通訳・翻訳の勉強部屋

通訳・翻訳者を目指し、日々勉強を続けております!!

Tuesdays with Morrie

2006-05-27 14:24:51 | リーディング
2/2「カリキュラム」
 ぼくの老教授の最後の授業は先生の自宅で行われた。毎週火曜日。教科書はなし。テーマは人生の意味。最終試験はなかったが最後に論文を作成しなければならなかった。それがこれ。先生による最後の授業の生徒は一人。それがぼくだった。

2/6
大学の卒業式の日。ぼくはモリーにブリーフケースをプレゼントする。モリーのことを忘れたくなかった。モリーにもぼくのこと忘れてほしくなかった。別れのあいさつ後、モリーは泣いていた。

「概要」
 ダンス好きだったモリー。しかし、そのダンスができなくなり、ぜんそくに悩まされるようになり、とうとう倒れた。体の何かがおかしいことをモリーは感じていた。たくさんの検査を通して受けた宣告は難病ALS。病気はモリーの体をむしばんでいった。自分で体を動かすのが困難になってきたモリー。しかし、彼の元を訪れる人はあとをたたない。そんな中、モリーの提案で生前葬式を行った。生前葬式は大成功。だが、これからがモリーの尋常でない時期だった。

2/8「学生」
 モリーと連絡をとろうと約束をしたのにぼくはずっと連絡をとらなかった。ミュージシャンになりたかったが夢は叶わず、大好きだったおじさんの死に直面してぼくは院に行きなおしスポーツライターの道に進んだ。仕事に追われる日々。そんなある日、ぼくはテレビのチャンネルを次々にかえているうちに、ふと耳に入ったものがあった。

2/13
「視聴覚教室」
 モリーの病気は進行。足は動かなくなった。それでもモリーは負けなかった。いろいろな警句を知人にきかせた。その一つをかつての同僚が新聞社に送り、それがきっかけで「ナイトライン」のテレビ出演が決まる。
 「ナイトライン」はモリーの家で収録され、金曜の夜に放送された。「モリー・シュワルツとは誰ですか?」テレビから聞こえたこの言葉にぼくはかたまってしまった。

2/15
「オリエンテーション」
 十六年ぶりのモリーとの再会。モリーは車椅子でやせこけていた。モリーの部屋で恩師と話し始める。気付かないうちに最後の講義は始まっていた。

「教室」
 モリーは質問をぼくになげかける。「自分に満足しているかい?」「精一杯人間らしくしているかい?」

2/17 
「出欠確認」
 「われわれのこの文化は人びとに満ち足りた気持ちを与えない。文化がろくな役に立たないんなら、そんなものいらないと言えるだけの強さを持たないといけない」

「第一の火曜日――世界について」

「今となっては人生をユニークに見ないといけない。まっこうからぶつかるんだ」「人生で大切だと思われるものに目を注いでいられる」
「この病気のおかげでいちばん教えられていることは何か、教えてやろうか?」「人生でいちばん大事なことは、愛をどうやって外に出すか、どうやって中に受け入れるか、その方法を学ぶことだよ」
「今度の火曜日も来るね?」

 大学の講義。沈黙の実験。人は沈黙をいやがる。でもぼくは沈黙はかまわない。そんな様子のぼくを見たモリーが自分の若い頃に似ているという。 

2/19
「第二の火曜日 自分をあわれむこと」
 モリーは朝にほんの少し自分をあわれんだらもうあとは自分をあわれむことを許さないという。「さよならを言える時間がこれだけあるのは、すばらしいことでもあるよ。みんながみんなそれほどしあわせってわけじゃない」

大学三回生のある日の授業。自分達が実験台。「目に見えるものが信じられなくて、心に感じるものを信じなければならないときがあるんだ。他人から信頼してもらうには、こちらも相手を信頼してかからなければならない」

2/24
「第三の火曜日――後悔について」
 ぼくはモリーとの会話をテープレコーダーに録音することにした。そしてモリーと話すことのリストを作った。

 大学四年次、ぼくは卒業論文をモリーと一緒に書いた。
 
1/30「視聴覚教室――第二部」
「ナイトライン」の二回目の収録。モリーの舌はもつれ、もうすぐ話せなくなるだろう。しかしモリーは言う。「愛があれば話す必要はないんだ」
 番組の終わりに一枚の手紙について話す。幼くして親を亡くした子どもの話。そしてまたモリーも幼い頃に母親を亡くし、その心の傷は未だに癒えていないのだ。

2/2「教授」
 モリーが八歳のときに母親が亡くなった。そして弟が小児麻痺にかかる。その後新しい母親エバが来る。モリーが十代になって父親は肉体労働をさせようとしたが、モリーはこういう仕事はしたくないと思った。弁護士も医者もいやだった。モリーがぼくにとって素晴らしい教授になったのはこんな偶然が重なったからだ。

2/8
「第四の火曜――死について語る」
「どう死ぬかが分かると、どう生きるかが分かるんだ」

2/13
「第五の火曜日――家族について」
 今日の話題は家族について。ぼくには姉と弟がいる。弟は伯父と同じ癌におかされ、アメリカではできない治療をスペインでうけていた。何回も連絡をとろうとしたが弟は拒否。一人で闘病している。今考えると、モリーはこのことを知っていたんだろう。

2/17
「第六の火曜日――感情について」
 モリーの病状が悪化してきている。それでもモリーは会って話をしてくれる。「自分を経験から引き離すことが大事。引き離すことを学びなさい」

2/24
「教授――第二部」
 モリーは院卒業後、精神病院に勤めた。多くの患者は裕福だった。モリーはお金では幸せや満足は買えないことを学んだ。
 モリーのところにはたくさんの教え子たちが訪れた。全員口をそろえて言う。「あなたみたいな先生、他にいません」

 モリーのところへ訪ねるうちにぼくは死についての本を読むようになった。その内容。

2/26
「第七の火曜日――老いの恐怖」
 モリーはとうとう他人に自分の尻をふいてもらわなくてはならなくなった。しかし、このことを「もう一度赤ちゃんに戻ることができる」と言っていた。
 老化はすべての人が嫌がることだが、モリーは老化を喜んで受け入れるという。年を重ねるにつれて経験を積むことができるからだ。

3/1
「第八の火曜日――お金について」
 モリーは愛に飢えているとその代用にモノが欲しくなるのだという。病気になったときからモノを買う意欲はなくなったのだ。人に何かを与えることが自分が生きていると感じられる。車や家ではそう感じられないのだ。

3/6
「第九の火曜日――愛はどこに行くかについて」
 ナイトラインからまた取材したいと連絡がきた。だが今度は向こう側がもう少し待ちたいという。ぼくはモリーがもっと衰えるのを待とうとするテレビ局に腹が立った。だがモリーは利用しているのはお互いさまだと言う。モリーのメッセージをたくさんの人に伝えるにはテレビという媒体が必要なのだ。
「これは一緒にする最後の論文だね」
「愛は人はずっと生かすもの」
「墓石には『最後まで先生だった』と入れてほしい」
 モリーが父親と最後に会ったのはモルグ。父親はある夜強盗から逃げたところで心臓発作で道端に倒れた。それが最後だった。

 南アフリカの熱帯雨林に住むデサナ族は世界のエネルギーは一定に保たれていて誕生と死がくり返されているという。モリーもぼくもこの考えに賛成だ。「平等なんだよ」

「第九の火曜日――愛は続く」
『愛とは生きてとどまること』

3/13
「第十の火曜日――結婚について」
 モリーのところに初めてぼくの妻ジャニーンを連れていった。ジャニーンは歌手。モリーはジャニーンに歌を歌ってほしいと頼んだ。ジャニーンの歌を聴いてモリーは涙を流す。ぼくは彼女の歌をそんな風に聴いたことはなかった。
 結婚について話す。結婚が大切だという信念が大事だとモリーは言う。最後に好きな詩を引用した。「互いに愛するか滅びるか」

 聖書のヨブ記では、神がヨブの信念を試すためにわざと試練を与える。このことについてどう思うか尋ねたところ、モリーは「神はやりすぎたね」と言ってほほえんだ。

3/26
「第十一の火曜日――文化について」
モリーの状態は日に日に死へと近づいていった。
「誕生のときも生きるために他人を必要とする。人生の終わりのときも他人を必要とする」

4/20
「視聴覚教室――第三部」
 テレビ撮影の三回目。おそらくこれが最後になるだろう。モリーの体は弱りきっている。モリーは人生の意味は他人とのかかわりだと言う。テッドを含めナイトラインのスタッフ全員がモリーに感謝した。モリーは病気は自分の体をむしばんでも、魂をもむしばむことはないと言った。

4/22
「第十二の火曜――許しについて」
モリーは言う。自分を許すこと、他人を許すことが大事だと。ぼくはさよならを言うのが怖かった。

4/23
「第十三の火曜日――満足な日について」
『死は人生を終わらせるが、関係は終わらせない』
 モリーに健康な体になったら何がしたいかたずねると、平凡な一日を過ごすという。すごく平凡な日常に何の満足が得られるのか? ぼくはこれがすべてのポイントだと思った。
 モリーはぼくの弟について話す。ぼくと打ち解けてくれない弟。「弟さんのところに戻る道は見つけられるよ。私のところにも戻ってきてくれただろ?」

「第十四の火曜日――お別れを言う」
 モリーの容態はかなり悪化していた。モリーの手をぼくはにぎった。モリーは声も絶え絶えに「愛している」と言ってくれた。

「卒業」
 モリーは土曜に逝った。葬式が行われぼくは参加した。心の中でモリーと会話した。すごく自然だった。その日は火曜だった。

「結論」
 ぼくは弟に「愛している」と言って抱いた。そんなこと今までしたことなかった。それから弟とぼくの関係はよくなっていった。
 この本はモリーのアイデア。『最終論文』だ。
 先生の教えはまだ続いている。

【あらすじ】
 モリーは大学時代のミッチの恩師。しかし大学卒業後、連絡はとだえていた。だがある日、ふと見たテレビにモリーがうつっていた。しかもミッチの思い出の中にあるモリーとはかけはなれた病人の姿だった。
 モリーの病気はALS(筋萎縮性側策硬化症)。完治のない難病に侵されたモリーとミッチは十六年ぶりに再会した。
 それから毎週火曜日にモリーの最後の授業が始まった。テーマは人生の意味。
 自分で自分の世話をすることができないALS患者が病気になって見えてきたものを語る。忙しく動き回っている仕事人間にはモノやカネしか見えていない。社会がそうさせてしまっている。本当に大切なものは愛だ、モノやカネじゃない。
 モリーが死んだ後もミッチの中で火曜日の授業は続いていた。

【情報】
著者 ミッチ・アルボム
「デトロイト・フリープレス」紙のスポーツコラムニスト。
70年代後半、ブランダイス大学で学生時代を過ごし、社会学教授のモリー・シュワルツと出会う。卒業後、プロミュージシャンを目指すが、挫折。コロンビア大学でジャーナリズムの修士号を取得し、スポーツジャーナリズムの世界へすすむ。鋭い洞察と軽妙なタッチのコラムは高い評価を受け、AP通信によって全米NO.1コラムニストに過去13回選ばれている。
『モリー先生との火曜日』はアメリカで600万部を超え、ニューヨーク・タイムズ紙ノンフィクションベストセラーで4年間1位、世界的なベストセラーとなる。
この後執筆した初のフィクション『天国の五人』は全米フィクションベストセラー第1位を獲得、550万部の売り上げとなった。
現在、妻ジャニーンとミシガン州フランクリンに在住。

【評価】
 この作品の特筆すべき点は、人生の意味や愛について考えさせられる内容でありながら、それが全て実在の人物の語られた言葉であったという事実だ。モリーがALSという難病に侵されながらも、ただの闘病記としてではなく、人生の意味について深く掘り下げた内容がたくさんの読者の心を震わせたのではないだろうか。

【所感】
 人生の意味。誰もが考え、追究するテーマ。ノンフィクションでそれを考えさせられる作品は少ない。そういう面でたくさんの人たちが求めていた作品なのではないだろうか。モリーの言葉は単純明快で、せかせかと働く現代人の心につきささり深く考えさせられるようになっている。分かりやすい上に考える内容は深い作品である。

ぴーたーらびっと

2006-03-13 09:38:46 | リーディング
【登場人物】
ピーターラビット…いたずら好きのウサギ。
マクレガーさん…人間。ピーターのお父さんを食べた。
ミセスラビット…ピーターのお母さん。
フロプシー、モプシー、コットンテイル…ピーターの兄弟。

【あらすじ】
 昔々四羽の兄弟ウサギとお母さんウサギが住んでいた。ある日お母さんは買い物に出かけ、マクレガーさんの庭には近づかないように子どもたちに注意をした。お父さんはマクレガーさんに食べられてしまったからだ。三羽の兄弟たちはお母さんの教えを守ったが、いたずら好きのピーターはマクレガーさんの庭へ行った。そして野菜をつまんでいるとマクレガーさんに見つかりいそいで逃げた。いろいろな場所で道に迷ったり捕まったりしそうになりながらやっとの思いでお母さんと兄弟の待つ家に帰ることができた。へとへとのピーターだったが、お母さんから少しのカモミールティーしかもらえなかった。

【所感】
 子ども向きの絵本。ピーターの逃走劇がかわいらしく分かりやすくスリル満点で描き出されている。挿絵も可愛らしく、さすが世界中から愛されている作品であると言える。

わがはいはねこである

2006-03-08 14:51:24 | リーディング
1我輩は猫である。名前はまだない。家なしだったが教師を職業とする主人の家に飼われることとなった。ここで生涯気楽に過ごそうと思っている。
 車屋に飼われる猫の黒に出会う。図体がでかく乱暴な言葉遣いの黒だが、我輩と親しくなった。

AMERICAN FOLK TALES

2006-03-01 08:50:43 | リーディング
Maui Rescues His Wife(マウイ、妻をすくう)
【あらすじ】
 漁師のマウイは弟と釣りに行き、大きな手ごたえを感じる。なんと諸島が釣れた。これがハワイ諸島のはじまりだった。
 
 この頃、世の中は非常に暗かった。陸に雲がおおいかぶさっていた。植物も成長できないし人間もよつんばいで歩かねばならなかった。
 マウイはこのままではよくないと、空を押し上げた。すると日中は太陽が現れ夜にはたくさんの星が輝くようになった。
 しかし日は非常に短かった。マウイの母が洗濯物がかわかないと訴えたため、マウイは太陽を捕まえロープで縛りもっと遅くすすむように言った。それで太陽はゆっくりすすむようになった。

 ある日マウイの妻は人食い鬼の首領ペアペアに捕らえられてしまう。マウイはおじいさんに大きな鳥の着ぐるみを作ってもらい、妻を助けにいくことにした。ペアペアは八つの目をもつ怪物。その八つの目が全部閉じて完全に眠りについた瞬間マウイはペアペアを襲い、妻を助けたのであった。

2Scarface(スカーフェイス)
 ブラックフットのインディアンの部族にたいそう美しい少女がいた。たくさんの男が求婚したが少女はすべて断る。父親が理由を聞くと、太陽がどの男も純粋な心をもっていないから結婚してはいけないと告げられたと少女は答えた。
 ある日少女は川でスカーフェイスという男に会う。彼は部族の中で一番貧しく家族も家もなかった。そして顔には醜い傷があり、周りから笑い者にされていた。スカーフェイスが少女に求婚すると、少女は承諾した。ただし、太陽の住み家に行って結婚の許可をもらってきてほしいという条件を出した。そしてスカーフェイスは太陽の住み家を探しに旅に出た。
 太陽の住み家をいろいろな動物に聞いたが分からず、スカーフェイスの体もボロボロになっていった。最後にアナグマに聞いたところ、太陽の住み家の近くまで案内してくれた。そして白鳥の助けを借り向こう岸へ。そこでハンサムな若者に出会う。名は明けの明星。実は太陽の息子だった。スカーフェイスが正直者だったので、明けの明星は太陽の住み家に案内することにした。
 太陽の住み家には母親の月もいた。明けの明星の強い押しにより、太陽はスカーフェイスに息子の狩りのボディーガードをするように言う。明けの明星以外の兄弟達はみんな巨大な鳥の餌食にされてしまったのだ。 二人で狩りに向かい、スカーフェイスは明けの明星の命を救い、巨大な鳥を倒してまた太陽の住み家へと戻った。
 インディアンの村に戻ってきたのは顔に傷もなく、服装も立派になったスカーフェイス。そして少女と結婚し偉大なまじない師となった。

3The Tar Baby(タール人形)
 うさぎさんはたいへんいたずら者だった。だまされた動物は数知れず。そのお話。
 まずワニさん。ワニさんは「面倒なこと」が何かを知らなかった。うさぎさんは「面倒なこと」が何かを教えてあげようといって、ワニさんがうたた寝している間に周りに火をつけ、ワニさんの皮をチリチリにしてしまった。
 次はクマさん。クマさんに魚がたくさんとれるからと氷に穴を開けそこに尻尾を入れるよう促した。しかし結局魚がとれるどころかクマさんの尻尾は短く切れてしまった。
 あるとき干ばつのため水不足で動物たちは井戸を掘ることにした。ウサギさん以外で。クマさんは、ウサギさんは手伝わなかったから水はあげないという。ウサギさんは夜にこっそり水をとろうと井戸に近づき、そこでキツネさんを騙す。
 これを見た動物たちは井戸に一晩中見張りをつけることを決めた。そこでクマさんが持ち出したのがタール人形。一見うまくいきそうに見えたが、ウサギさんの悪知恵により、ウサギさんは助かってしまった。そしてウサギさんのいたずらはまだまだ続くのだった。

4Davy Crockett and Mike Fink
 デイビー・クロケットは自慢ばかりの大ぼら吹きだった。また別にマイク・フィンクという大うそつきもいた。二人はケンタッキーで出会い、デイビーはマイクの家に招待された。マイクの自慢が始まり、デイビーは黙って聞く。しかし、最後に射撃がうまいという自慢を聞いて、デイビーは異議を唱える。二人は射撃対決し、デイビーの腕に腹をたてたマイクが女を的に勝負を申し出ると、デイビーは負けを認めた。

5John and Master(ジョンと主人)
 ジョンは奴隷だった。ある日主人は黒人の天国に行った夢を見た話をジョンにすると、ジョンは白人の天国に行った夢を見たと言う。
 ある日ジョンは主人と奥さんの会話を外で盗み聞きし、次の日ジョンが頼まれることを先にやった。主人は驚き訳を尋ねたのでジョンは「ただ分かったのです」と答えた。これから毎日ジョンは同じことをしたので、主人はジョンには人の心を読む力があると確信した。
 主人はジョンのことを近所の農園主に自慢した。するとその力が本当にあるかどうか賭けをすることになった。ジョンは困ったが、主人はジョンの力を信じきっている。
 そして賭けの土曜日がやってきた。箱の中身をジョンにあててもらおうという主旨だ。最後の箱には死んだキツネが入っていた。ジョンに中身が分かるわけはなく、困ってついに発した言葉が「最後にキツネを負かしましたね」だった。
 年月はたち、ジョンは年をとった。主人が「25ドルでお前を自由にしてやろう」と言ってくれた。しかし、ジョンには25ドルの当てがない。それで毎日神様に祈ることにした。すると、神様が現れ次の日に岩の下を見てみろと告げた。ジョンは次の日言われたとおりの場所に行ってみると5ドルがあった。ジョンは感謝を述べたあと、あと20ドルを願った。そして次の日、そこにはさらに10ドルあった。あと10ドルをさらに願うと、神様は言った。「それならその15ドルをもう一度岩の下に埋めて次の日来なさい」すると、ジョンは言った。「ありがとうございます。でも私はこの15ドルを自分で持ってあとの10ドルはどこか別の場所で手に入れます」

6 Coyote and the Trader
 交易所でインディアンをペテンにかけるのがうまい白人がいた。「俺をだませるやつはいない」その言葉を受けて一人のインディアンが言った。「コヨーテならだませる」その白人はコヨーテに会うことにした。「みんなが君なら俺をだませると言っているのだが」「できるよ。でもだまし薬をとってこないと。君のウマを貸してもらえるかな?」白人はウマを貸すことに。しかし、ウマに乗っても走り出さないのでコヨーテは白人の服も貸して欲しいという。白人は服を脱いで裸のままコヨーテはウマにまたがって白人の服を身にまとい、走りさっていった。

7 Johon's Mule(ジョンのラバ)
 なんとか10ドルを工面して、ついに自由の身になったジョン。主人からはなむけにもらったラバと共に、ミシガンで農場を経営している従兄弟のところに行くことにした。長い長い道のりをラバと共に歩いた。途中で出会った者は皆口をそろえて「ミシガンのような寒いところではラバは生きていけない」と言った。
 そして従兄弟の家についた。ラバは小屋の中に入れられた。ミシガンは非常に暑かったが、ラバはちらばるポップコーンを見て雪と勘違いし、凍死してしまった。

8 Crazy for the Stuff(ウイスキーに夢中)
 カウボーイがウイスキー好きのインディアンについて話をする。インディアンに自分のウマとウイスキー一本を交換してくれと頼まれたがカウボーイは断った。そのウイスキーはカウボーイが持っていたたった一本のウイスキーだったからだ」

9Oolah!(ウーラ!)
 上院議員がインディアンの保留地にでかけ、次に出馬する選挙の票を獲得しようとした。インディアンの前で演説をする上院議員。インディアンは「ウーラ!」「ウーラ!」と歓声を上げる。最後にインド牛を見た上院議員が近づいてもいいかインディアンに尋ねると、「ウーラ(糞とウソをかけてある)には入らないように」といわれる。

10Welcome Home(お帰りなさい)
 農場主が数週間用事で家をあけた。その間農場の監督に留守番を頼んだ。農場主が帰ってきて、何か変わったことはないか尋ねてみると子犬が死んだだけだという答えがかえってきた。理由を尋ねると、ウマの餌を食べたかららしい。なぜウマの餌を食べたかと言うと、馬小屋が焼けてしまったからだと言う。なぜ馬小屋が焼けたかと言うと、農場主の義母が亡くなったからだと言う。なぜ義母が亡くなったかと言うと、農場主の妻が別の男と逃げたからだと言う。

11Jaghead Parker(とんまなパーカー)
 とんまなパーカーはいつもまわりにばかにされていた。ある日父ははパーカーにばかと言われないように知らない人とは口をきかないようにと言った。お父さんは厳しい人だったのでパーカーはそれに従った。
 ある日スイカを売りに父と街に出たパーカー。父が買い物をしている間、スイカの番をしていた。その時金持ちの夫婦がスイカを全部買いたいと言ったがパーカーは口を聞かない。夫婦は怒って帰ってしまった。
 また別の日、干し草をたくさん積んだ荷車をひっくりかえしてしまって泣きわめくパーカー。父に怒られるのを気にしているのだと思い、隣人がなだめ夕食をごちそうしパーカーの父に説明してあげると言ったところ、パーカーはこう答えた。「パパは干し草の下敷きになってるよ」

12The Pet Trout(ペットの鱒)
 お兄ちゃんは虹鱒を釣り、それを飼うことにした。お兄ちゃんは徐々に水の水位を下げ、その虹鱒を水がなくても呼吸できるようにした。お兄ちゃんと虹鱒はどんどん仲良くなっていった。ある日、お兄ちゃんが釣りに出かけ、虹鱒もそれについていった。そこで虹鱒は川に落ちて溺れて死んでしまった。

13 Mistaken Identity(人違い)
 ある日、サムだと思う人物に道端で会う。こちらが手を振ったらむこうも手を振りかえしてきた。そしてすれ違ってから人違いだったと気付いた。

14Two Hunting Dogs(二匹の猟犬)
 ぼくのお父さんは熱心なハンター。いつも猟犬と共に狩りをする。
 黒いラブラドールレトリバーのレディの話。レディはカモ取りの名人だった。だからお父さんはレディが妊娠しておなかが大きくなっても狩りに連れていった。大量のカモの群を撃ち、レディはいつものように川に飛び込んだ。しかし戻ってこなかった。お父さんは妊娠しているレディを狩りに連れて行ったことを悔やんだ。しかし、翌日また川へ行くとカモをくわえたレディが子犬を連れて泳いできたのだった。
 お父さんの愛情を最も受けた猟犬はブルーだった。ブルーはウサギ取りの名人でお父さんと同じ精神の持ち主だった。だからブルーが死んだとき、お父さんはかなち落ち込み、ブルーの毛皮をなめして手袋を作った。その手袋をはめて猟に出かけたとき、なんとその手袋がひとりでにウサギを捕らえたのだった。

15 Violet(すみれ)
 ボブは大学生。休暇で実家に帰っていたが、面白くないので社交クラブのパーティーに行こうと車を出した。そこで一人の少女に出会う。名はバイオレット。ドレスもすみれ色で目の色もすみれ色の美しい少女だった。ボブはバイオレットに恋をした。彼女に上着をかけたまま家に送り、翌日ボブはバイオレットの家に行った。母親が出たのでボブはバイオレットの友達だと言うと、バイオレットは一年前に亡くなったという。信じられないボブはお墓に行ってみると、上着がかかっていた。

文鳥

2006-03-01 07:18:34 | リーディング
【あらすじ】
 三重吉にすすめられ漱石は文鳥を飼う。仕事の合間にときどき世話をしてかわいがっていたが、餌をやるのを怠慢したため文鳥は死んでしまった。

【所感】
 文鳥の描写はさすが夏目漱石である。世話を焼きすぎず、かと言って気にはなる存在という文鳥と漱石の微妙な距離も、現実味があって読者の共感を得やすいのではないだろうか。当時精神を病んでいたといわれる漱石の心を癒すものとしてこの文鳥が一役かっていたことは間違いないだろう。

こころ

2006-02-16 07:27:59 | リーディング
上 先生と私

 私は偶然出会った先生に何か惹かれるものを感じ、懇意になった。世間を避けるように生きる先生は人間を信じていない。過去に何かあったらしい。それは先生が必ず一人で行く友人の墓参りに関係があるようだ。

1 私は書生。鎌倉へむかい、毎日海水浴をしていた。
2 私は西洋人をつれた先生と出会う。
3 私は先生を見に毎日浜辺へ。そして先生と懇意になった。
4 私は東京に戻る。そして先生の家をたずねる。二度ほど訪ねたが留守だった。
5 墓地の手前で先生に会うことができたが、先生はとまどっている様子。先生は友達の墓参りだと言ったきりで、多くを語らなかった。
6 私はたびたび先生のお宅に訪問するようになった。お墓参りを共にいきたいと申し出たが、話すことの出来ない理由があって他人と一緒にいきたくないと断られる。
7 私は頻繁に先生のお宅に訪問するようになる。先生は言う。「私は淋しい人間です」
8 先生の宅は夫婦と下女だけ。「子供はいつまでたったってできっこないよ」「なぜです」「天罰だからさ」
9 先生と奥さんは仲良い夫婦の一対だった。先生の様子がおかしい。奥さんと喧嘩をしたようだった。
10 先生と奥さんの喧嘩はたいしたものではなかった。「私たちは最も幸福に生まれた人間の一対であるべきです」
11 先生は大学出身であるにもかかわらず、何もしないで遊んでいる。私にはそれがもったいなく思えて仕方なかった。奥さんは書生時代の若い頃の先生は全く違ったという。
12 先生と恋について少し話す。「恋は罪悪ですよ」
13 「恋は罪悪」について先生と話す。どうやら例の友人の墓と恋が関係あるらしい。しかし先生は途中で話をやめてしまった。「恋は罪悪、そうして神聖なもの」
14 先生と「信用」について話す。「私は私自身さえ信用してないのです」先生の人間に対する覚悟。「私は未来の侮辱を受けないために、今の尊敬をしりぞけたいと思うのです。私は今より一層淋しい未来の私を我慢する代わりに、淋しい今の私を我慢したいのです」私はこういう覚悟をもっている先生に対して、言うべき言葉を知らなかった。
15 先生の人間に対する覚悟はどこからくるのだろうか。私の中でさまざまな推測がとびかう。
16 先生に留守番をまかされる。奥さんと話す。
17 奥さんは「先生は世間がきらい」と言う。
18 私は奥さんの先生に対する理解力に感心。奥さんは先生は昔はあんな風ではなかったという。しかし原因は奥さんにもわからず悩んでいる様子。
19 先生が大学時代に大変仲良い友達が亡くなり、それがあってから先生は変わった。しかし奥さんにはこれが先生がかわった原因かどうかは分からない。
20 先生が外から帰ってくる。
21 私の父の病気の調子がよくないので国に帰らなければならなくなり、東京をたった。
22 父の病状はそこまで悪くなかった。私は国から先生に手紙を書いた。先生から返事がきたのには驚かされたが嬉しいものだった。
23 父は元気になり私はもっぱら将棋の相手をさせられた。先生と父を比べると、先生はあかの他人であっても私にとっては父より惹かれるものがあることを再認識した。
24 東京に帰った。先生はいう。「自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょう」
25 私は卒業論文にとりかかる。
26 卒業論文が終わり、久々に先生と散歩をする。
27 先生が私に財産や父の病気のことをたずねた。私は普通の談話だと思っていたが先生の言葉の底には両方を結びつける大きな意味があった。先生自身の経験を持たない私はむろんそこに気がつくはずがなかった。
28 先生は話す。「平生はみんな善人なんです、少なくともみんな普通の人間なんです。それがいざというまぎわに、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです」
29 どんな人でも悪人に変わる要因は金だと先生は言う。
30 先生は昔他人にあざむかれたことを告白する。しかし具体的なことは述べなかった。
31 先生は自分の過去を私に適当な時機が来たら話すと言った。
32 私は無事に卒業式を迎えた。先生は祝いの杯を上げてくれた。
33 私はまだ卒業後の進路を決めていない。先生は、父が元気なうちに財産を分けてもらっておきなさいと忠告する。
34 先生と奥さんはどちらが先に逝くかの話をしていた。
35 先生があれこれ自分が死んだときの話をするので奥さんの心の中は重苦しくなっていた。私は先生の宅をあとにした。
36 私は田舎に帰る前に母から頼まれた買い物をした。先生の言葉が気になる。「どっちが先へ死ぬだろう」

中 両親と私
 私は大学を卒業して田舎に帰った。私が帰ったころは元気だった父の病状はいきなり悪くなって私は東京に戻ることができなくなった。父はとうとう寝たきりに。家族全員が父の死が近いことを実感し看病にあたった。父の生きているうちに就職口を見つけて安心させてやりたいと思う母が先生に紹介してもらうことを提案し、私は先生に手紙を書いた。先生からの返事は一向にこなかったが随分後になって電報がきた。そのときには父の病状悪化のため東京にむかうことができずその旨を手紙で送ると、先生から長い手紙がきた。その手紙の中の「この手紙があなたの手に渡るときには私はもうこの世にいない」という言葉に私は東京行きの列車に飛び乗ってしまった。

1 田舎に帰ると、父が私の卒業を喜んだ。自分が生きている間に息子が卒業できると思っていなかったようだ。父の死への覚悟がうかがえ、私は何も言えなくなった。
2 私は先生の忠告を思い出し、母に父の病状を尋ねると楽観的な答えが返っていた。
3 私の卒業祝いに客を呼ぶという話がでた。父の顔もあるということで私も渋々それに応じたが、その日取りの決まらないうちに明治天皇がご病気という報告が入り、その話はなくなった。
4 先生に手紙を書いたが返事はなかった。父は陛下のご病気の報告以来自分の病気も心配している様子だった。
5 天皇崩御。父は次は自分の番だと嘆いた。
6 進路のことで父と話す。父は先生に仕事を斡旋してもらえないかと提案。私は生返事のまま席を立った。
7 私は先生に長い手紙を書いた。
8 先生から返事は来なかった。私は東京に戻ることを決意した。
9 私がいよいよ立とうというまぎわになって父がまた倒れた。医者に絶対安臥を命ぜられる。
10 父の病気が悪化。私は兄と妹に電報を打った。
11 母は先生からの返事を心配している。父が生きている間に私の就職先について安心をさせてやりたいようだ。母に忠告は受けつつも私は先生に手紙は出さなかった。
12 兄と妹の夫が宅にきた。先生から少し会いたいから来られぬかという内容の電報が来たが、父の病状のこともあり断りの電報をうった。その後しっかりした理由を書いた長い手紙も送ったが返事は来なかった。
13 父はもう寝たきりとなった。
14 父は苦しみはなく、昏睡状態があったり、人と話したりという状態だった。
15 兄と先生について話す。父の状態もだんだん悪くなる。
16 先生から長い手紙が届く。受け取ったときは読める状態ではなかったので懐へとしまった。
17 先生の手紙のはじめの方を読むと、この手紙が例の過去の出来事を打ち明けるものだということが分かった。
18 父の状態が悪くなり、手紙も広げてみても拾い読みすることすらままならなかった。しかし最後の言葉が目をひいた。「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう。とくに死んでいるでしょう」私はあわてて家をとびだし、東京行きの汽車に飛び乗ってしまった。列車の中でようやく私は手紙に目を通すことになる。

下 先生と遺書

1 この手紙を書こうと思った経緯。
2 自分の過去を私に話そうと思った経緯。
3 先生は二十歳にならない時分に両親を亡くす。
4 若い先生は伯父を信頼しすべてを任せた。
5 伯父夫婦はまだ若い先生に結婚をすすめるようになる。
6 伯父は自分の娘、つまり先生の従兄弟との結婚をすすめるが、先生は断る。
7 従兄弟との結婚を断ってからというもの、伯父の態度は冷たくなった。
8 先生は伯父と財産のことについて話すことにした。
9 伯父は先生の財産をごまかしていた。先生は事を公にするのを避け、わずかばかりのお金をもらい学生生活に戻ることにした。
10 先生は素人下宿に住むことにした。
11 下宿には未亡人と一人娘と下女がいた。
12 未亡人は先生を真面目な人柄ととってくれているようだった。
13 奥さんと娘さんと先生は次第に懇意になっていった。
14 先生は娘さんに心惹かれるようになっていった。
15 先生は奥さんが伯父のように娘と自分を結婚させようとしていないかと疑り始めた。
16 伯父にだまされた先生はこの先どんなことがあっても人にだまされないと心に誓った。
17 奥さんとお嬢さんと先生と三人で買い物に行った。
18 奥さんとお嬢さんと先生は微妙な関係であった。
19 先生の友人Kの説明。
20 Kは養家からの金で東京の大学で好きなことをした。そして手紙で偽りを告白した。
21 Kの養父は激怒し、学資はとめられた。学資は実家がだすこととなり復学はできたが、勘当された。
22 Kは学業のほかに仕事をした。Kを心配した先生は一緒に住むことを提案。
23 先生はKを自分の下宿に入れることにした。奥さんは反対した。
24 Kは偉大な男だった。
25 先生はKと奥さんとお嬢さんが仲良くなるように影で骨を折った。
26 先生が宅に帰ると、Kとお嬢さんが話をしているのを聞いた。
27 試験が終わり、Kと夏休みにどこかにいこうかという話になる。
28 先生とKはふたりで旅に。
29 先生は自分のお嬢さんへの思いをKに打ち明けようかとしたができなかった。
30 先生はKに対して劣等感をもっていたためそれが嫉妬心につながっていた。そして恋愛よりも勉学に興味のあるKと先生で口論が始まった。
31 Kは先生のことを人間らしいといい、先生はKのことを人間らしくないといった。結局先生は自分の思いを打ち明けないまま旅は終わった。
32 Kとお嬢さんが次第に仲良くなっていった。
33 ある日先生は外でKとお嬢さんが一緒に歩いているのに出会う。
34 Kとお嬢さんは偶然会ったということだったが先生の心の動揺は増す。
35 奥さんとお嬢さんとKと先生で歌留多遊びをしたところ、お嬢さんはKの味方をした。
36 Kがお嬢さんに好意をもっていることを打ち明けられる。
37 先生は自分の思いをKに言うかどうか悩む。
38 自分のお嬢さんに対する思いを打ち明けようとするがなかなかできない。
39 Kの心の内を知ろうと、先生はKにとりいるが相手にされない。先生のもどかしい思いはより一層深まる。
40 図書館にいた先生をKが「話がしたい」と連れ出す。Kは現在の自分について先生に批判をもとめたいようだった。
41 先生は『精神的に向上心のないものはばかだ』とKに述べる。Kが昔先生に言った言葉だ。Kはそれを受けて『ぼくはばかだ』と答えた。
42 Kは卒然『覚悟』と言った。まるで夢の中の言葉のようだった。
43 Kはずっと悩んでいるようだった。
44 先生は奥さんにお嬢さんへの思いを告白することを決意。仮病を使って大学を休んだ。
45 先生は奥さんに「お嬢さんをぼくにください」と告げる。奥さんも快くそれを承知した。

【あらすじ】
「先生と私」
 私は偶然出会った先生に何か惹かれるものを感じ懇意となった。たびたび先生の宅に遊びにいくようになり、奥さんとも親しくなった。しかし先生には秘密がある。毎月誰かの墓参りに行くのだが、詳細を尋ねても先生は何も答えない。奥さんも何も知らないという。また、先生は自分を含め人間というものを信じない人だった。それは過去に何かあってのことだ。それと先生の毎月行う墓参りに関係があるのかどうか私は思いあぐねていた。
「両親と私」
 私の父は慢性の腎臓病を患っていた。それが悪化し、私は実家へ帰ることとなった。実家では大学卒業しても就職しない私に母が先生に就職先を斡旋してもらえないか手紙を書くことを提案する。父の生きている間に就職を決めてほしかったのだ。私は仕方なしに先生に手紙を書くも、なかなか返事はこなかった。父の病状は明治天皇崩御をきっかけにさらに悪くなっていき、昏睡状態にまでなった。そんな中、先生から「会いたいから東京にこれないか」という電報がくる。父の状態を考えると東京にいくことのできない私は断りの電報と手紙を先生の元へ送る。すると、非常に長い手紙が届く。私はその手紙の最後の「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう」という言葉に思わず家を飛び出し、東京行きの列車に飛び乗った。
「先生と遺書」
 先生から私宛ての手紙。先生の過去が打ち明けられている。
 先生は両親を若いときに亡くし、伯父に育てられた。しかし実は伯父は先生をだましていたことを知り、人間不信となる。
 また、先生は下宿させてもらっているところの奥さんとお嬢さんと懇意になり、お嬢さんに淡い恋心を抱いていた。
 ある日、子ども時代からの友人Kを自分の下宿に住まわすことにした。Kははじめは無愛想だったが、だんだん奥さんやお嬢さんとも親しくなっていった。先生はそんなKに嫉妬心を抱くようになった。そんな時、Kからのお嬢さんへの恋の相談を受ける。先生はいたく動揺し、自分の気持ちをKに打ち明けようか迷うが結局できなかった。先生が最終的にとった手段は自分が先に結婚の申し込みをすることだった。そして、奥さんに「お嬢さんをぼくにください」と言い、承諾を受ける。Kは奥さんからそのことを聞き、通常の態度でそれを受け止め、自殺した。先生に対する責めなどは一切なく死んでいった。
 先生は自分がKを殺したという罪悪感にさいなまれながら今まで生きてきた。お嬢さんは自分の妻となったが、彼女にもこのことは打ち明けられない。そしてとうとう自殺する決心をしたのだった。

【情報】
『こころ』は、夏目漱石の代表的な小説。1914年(大正3年)4月20日から8月11日まで朝日新聞で『心 先生の遺書』として連載され、後に『こゝろ』に改題された。連載終了後、岩波書店より刊行された。

登場人物「私」と「先生」を軸に話は進み、人間の自我について探求する。

2005年現在、新潮文庫(新潮社)収録の夏目漱石作品で最大のベストセラーである。岩波文庫(岩波書店)収録の夏目漱石作品では第2位の売上。

【所感】
 人間のエゴイズムを描いた作品。この物語は三人の自殺する人間が登場するが、自殺の原因を明確には記述せず、読者に解釈の余裕を与えている。また人間の心理描写の見事な作品であるところも読者にいろいろ想像させ作品の中に引き込んでいく要因のひとつだ。人間の自我についてありのままを描いているので、読者の年齢層としては他作品に比べ、少し限定される。内容については賛否両論なのは否めない。登場人物それぞれの自我が描写されているため、どの人物に焦点をあててこの作品をとらえるかでもかなり違った見方のできる作品である。

2006-02-11 18:54:27 | リーディング
1 宗助はなかなか佐伯の家と連絡をとるのをおっくうにしている。しかしやっと手紙をだした。
2 宗助の元に弟の小六が訪ねてくる。
3 宗助と小六の会話。小六は佐伯のことを心配している。
4 佐伯からの返事は非常に簡単なものだった。佐伯家は宗助の伯父にあたる。宗助の父が亡くなった後、弟は佐伯家に預けられたが伯父が亡くなり叔母は小六の学費の工面ができなくなった。しかし宗助も安月給で小六の学費を工面できない。お米と話し合った結果、小六を宗助の家に住まわすことになった。宗助はその話をしに佐伯の家にいったとき、父の形見である屏風をもらった。
5 佐伯の叔母が宗助の家に訪ねてくる。宗助は歯医者にいっていて帰りが遅く、お米が相手をした。結局叔母は小六の学費は工面できないことを長々と言い訳をしにきたようだ。
6 宗助とお米は父の形見の屏風を道具屋に売った。
7 明け方お米は妙な音をきく。坂井の家に泥棒が入ったのだ。宗助の家の裏に文庫がおちていたので、宗助は坂井にそれを届けた。
8 下宿をひきはらって宗助の家にきた小六とお米の会話。小六は安之助の言葉を信じ、学校は少しの間休学にしてあるのだ。
9 坂井と宗助は文庫が縁になって思わぬ関係がついた。偶然会ったときの話であの屏風が今坂井の家にあることを知り、見せてもらいそれ以来関係は親しくなった。
10 小六は最近少しお酒を飲んで帰ってくるようになった。
11 お米の体の調子が悪くなる。
12 お米の体調が気になり宗助は仕事を早めにきりあげる。医者にまた来てもらい、お米も薬がきいて回復してきた。
13 子どもに関する宗助夫妻の過去。何回も流産を経験したお米は占い師に昔の罪がたたり、子どもはできないと告げられたことを宗助に明かす。
14 宗助には学生時代仲良くしていた友人がいた。名は安井。非常に親しく交流していた。安井の家でお米と出会う。
15 宗助夫妻は社会を捨てた。それでもふたりで静かな日々を過ごしていた。年も暮れになり新年が明けようとしている。
16 正月。宗助は坂井の家を訪ねた。坂井の主人は小六を書生にという提案をしてくれ、話がまとまる。ここで、坂井の弟とその友人の話をきく。その友人とは安井だった。
17 突然の安井の消息を聞いて動揺する宗助。過去の思いに悩まされる宗助。
18 宗助は過去の罪を心から洗い流そうと禅寺にいくことを決意。
19 禅寺でも生活は慣れないものばかりで宗助には大変だった。
20 悟りをひらこうとするがなかなか集中できない宗助。
21 結局悟りを開けず、禅寺を後にする。
22 家に帰った宗助。また坂井のところへ行き、安井が変化したことを聞くがそれ以上は何も聞けなかった。
23 冬が過ぎ、春が来た。小六は坂井のところへ書生にいき、宗助夫妻は静かに春を迎えた。

【あらすじ】
 宗助とお米は仲の良い夫婦。だがこの二人には暗い過去があった。お米は昔別の男と結婚していた。名は安井。宗助の親友だった。宗助夫妻は過ぎ行く時間に身をまかせ、静かに暮らしていた。
 ある日、隣人の坂井から安井の最近の動向をきいてしまう。動揺する宗助。過去の罪にさいなまれ、禅寺にすくいを求めに行く。だが、慣れない禅の修業にとまどい、結局何も得られないまま寺を後にする。
 お米の待つ家に帰った宗助。そしてまた二人は静かに春を迎えた。

【情報】
夏目 漱石(1867年2月9日(慶応3年1月5日) - 1916年12月9日(大正5年))
日本の小説家、英文学者。『吾輩は猫である』『こころ』などの作品で広く知られ、森鴎外と並ぶ明治時代の文豪である。

大学時代に正岡子規と出会い、俳句を学ぶ。東京帝国大学英文科卒業後、松山中学などの教師を務めた後、イギリスへ留学。帰国後、東京帝国大学講師の後、『吾輩は猫である』を「ホトトギス」に発表。これが評判になり、朝日新聞社入社後は『虞美人草』『三四郎』などを朝日新聞に掲載。当初は余裕派と呼ばれた。

修善寺の大患後は、『こころ』などを執筆。「則天去私」の境地に達したといわれる。晩年は胃潰瘍に悩まされ、『明暗』が絶筆となった。

『門』は、1910年に朝日新聞に連載。翌年1月に春陽堂より刊行。『三四郎』『それから』に続く、前期三部作最後の作品。

【所感】
 過去の罪にさいなまれながらも静かに暮らす夫婦の愛を描いた作品。実に描写が繊細で時の流れに身をまかせながら生き抜く夫婦の生き様が読者によく伝わってくる。主人公宗助は救いを求め禅寺の門をたたくわけだが、結局何も得られずに元の生活に戻る結果となるのがかえって共感をよぶ。禅寺の門で「たたいてもだめだ。ひとりであけてはいれ」といわれ、自分は「門のしたに立ちすくんで、日の暮れるのを待つべき不幸な人」と感じるところなどは、たくさんの読者の心に何か響くものがあるのではないかと思う。また、一生負っていかねばならない罪であっても、社会を捨てなくてはいけなくても、二人で暮らすことを選んだ宗助夫妻の愛はゆるぎないものであり、それが全編にわたって描かれている。しかしいくら社会を捨てたとはいえ、人間らしい心は捨て切れない。だから罪の意識にさいなまれる。救いを求め、禅寺にいっても人間らしい心は捨てていないので、悟りがひらけない。人間らしさゆえに悩み求めた救いがその人間らしさのために救われない。この矛盾に悩まされる宗助の苦悩が見事に描写されている。

ボッコちゃん2

2006-02-06 10:46:50 | リーディング
2/6
「デラックスな金庫」
【あらすじ】
 私は全財産をつぎこんで大金庫を作った。ある日覆面の男が私を襲い、金庫を開けさせる。しかし、金庫の中には何もない。男はあばれる気配を見せ、私はほくそ笑む。なぜならあばれると自動的にサイレンが鳴り出す装置がついており、私は犯人逮捕の金一封がもらえるのだ。
【所感】
 金庫に金をつぎこむ私。それを知らず、金庫をあけさせる強盗。これだけで済まさないのが読者の期待を裏切らないところ。変な趣味を持っているだけの主人公かと思いきや、ちゃんと実益を考えているのが人間のおろかな心を皮肉っている。

「鏡」
【あらすじ】
 十三日の金曜日。夫は鏡を重ね合わせ、悪魔を呼び出した。呼び出した悪魔は想像していたよりずっと弱々しく全く抵抗しない生き物。少しいじめてみると楽しい。これはいいおもちゃだ。夫は悪魔を捕まえ、八つ当たりの対象にすることにした。そしてまた妻も同じように悪魔をいじめて日常の鬱憤を晴らすようになった。夫婦共にいやなことがあれば悪魔に当たっていたので、日々の生活で他人に八つ当たりすることもなくなり生活はよくなっていった。しかし、ある日悪魔がすきを見て逃げてしまった。鬱憤を晴らす対象がいなくなり、普段悪魔に対して行っていたひどい仕打ちを夫婦はお互いにしていまい、あたりは血の海と化してしまったのであった。
【所感】
 人間は何か八つ当たりをする対象、鬱憤を晴らす対象がないと生きていけない。そういう人間の醜さをうまく描いた作品。本来なら人間を苦しめる悪魔という生物を非常に弱いものとして描き、弱いものいじめをする人間自身が最終的に自分を苦しめているところがうまく人間社会を皮肉っている。

「誘拐」
【あらすじ】
 エストレラ博士に一本の脅迫電話。子どもと引き換えに博士のロボットの試作品を要求してきた。だが実は犯人が博士の子どもと思っていた赤ちゃんこそがそのロボットであり、犯人は赤ちゃんロボットに殺されてしまった。
【所感】
 単純明快なストーリーなので子どもにも受け入れられやすい作品。悪人が最後はいなくなるというしっかり完結しているので後味も悪くなく、読みやすい。

「親善キッス」
【あらすじ】
 地球からの親善使節団一行はチル遊星に降り立つ。友好的なチル遊星人。地球人はふとキッスが地球のあいさつのやり方だとチル星人に紹介して、たくさんの女の子とキッスをしようと思いつく。チル星人は最初とまどうが地球式のあいさつだと聞くと納得し、地球人はたくさんのチル星人とキッスをすることに成功した。しかし、実はチル星人はの口はお尻のあたりからでている尻尾に似たものだった。つまり、地球人の口と触れ合っていたのは……。
【所感】
 非常にユニークで面白い作品。地球人の少し抜けたところをうまく風刺している。分かりやすい内容なので、子どもにも受け入れられやすい。後味の悪い作品ではないため、単純にストーリーを笑って楽しめる。

2/7
「マネー・エイジ」
【あらすじ】
 全てがワイロで成り立っている世の中。親子の仲でも学校の中のやり取りでさえも全てワイロが解決する。みんながみんな、金が一番。そして今日も子どもは金の夢を見たいと願う。
【所感】
 「世の中は金」これが完全に現実化した社会を描いて今の現実社会を皮肉っている。実際すべてが「金が一番」となってしまった社会に生きる子どもを主人公にすることでそういう社会のむなしさがよく伝わってくる。

「雄大な計画」
【あらすじ】
 三郎はR産業の入社試験に合格し、社長自ら雄大な計画をもちこまれる。ライバル会社のK産業にスパイとして潜入してほしいという。三郎はK産業の入社試験に受かり、ひたすら努力をして有利な地位につくのを待った。彼の業績は認められ、異例の昇進を果たす。そしてとうとうK産業の社長となった。しかし、そこでふと今更K産業をつぶす意味のないことに気付き、とうとうR産業は倒産してしまった。
【所感】
 雄大な計画が大成功の直前ですべて台無しになってしまうという話の展開が面白く、読者も雄大な計画がどう進んでいくのかその経過を一緒に楽しむことができる。また三郎の考えももっともなものであり、読者の共感を誘い、雄大な計画が失敗に終わったことに対する反論が生まれるというわけでもない。読者の納得いく形で雄大な計画が失敗するところが面白いのである。

「人類愛」
【あらすじ】
 私は宇宙救助隊員。SOSを受信するとすぐさま救助に向かう。今までたくさんの遭難者を救助してきた。
 今日もまたSOSを受信。早速救助へ。そこにたどり着く間、なんとか遭難者を助けようと話しかける。眠っては凍死してしまう。話を聞くとどうやら同郷のようだ。私にも親近感がわく。
 やっとロケットが到着。急いで助けようと名前を聞く。そこで私は救助をやめた。いくら人類愛に燃えていたってかつて自分のワイフに手を出した男を助けるわけがない。
【所感】
 人類愛に燃える宇宙救助隊員。そんな正義感あふれる男でもやはり嫉妬心という人間のみにくい心は持っている。舞台を地球外においていながら、地球の中の人間の心をうまく描いている。ストーリーも単純明快で幅広い年齢層に受け入れられる作品。

「ゆきとどいた生活」
【あらすじ】
 2050年。テール氏の部屋。いつものように自動で目覚ましがかかり、テール氏を起こしてくれる。そして機械がシャワーを手伝い、服を着せ、朝食を用意し、テール氏を出かけさせた。テール氏は乗り物にのせられ、会社に向かう。会社で同僚がテール氏の様子を見ておかしいことに気付く。テール氏は昨晩死んでいたのだ。
【所感】
 ユーモアたっぷりの作品。非常に便利になった未来の社会の落とし穴をうまく表現している。機械には人間が死んでいるかどうかの区別がつかず、テール氏を普通に会社に送り出してしまう。逆に言えば、死んでいて何もしなくても機械によって会社まで行けてしますのだ。非常に面白い発想のストーリーであり、子どもにも受け入れやすい。

2/8
「闇の眼」
【あらすじ】
 坊やは素晴らしい能力を生まれつき身につけている。暗闇でもすべてのものが見える。これは進化の流れらしい。そんな能力を持つ坊やには不要な器官、眼がないのだ。
【所感】
 非常にうまく組み立てられたストーリー。子どもが素晴らしい能力をもっているというのに隔離されている家族の会話を通して、なぜなのかという疑問を持ちながら先を読みすすめることができ、作品の魅力にとりつかれる結果となる。

「気前のいい家」
【あらすじ】
 エヌ氏の家に強盗が入る。強盗はエヌ氏にナイフをつきつけ金庫をあけさせる。その後も強盗の要求にエヌ氏は応じ、金貨や銀貨をつめたカバンを持った強盗が部屋をでようとした瞬間、防犯用の非常装置が作動し、強盗はエヌ氏の言いなりに。エヌ氏は強盗を自分の発明した防犯装置の販売員にした。彼でちょうど三十人目。
【所感】
 単純だが幅広い年齢に受け入れられやすい作品。強盗に入られたエヌ氏の方が実は一枚上手だったというありがちなストーリーに、強盗を犯装置を売る販売員にするという少し皮肉の入った発想がスパイスとなっていい味を出している。

「追い越し」
【あらすじ】
 男はモデルの女をふった。そして彼女は自殺。別れぎわに彼女が言い足した言葉。「あたしは死んでからも、あなたにどこかで会うつもりよ」
 ある日男は自分の前の車の後部座席に乗っている女のうしろ姿があの女に似ているように思えた。気のせいだ。そう思い、その車を追い越し瞬間、その女はまさしくあの女、男は事故で即死。男が見た女は、例の彼女をモデルにしたマネキンだった。
【所感】
 どこかで聞いたことがあるような心霊話に実はマネキンだったという現実的なものを組み合わせて、読者に分かりやすいストーリーにしている。星新一の他の作品に比べると、やや面白みに欠ける作品だが短い中にちゃんと起承転結があるのはさすがだ。

「妖精」
【あらすじ】
 十九歳の女の子ケイ。同い年の女の子、アイ。二人は仲良しであり、ライバルだった。ある日、ケイに妖精が現れる。なんでも望みをかなえてくれるという。しかし、願いをかなえると、同時にその二倍がライバルにもたらされてしまうらしい。良いことを願うと、その二倍がアイに与えられるとなると、ケイは願い事に困り、結局アイに取り付いてもらうことにした。そうすれば、自分に二倍いいことが起こる。しかし、いつまでたっても何も起こらない。アイはケイをライバルとは思っていなかったのだ。
【所感】
 自分のライバルに自慢できなければ、願い事も無駄に思える人間のあさはかな心をうまく描写している。結局自分がライバルと思っていても、むこうは思っていなかったという人間社会にありがちな模様を短いストーリーの中にうまく組み込んでいる。

「波状攻撃」
【あらすじ】
 エヌ氏のところへ見知らぬ男がたずねてきた。時限漏電発生装置を使って火災保険金をだましとる提案をしてきた。エヌ氏は高い金を払ってその装置を買い、保険に加入した。しかしエヌ氏はだまされて損をした。警察ざたにもできず途方にくれていると、探偵と名乗る男がやってきた。「もうたくさんだ」
【所感】
 時限漏電発生装置など、やや現実離れしているところはありつつも、現代の社会においてありがちな話を文字にしたものであるといえる。詐欺にかかるとまた次の詐欺がやってくる。そんな繰り返しの攻撃を現実じみていると思ってしまう世の中に気付かされる作品である。ある意味、それが作者の言いたいことなのかもしれない。

「ある研究」
【あらすじ】
 男はあることをずっと研究している。妻も夫の研究には辟易していて、やめてほしがっている。権力者に折り合ってみたが、やはり支持は得られない。男は研究をあきらめることにした。人類が火を所有するには、また何万年間の時間を待たねばならなかった。
【所感】
 読者に予想させにくい結末によってストーリーを面白くしている。読者もストーリーを追いながら、この男が研究しているのが何かを予想することに楽しみがある。現代社会の話のように見せかけて、実は人類が火を所有するより前の出来事だったという逆転の発想がなんとも面白い。

「プレゼント」
【あらすじ】
 ラール星の住民が、しきりに核爆発がおこっている星に一台のロケットを発射した。ロケットがおりたったのは地球。そしてロケットから出てきたのは怪物としか呼びようのない生き物だった。地球の国際間の対立は棚上げとなり。世界中で協力して怪物退治にあたった。宇宙の脅威を知った地球人たちは核実験競争などやめ、宇宙からの相手にそなえることにした。核爆発がなくなった地球の様子を見たラール星人は言う。「こんなかわいい生物を見たら、だれだって心がなごやかになり、さっきだった気持ちも静まってくる」
【所感】
 星新一ならではのSFに皮肉をおりまぜた作品。宇宙からのプレゼントは使用の方法は違えど、当初の目的は達成できている。人柄のよい宇宙人からの好意のプレゼントを反対の意味にとらえ対処している地球人のおろかさが笑いをさそう。

「肩の上の秘書」
【あらすじ】
 すべての人の肩にインコがのっている時代。実はこのインコ、こちらが言いたいことをストレートに言うと、それを綺麗な表現の言葉にかえ、相手に伝えてくれるのだ。それによってお世辞を自分で考える必要もなく、相手からいやな言葉を浴びせられることもない社会が実現している。
【所感】
 現実ではありえない社会を面白く表現している。特にたてまえ社会といわれる日本人からしてみれば、これほど理想の社会はない。そしてこの作品はたてまえに翻弄されている人間の姿が浮き彫りとなっていて自分の現実を見直さざるをえない。そんなメッセージも入りつつ、ユニークな仕上がりとなった作品。

2/10
「被害」
【あらすじ】
 エル氏の家に強盗が入る。強盗は立派な金庫を見つけ、エル氏に開けるよう要求。金庫を開けた強盗はいきなりおとなしくなり、すごすごと引き上げていった。金庫の中には貧乏神がとじこめてあったのだ。
【所感】
 昔話にありそうな単純明快なストーリーで子どもにも受け入れられやすい。金庫の中身を最後まで読者にいろいろ予想させて作品を盛り上げている。

「謎めいた女」
【あらすじ】
 警官が謎めいた女に会う。どうやら記憶喪失のようだ。署につれてかえったが、まったく何も思い出せないようで手のうちようがない。つぎの朝、女が何か番号を思い出した。その番号は電話番号で、電話の持ち主が呼ばれ、女の身元が分かった。その女は俳優。つぎ上演する作品は「記憶を失った女」。
【所感】
 星新一の作品にしてはかなり現実味を帯びたものだといえる。結局すべてが芝居だったという最後のオチが単純でわかりやすい。

「キツツキ計画」
【あらすじ】
 キツツキ計画。大量のキツツキを押しボタンを見るとクチバシで突っつくように訓練する。そして町にむけて飛び立たせる。町中が大混乱となり、そのすきに欲しい品物を盗むという計画。
 たくさんのキツツキを訓練し、とうとう町に飛び立たせた。しかし、一向に町中が大混乱というニュースがない。どうやら飛ばせたキツツキが最初に押したボタンがたくさんのタカが飼ってあるドアを開けるボタンでそのタカにすべて食べられてしまったようだ。
【所感】
 非常にユニークな発想が読者の笑いを誘う。キツツキを使ってどろぼうをしようとする通常では考えられないような発想。それが結局タカに食べられてしまう結末。この意外性が作品の面白みとなっている。

「診断」
【あらすじ】
 ここは病院。青年は院長に自分の伯父と共謀して莫大な財産目当てに自分を隔離していると訴える。青年は自分に莫大な財産があるという妄想にとらわれているのだ。
【所感】
 悪者は院長のように読者に思わせておいて結末にこの青年が妄想にとらわれているとまったく逆転させるところはいつもの星新一の手法である。

「意気投合」
【あらすじ】
 地球からのロケットが別の惑星に到着。素敵な歓迎を受ける。隊員たちはよろこび、この手厚い歓迎の理由を住民にたずねてみると、すばらしい物をもらったからだという。この星には金属が貴重な物質で、気付いたときにはロケットはかげも形もなくなっていた。
【所感】
 手厚い歓迎に喜んだのもつかの間、隊員たちは二度と地球に戻れない。かわいそうだが、なぜか笑いをさそってしまう。この惑星の住民たちも悪いわけではない。悪人を登場させずにうまくオチをつけているところはさすがである。 

「程度の問題」
【あらすじ】
 エヌ氏はスパイ。これが初仕事。しかし彼は慎重すぎてまわりからかえってあやしまれスパイとしてはクビになった。後任のスパイにのんきな男が選ばれたが。のんきすぎてすぐ身分がばれ、簡単に毒殺されてしまった。
【所感】
 極端に慎重なスパイ。この慎重すぎる行為が笑いをさそう。ストーリーの展開より内容一つ一つが面白い作品。最後に少しだけ述べれている後任のスパイの結末も「何事も度が過ぎるのはよくない」というこの作品のテーマをより強調させている。

「愛用の時計」
【あらすじ】
 K氏には愛用の時計がある。常に身につけ、手入れをしていた。ある日、狂ったことのないこの時計が遅れていて、K氏はバスに乗り遅れ旅行にいけなくなった。しかし、そのバスは事故に遭い、時計はK氏をすくったのだ。
【所感】
 時計の恩返しともいえる昔話にありそうなストーリーを現代風にアレンジしたもの。単純なストーリーではあるが、いいことをすると恩返しがかえってくるという日本人の好きな発想をテーマにしているので、日本人の読者に受け入れられやすい。

「特許の品」
【あらすじ】
 野原のまんなかに奇妙な物体。設計図に従って製作するとどうやら快楽装置だ。そのなんともいえない、いい気分になる装置を特許権を無視して大量生産することにした。地球にこの装置は普及し、好評だ。ある日、ゲレ星の宇宙人が地球にやってきた。困ったのは地球人。使用料を請求されることを覚悟で正直に話すとゲレ星人はその使い方なら使用料はいらないという。この装置は他星に送って、文明の進歩をストップさせる装置なのだ。
【所感】
 本来なら他星に送るものを自分の星で使い、自らの文明の進歩をストップさせてしまう地球人のおろかさが笑いをさそう。短い中に、しっかりしたストーリー展開、意外な結末を用意しているところはさすがといえる。わかりやすいSF小説なのでこどもにも受け入れられやすい。

 2/11
「おみやげ」
【あらすじ】
 フロル星人が人類が出現するよりずっと前の地球に到着。来た時期が早かったのでおみやげを残すことにした。非常に便利なものをたくさん丈夫な金属の入れ物に入れ、おみやげとして地球に残し、フロル星人は飛び立った。長い年月がたち、人類が生まれ、発展していった。そしてこのおみやげの上で原爆実験がおこなわれ、中身もろともこなごなになってしまったのである。
【所感】
 現代の社会ならすべての人たちがのどから手が出るほど欲しいものがつまったおみやげ。それを気付かず原爆というおろかなものによってこなごなにしてしまう人間のおろかさが浮き彫りになっていて面白い。

「欲望の城」
【あらすじ】
 通勤バスの中。なぜか私の注意をひく一人の男。ある朝声をかけてみた。あの男は毎晩同じ夢を見るという。自分だけの部屋があり、欲しいものがどんどん手に入るらしい。しかし、しばらくしてその男の元気がなくなってきてしまった。理由をたずねると、欲しいと感じたものがなんでも部屋に現れるのに対し、部屋のドアがあかないので困っていて眠るのが怖いそうだ。やがてバスの揺れが彼を眠りにさそい、大きな悲鳴が聞こえた。逃げ場のない場所で何かにおしつぶされているようなおそろしい声の……。
【所感】
 人間の欲望には終わりがない。結局その欲望が人間を破滅に追いやる。それを夢という形で表現し、わかりやすく読者に伝える手法はさすがだ。欲望という人間誰にでもあるものをテーマにすることで、読者の誰もが何か考えさせられる作品に仕上がっている。

「盗んだ書類」
【あらすじ】
 エフ博士の研究所に泥棒がひそむ。エフ博士が新しい薬を完成するらしいという噂をきいて盗み出そうとしているのだ。とつとう薬が完成。泥棒は薬の製法が書いた書類を盗み出した。泥棒はその製法に従って自分で薬を作ってみた。博士も自分で飲んでいるところを見たので、泥棒も自分で飲んでみることにした。すると、泥棒はエフ博士のところで出向き、書類を盗んだことを謝罪した。この薬は良心をめざめさせる作用を持ったものだったのだ。
【所感】
 人間のみにくさを浮き彫りにする他の作品に比べ、悪者が良い人にかわるという昔話的要素が幅広い年齢層の読者に受け入れられやすい。単純なストーリーだからこその面白みがある。

「よごれている本」
【あらすじ】
 よごれている本を古本屋から買った。ラテン語でかかれている魔法の本。疑いながらもエヌ氏は安くこの本を購入。家でこの本の示す通りにやってみると、悪魔がでてきてエヌ氏を魔王にささげるためさらっていってしまった。そして本はまたクズ屋の手に渡された。
【所感】
 魔界という別世界への恐怖の余韻を残すことで印象深い作品に仕上がっている。人間が別世界の生き物におどらされている場面を描くことで人間のおろかさを表現するという、他の作品とは違う表現方法を用いている。

「白い記憶」
【あらすじ】
 病院に二人の急患が運び込まれる。その二人の男女は衝突のときのショックで記憶を失っている。男女はお互い好印象だった。しかし、二人の記憶が戻ってみると、実は二人は夫婦でいきなり喧嘩を始めてしまった。そしてまたぶつかり気絶した。「こんどは治療したほうがいいのか、わけがわからなくなってきたぞ」
【所感】
 軽いコメディータッチのストーリー展開が笑いをさそう。他の作品の人間のみにくさなどをえがいたものと比べると、読みやすく、幅広い年齢層に受け入れられやすい。短い話だが内容は濃くできているので読者としても楽しめる。

「冬きたりなば」
【あらすじ】
 一台のロケットが飛び続けていた。資金提供のためたくさんのスポンサーがついた。よってロケットは広告だらけ。また、他の星に商品の売り込みと宣伝もしなければならない。そしてついにロケットは惑星を発見。着陸し、商品を売り込むことにした。ちょうどその惑星は収穫期が終わった時期でこれから冬に入りみな冬眠をするため必要がないという。結局品物を渡して代金は来年の春に払ってもらうことにした。そしてロケットは宇宙へと戻り、そこで計算してみるとその惑星が次に春がくるのは五千年先だったのだ。
【所感】
 星新一のSFならではのユニークな着想がひかる作品。結局すべてが無駄となった地球の人間のおろかさを笑わずにはいられない。

「なぞの青年」
【あらすじ】
 なぞの青年がいろいろな場所に出没し、人助けをした。困っている人たちに大金を提供し助けていった。実はその青年は税務署で働く青年。税金をそういうことに使った青年は税務署長からおしかりを受け、気ちがいにしたて病院に送り込んでしまった。
【所感】
 現代社会を皮肉る作品。税金をいいことに使った青年が病院送りとなり、ほかの議員や公務員はみな正気だという。この矛盾がおかしくもあり、それが現代社会を一致してしまうところになにやら世知辛い印象を受けてしまう。非常にうまく世の中を風刺した作品だといえる。

「最後の地球人」
【あらすじ】
 世界の人口は限りない増加を続けた。そしてついに減少へ。次に人類は滅亡の途を進んだ。最後に二人の人間が残った。王と王妃。この二人の間に子どもがうまれる。しかし、王と王妃は死んでしまう。一人になってしまった赤ん坊。保育器の中で一人で成長をつづけついに声を発する。「光あれ」
【所感】
 人類が発展し、衰退し、また原点まで戻る姿を描き出した作品。永遠の発展があるように思われる人類もやがては衰退していくということを暗示させ、読者に強烈な印象を与えている。

ボッコちゃん1

2006-01-31 14:05:18 | リーディング
1/31
「悪魔」
【あらすじ】
 エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
 人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。

「ボッコちゃん」 
【あらすじ】
 バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
 ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
 青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
 美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。

2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
 台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
 ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
 何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。

「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
 散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
 それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
 この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
 他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。

「来訪者」
【あらすじ】
 突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
 地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。

「変な薬」
【あらすじ】
 ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
 ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
 これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。

「月の光」
【あらすじ】
 五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
 ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
 文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。

2/2
「包囲」
【あらすじ】
 私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
 このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。

「ツキ計画」
【あらすじ】
 新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
 これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。

「暑さ」
【あらすじ】
1/31
「悪魔」
【あらすじ】
 エス氏が釣りをしていたところ、なんと釣れたのは悪魔。悪魔は何でもできると言う。
「わたしにお金を与えて下さいませんか」「そんなことか。わけはない」
「もっといただけませんでしょうか」「いいとも」
「ついでですからもう少し」
「あと一回だけ」
そのとき、金貨の重みで下の氷がひび割れ、エス氏は逃げたが金貨と悪魔は湖の底へと消えていった。
【所感】
 人間の欲深さをよく描いている作品。最後に欲を見せたエス氏が助かるところが子ども向けの作品ではないことを感じさせる。自分の欲求したもので自らを破滅させるわけではなく、自分は助かり元の状態に戻ったという点がこの小説が人間の貪欲さを批判するものではなく、単に皮肉っていることがうかがえる。

「ボッコちゃん」 
【あらすじ】
 バーのマスターがよくできた美人のロボットを作り、バーのカウンターに置いた。名前はボッコちゃん。酒は飲めるが、言葉は言われたことを繰り返すことしかできない。しかし、ボッコちゃんはたくさんの客から大人気だった。ボッコちゃんの飲んだ酒は使い回しで客に振る舞われたが、このロボットに魅了されてしまっている客は全く気付かない。
 ある一人の青年。ボッコちゃんに熱を上げ父に反対され最後にもう一度会うためバーを訪れる。そこで薬の包みをボッコちゃんのグラスに。
 青年がバーを去った後、マスターと残りの客全員でボッコちゃんの飲んだ酒を飲みほす。バーのカウンターではボッコちゃんが座っている。
【所感】
 美人だが愛想がないボッコちゃん。ロボットにむらがる男たち。男のおろかさをうまく皮肉っている。さらにこの皮肉だけでとどまらず、最後にボッコちゃんの魅力ゆえ、生みの親であるマスターをはじめ客全員が薬の入った酒を飲んでしまうところが著者の工夫が感じられる。しかもその酒はボッコちゃんの飲んだ酒。バーに一人だけ残るのもボッコちゃん。ただのロボットにそれを生み出した人間が振り回されてしまうところが面白い。

2/1
「おーい ででこーい」
【あらすじ】
 台風で村はずれの小さな社が流された。その跡には大きな穴があいていた。
「おーい ででこーい」呼んでみたが返事はない。石を投げたりいろんなことをしてみたが反応はない。どうやらこの穴は底なしのようだった。それをいいことにたくさんの人がこの穴にものを捨てた。原子炉のカスから死体、都会の汚物などさまざまなものが捨てられた。おかげで空や海が澄んできた。
 ある日その澄んだ空から声が聞こえた。「おーい でてこーい」
【所感】
 何と皮肉なことだろう。人間が楽に自分の始末をしようとした結果、また自分に降りかかることになる。しかも物語を最後まで書かず、読者にこのあとどうなるかを予想させるところが著者らしい。

「殺し屋ですのよ」
【あらすじ】
 散歩中のエヌ氏が見知らぬ女に遭遇する。彼女は殺し屋。絶対分からないように恨みのある者を六ヶ月以内に殺すという。料金は後払いということなので、エヌ氏はこの殺し屋に依頼をすることにした。
 それから四ヶ月後、エヌ氏の依頼通りG産業の社長が心臓疾患で死んだ。エヌ死は殺し屋の腕に驚き支払いに応じた。
 この殺し屋の女の正体は看護師。病気で先の短い人に恨みを持っている人を探しては仕事を請け負うのだ。
【所感】
 他の作品より少し現実味がある。この殺し屋を謎の女として登場させ、読者にあれこれ想像させる手法が面白い。その正体が看護師という本来なら人の命を救う仕事なのが殺し屋とのギャップを感じさせてさらに面白くしている。しかも直接自分が手をくだしたりしていないので、女のずるがしこさも見事に描き出している。

「来訪者」
【あらすじ】
 突然あらわれた円盤。そこから現れたのは宇宙人。地球全体が大騒ぎ。突然の宇宙人にどう対応するかが話しあわれた。外交的にも経済的にも宗教的にもアプローチしてみたが、宇宙人はよい反応を示さない。性的なアプローチもしてみたがやはりだめだった。その時一人の少年が前に出てハンマーで宇宙人を殴った。すると宇宙人は倒れ、地球人はそれが小型カメラを搭載したロボットだったと気付く。宇宙人に向かってあれこれした地球人の姿は別の惑星でテレビ中継され大笑いされていたのだった。
【所感】
 地球人のおろかさを別の惑星の人間たちが笑っているという皮肉たっぷりの星新一らしい作品。手段に尽きたら性的なアプローチでいくといった人間の心理をうまく表現していて、そこがさらに人間を皮肉っている。

「変な薬」
【あらすじ】
 ケイ氏が変な薬を発明。カゼになる薬だ。それを見せられた友人は感心し、少しもらって帰った。
 ある日、ケイ氏がその友人宅へ遊びに行った。そこでケイ氏はおなかが痛くなり、友人に訴えたが信用されない。またおなかが痛くなる薬だろうといわれる。だが症状は悪化し、友人は医者を呼び、すんでのところで助かった。このことがあってからケイ氏は変な薬を作るのをやめた。
【所感】
 これはどこかで聞いたことあるような、ありがちな話。もともとずる休みをしようという目的のために作った変な薬であるからこそ、そんな不順な動機で薬を作ると結局ろくなことはないということだ。星新一はブラック・ユーモアで最後に余韻を残すことが多いがこの話はしっかり完結していてストレートな仕上がりだ。

「月の光」
【あらすじ】
 五十歳近い品の良い男が飼うペット。それは十五歳の混血の少女。赤ん坊のときから愛情を込めて丹念に育てたのだ。このペットは言葉は分からない。ただ月の光のもとで愛情を受け暮らしていた。
 ある日主人が交通事故に遭い、ペットにエサがあげられない状態となる。召使がなんとかあげようとするがうまくいかない。そして主人が息を引き取ったとき、同じようにペットも息絶えたのだった。
【所感】
 文章の表現が綺麗な作品。月の光のもとで、現実的ではない世界で十五年間育てられたペット。醜い世間に汚れず、愛情だけを注がれて生きたからこそ愛情が少しでもなくなると生きていけなくなる。現実離れした世界をうまく文章だけで表現し、醜い現実の世界にいる私達に伝えている。

2/2
「包囲」
【あらすじ】
 私は駅のホームで見知らぬ男に殺されかけた。男を問い詰めると、面識のない別の二人の男に頼まれたという。その二人もまた私の知らない男。その二人を見つけ問い詰めるとそれぞれまた面識のない二人の男に頼まれたらしい。それからずっとそのくりかえし。いまだ私を殺そうとした者が見つからない。しかし、世の中の人全てが私を殺したがっていることだけは、おぼろげながら想像がついてきた。
【所感】
 このまま永遠に「私」は自分を殺そうとしている者を探すことになるという余韻を残した終わり方が面白い。「私」を殺そうとしたのは誰なのか、なぜ殺そうとしているのか、なぜ殺すのにこんなまわりくどいやり方を使っているのかなど、いくつもの疑問を読者に感じさせ、それに答えず物語を終わる。この手法が作品を面白くしている。

「ツキ計画」
【あらすじ】
 新聞記者の私は人間にいろんな動物をつけるツキ計画を行っている研究所の取材に来た。研究所にはネコやゾウ、ヒツジにナマケモノなどいろんな動物がついた人間を見ることができた。最後にキツネツキになるところが見たいと所長に言うと、彼は自分がキツネツキになってくれた。キツネツキになった所長はかなりおかしく私は笑いころげ、喉がかわいてきた。そこで所長から何か黄色く泡立つ液体をもらい、私はそれを飲んだ。
【所感】
 これは現実離れしたSFの面白さがにじみ出た作品。人をバカにした者が結局バカを見るという昔話に見られる教訓も取り入れながら、独自のストーリーを展開している。

「暑さ」
【あらすじ】
ある暑い夏の日。交番に一人の男がやってきた。別に犯罪を犯したわけではないが自分を逮捕してほしいという。不思議に思った巡査が訳を尋ねると、その男は暑さを感じると何かを殺さずにはいられなくなるという。はじめはアリ、次の年はカナブン、その次の年はカブトムシ。おととしは犬で去年はサルだった。最近はもう秋から準備をしているらしい。話を聞いた巡査は犯罪を犯していないものは逮捕できないと男を帰らせる。別れ際になにげなく巡査が聞く。「家族はあるんだろう」「ええ、去年の秋に結婚して……」
【所感】
 この男が次に犯罪を犯すのが読者の目にははっきりうつる。しかしそれを見逃してしまう巡査のおろかさと、犯罪者になる前に自首する男のとんちんかんな行動の対比がこの話をより面白くさせている。

「約束」
【あらすじ】
 空飛ぶ円盤が着陸。宇宙人は植物の標本を少し手にいれようと地球に寄り道したのだ。そこで野原で遊んでいた子どもたちに遭遇。子どもたちは宇宙人の植物集めを手伝った。宇宙人がお礼をしたいというと、子どもたちは大人にウソをつかないようにしてほしいといった。宇宙人は帰りにもう一度地球によってそれをすることを約束した。
 帰路。宇宙人がもう一度地球によってみると子どもたちは大人になっていてこういった。「そんな約束なかったことにして、いまさらよけいなことはしないでくれ」
【所感】
 あどけない子どもたちも結局大人になれば純粋さは消えてしまう。この事実を宇宙人という別世界の生物の視点から見ることにより、地球の人間のおろかさをうまく描き出している。

「猫と鼠」
【あらすじ】
 毎月二十日。私は決まってある男に催促の電話をかける。昔やった殺人を種にゆすっているのだ。しかしとうとう我慢ができなくなったのだろう。この男は綿密な計画をたてて私を殺すことにしたらしい。いいだろう、しかしきっと驚くことになる。なんせ毎月二十一日には私の犯した殺人を種にゆすってくる人物がいるんだから……。
【所感】
 猫と鼠。力関係がはっきりしているが、「窮鼠猫を噛む」こともある。まさにこの話は「窮鼠猫を噛む」。しかし、猫を噛んだ窮鼠には新しい猫が現れてしまうのだ。物語の結末が容易に想像できないところに著者の工夫がある。

「不眠症」
【あらすじ】
 ケイ氏は不眠症だった。全くもって眠れないので夜中も仕事をすることにした。睡眠なしで二十四時間働いたためお金がかなりたまった。そこでかなり高価な不眠症を治す薬をうってもらうことに。そこで目が覚めすべてが夢だったことに気付く。ずっと眠りから覚めないので高価な薬を投与されたらしい。その金額はこれから当分眠らずに働かなければ払えない金額だった。
【所感】
 最後の最後に大どんでん返し。読者に予想をさせない結末を用意することでこの作品を面白くさせている。

2/3
「生活維持省」
【あらすじ】
 生存競争と戦争のない平和な世界。この平和な世界が保たれているのはこの生活維持省のおかげである。そしてこの生活維持省の仕事は生存競争にならないために毎日機械が無作為に割り出した人間を抹消し人口を増やさないようにすることだった。
【所感】
 平和な世界とはみんなが憧れる理想の世界。そんな理想の世界が実現するためには人を無作為に殺していく生活維持省の存在が必要。この矛盾がこの話の面白さだ。最後に生活維持省で働く人物もターゲットとして選ばれ、それに素直に応じているところが皮肉でもあり、おかしさをかもしだしている。

2/4
「悲しむべきこと」
【あらすじ】
 クリスマスの日。エヌ氏の住む大邸宅に強盗が侵入してきた。なんとサンタクロースだ。今まで無償で子どもたちにプレゼントを与え続け、とうとう借金までしていると言う。そこでエヌ氏は提案する。デパートはクリスマスセールで一儲けをしているがサンタクロースはそれを報酬としてもらう権利があるはず。Gデパートは多大な売り上げを得たのでGデパートから金をるべきだと。Gデパートの地図を渡し、サンタクロースを見送ったエヌ氏は別のデパートの社長だった。
【所感】
 サンタクロースというファンタジー要素の強い人物をあえて現実的に描いているところがこの作品の特長である。また強盗に入るサンタクロース、自分のライバル会社のデパートを強盗するように提案する社長とのまじめなやりとりが客観的な目の読者からすると面白い。

2/5
「年賀の客」
【あらすじ】
 若い男が老人の家に新年のあいさつに訪れる。非常によく面倒をみてもらったのでそのお礼だ。しかし老人は去年その男に出会うまでは金の亡者だったという。三十年前に金をせねだりに来た男を無視した経験があり、その男は生まれ変わりを信じていた。老人は変なねだり方をするその男に金をやらないまま、その男は死んだ。そして若い男が老人を訪れたその日から老人の孫は変な金のねだり方を始めたのだ。
【所感】
 ただ若い男が昔の金をねだりに来た男に似ているというだけでなく、老人の孫も巻き込むことで読者に容易に結末を想像させないように工夫が見られる。単純なストーリをひとひねりしているところはさすが星新一だ。

「狙われた星」
【あらすじ】
 宇宙人がいろいろな星の生物を次々にやっつけて遊んでいる。次のターゲットは地球。早速地球から一匹つかまえて皮をはいだ。そしてその皮をとかすビールスをつくり、地球にばらまく。ところが、だれも死なない。薄気味悪くなった宇宙人は引き上げることにした。地球では、だれもかれもが突然はだかになった現象を解決すべく、調査にとりかかりはじめていた。
【所感】
 宇宙人と地球人の文化の違いをおもしろおかしく描いた作品。宇宙人は人間の服を皮だと思う。人間からしてみたら服を着ることが常識のことも別の世界の目で見ると非常識なことなのだ。このように読者の常識をくつがえす視点から描けるのは星新一の特長といってもよい。

「冬の蝶」
【あらすじ】
 全てのことが自動でできる社会。夫婦はそんな便利な社会を堪能していた。ところが突然の停電。あらゆることがストップしてしまい、夫婦は何もできない。ひたすら元に戻るのを待つだけだが一向にそんな気配はない。厳しい寒さの中、二人は永遠の眠りにつこうとしていた。そんな中でペットのサルだけが元気に火を熾していた。
【所感】
 便利な社会には欠点がある。誰もが便利な社会をのぞむが結局また原点に戻ってしまう。そのおろかさをうまく風刺した作品。内容としても分かりやすくので読者に受け入れられやすい。