5
「年賀の客」
【あらすじ】
若い男が老人の家に新年のあいさつに訪れる。非常によく面倒をみてもらったのでそのお礼だ。しかし老人は去年その男に出会うまでは金の亡者だったという。三十年前に金をせねだりに来た男を無視した経験があり、その男は生まれ変わりを信じていた。老人は変なねだり方をするその男に金をやらないまま、その男は死んだ。そして若い男が老人を訪れたその日から老人の孫は変な金のねだり方を始めたのだ。
【所感】
ただ若い男が昔の金をねだりに来た男に似ているというだけでなく、老人の孫も巻き込むことで読者に容易に結末を想像させないように工夫が見られる。単純なストーリをひとひねりしているところはさすが星新一だ。
「狙われた星」
【あらすじ】
宇宙人がいろいろな星の生物を次々にやっつけて遊んでいる。次のターゲットは地球。早速地球から一匹つかまえて皮をはいだ。そしてその皮をとかすビールスをつくり、地球にばらまく。ところが、だれも死なない。薄気味悪くなった宇宙人は引き上げることにした。地球では、だれもかれもが突然はだかになった現象を解決すべく、調査にとりかかりはじめていた。
【所感】
宇宙人と地球人の文化の違いをおもしろおかしく描いた作品。宇宙人は人間の服を皮だと思う。人間からしてみたら服を着ることが常識のことも別の世界の目で見ると非常識なことなのだ。このように読者の常識をくつがえす視点から描けるのは星新一の特長といってもよい。
「冬の蝶」
【あらすじ】
全てのことが自動でできる社会。夫婦はそんな便利な社会を堪能していた。ところが突然の停電。あらゆることがストップしてしまい、夫婦は何もできない。ひたすら元に戻るのを待つだけだが一向にそんな気配はない。厳しい寒さの中、二人は永遠の眠りにつこうとしていた。そんな中でペットのサルだけが元気に火を熾していた。
【所感】
便利な社会には欠点がある。誰もが便利な社会をのぞむが結局また原点に戻ってしまう。そのおろかさをうまく風刺した作品。内容としても分かりやすくので読者に受け入れられやすい。
「悪魔」
【あらすじ】
エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。
「ボッコちゃん」
【あらすじ】
バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。
2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。
「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。
「来訪者」
【あらすじ】
突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。
「変な薬」
【あらすじ】
ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。
「月の光」
【あらすじ】
五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。
2/2
「包囲」
【あらすじ】
私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。
「ツキ計画」
【あらすじ】
新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。
「暑さ」
【あらすじ】
1/31
「悪魔」
【あらすじ】
エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。
「ボッコちゃん」
【あらすじ】
バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。
2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。
「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。
「来訪者」
【あらすじ】
突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。
「変な薬」
【あらすじ】
ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。
「月の光」
【あらすじ】
五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。
2/2
「包囲」
【あらすじ】
私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。
「ツキ計画」
【あらすじ】
新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。
「暑さ」
【あらすじ】
ある暑い夏の日。交番に一人の男がやってきた。別に犯罪を犯したわけではないが自分を逮捕してほしいという。不思議に思った巡査が訳を尋ねると、その男は暑さを感じると何かを殺さずにはいられなくなるという。はじめはアリ、次の年はカナブン、その次の年はカブトムシ。おととしは犬で去年はサルだった。最近はもう秋から準備をしているらしい。話を聞いた巡査は犯罪を犯していないものは逮捕できないと男を帰らせる。別れ際になにげなく巡査が聞く。「家族はあるんだろう」「ええ、去年の秋に結婚して……」
【所感】
この男が次に犯罪を犯すのが読者の目にははっきりうつる。しかしそれを見逃してしまう巡査のおろかさと、犯罪者になる前に自首する男のとんちんかんな行動の対比がこの話をより面白くさせている。
「約束」
【あらすじ】
空飛ぶ円盤が着陸。宇宙人は植物の標本を少し手にいれようと地球に寄り道したのだ。そこで野原で遊んでいた子どもたちに遭遇。子どもたちは宇宙人の植物集めを手伝った。宇宙人がお礼をしたいというと、子どもたちは大人にウソをつかないようにしてほしいといった。宇宙人は帰りにもう一度地球によってそれをすることを約束した。
帰路。宇宙人がもう一度地球によってみると子どもたちは大人になっていてこういった。「そんな約束なかったことにして、いまさらよけいなことはしないでくれ」
【所感】
あどけない子どもたちも結局大人になれば純粋さは消えてしまう。この事実を宇宙人という別世界の生物の視点から見ることにより、地球の人間のおろかさをうまく描き出している。
「猫と鼠」
【あらすじ】
毎月二十日。私は決まってある男に催促の電話をかける。昔やった殺人を種にゆすっているのだ。しかしとうとう我慢ができなくなったのだろう。この男は綿密な計画をたてて私を殺すことにしたらしい。いいだろう、しかしきっと驚くことになる。なんせ毎月二十一日には私の犯した殺人を種にゆすってくる人物がいるんだから……。
【所感】
猫と鼠。力関係がはっきりしているが、「窮鼠猫を噛む」こともある。まさにこの話は「窮鼠猫を噛む」。しかし、猫を噛んだ窮鼠には新しい猫が現れてしまうのだ。物語の結末が容易に想像できないところに著者の工夫がある。
「不眠症」
【あらすじ】
ケイ氏は不眠症だった。全くもって眠れないので夜中も仕事をすることにした。睡眠なしで二十四時間働いたためお金がかなりたまった。そこでかなり高価な不眠症を治す薬をうってもらうことに。そこで目が覚めすべてが夢だったことに気付く。ずっと眠りから覚めないので高価な薬を投与されたらしい。その金額はこれから当分眠らずに働かなければ払えない金額だった。
【所感】
最後の最後に大どんでん返し。読者に予想をさせない結末を用意することでこの作品を面白くさせている。
2/3
「生活維持省」
【あらすじ】
生存競争と戦争のない平和な世界。この平和な世界が保たれているのはこの生活維持省のおかげである。そしてこの生活維持省の仕事は生存競争にならないために毎日機械が無作為に割り出した人間を抹消し人口を増やさないようにすることだった。
【所感】
平和な世界とはみんなが憧れる理想の世界。そんな理想の世界が実現するためには人を無作為に殺していく生活維持省の存在が必要。この矛盾がこの話の面白さだ。最後に生活維持省で働く人物もターゲットとして選ばれ、それに素直に応じているところが皮肉でもあり、おかしさをかもしだしている。
2/4
「悲しむべきこと」
【あらすじ】
クリスマスの日。エヌ氏の住む大邸宅に強盗が侵入してきた。なんとサンタクロースだ。今まで無償で子どもたちにプレゼントを与え続け、とうとう借金までしていると言う。そこでエヌ氏は提案する。デパートはクリスマスセールで一儲けをしているがサンタクロースはそれを報酬としてもらう権利があるはず。Gデパートは多大な売り上げを得たのでGデパートから金をるべきだと。Gデパートの地図を渡し、サンタクロースを見送ったエヌ氏は別のデパートの社長だった。
【所感】
サンタクロースというファンタジー要素の強い人物をあえて現実的に描いているところがこの作品の特長である。また強盗に入るサンタクロース、自分のライバル会社のデパートを強盗するように提案する社長とのまじめなやりとりが客観的な目の読者からすると面白い。
2/5
「年賀の客」
【あらすじ】
若い男が老人の家に新年のあいさつに訪れる。非常によく面倒をみてもらったのでそのお礼だ。しかし老人は去年その男に出会うまでは金の亡者だったという。三十年前に金をせねだりに来た男を無視した経験があり、その男は生まれ変わりを信じていた。老人は変なねだり方をするその男に金をやらないまま、その男は死んだ。そして若い男が老人を訪れたその日から老人の孫は変な金のねだり方を始めたのだ。
【所感】
ただ若い男が昔の金をねだりに来た男に似ているというだけでなく、老人の孫も巻き込むことで読者に容易に結末を想像させないように工夫が見られる。単純なストーリをひとひねりしているところはさすが星新一だ。
「狙われた星」
【あらすじ】
宇宙人がいろいろな星の生物を次々にやっつけて遊んでいる。次のターゲットは地球。早速地球から一匹つかまえて皮をはいだ。そしてその皮をとかすビールスをつくり、地球にばらまく。ところが、だれも死なない。薄気味悪くなった宇宙人は引き上げることにした。地球では、だれもかれもが突然はだかになった現象を解決すべく、調査にとりかかりはじめていた。
【所感】
宇宙人と地球人の文化の違いをおもしろおかしく描いた作品。宇宙人は人間の服を皮だと思う。人間からしてみたら服を着ることが常識のことも別の世界の目で見ると非常識なことなのだ。このように読者の常識をくつがえす視点から描けるのは星新一の特長といってもよい。
「冬の蝶」
【あらすじ】
全てのことが自動でできる社会。夫婦はそんな便利な社会を堪能していた。ところが突然の停電。あらゆることがストップしてしまい、夫婦は何もできない。ひたすら元に戻るのを待つだけだが一向にそんな気配はない。厳しい寒さの中、二人は永遠の眠りにつこうとしていた。そんな中でペットのサルだけが元気に火を熾していた。
【所感】
便利な社会には欠点がある。誰もが便利な社会をのぞむが結局また原点に戻ってしまう。そのおろかさをうまく風刺した作品。内容としても分かりやすくので読者に受け入れられやすい。