鬼才マーケターの一代記
「謙虚になれよ」
今年1月に死去したロッテ創業者の重光武雄(辛格浩=シン・ギョクホ)。
晩年は息子同士の後継者争いで経営が混乱したり、自身もグループの不正事件に絡んで背任の罪に問われたりしたが、日本と韓国で大きな功績を残しながら実像はよく知られていない。
日本でガムなどの菓子事業で成功し、その利益を韓国に投資。
日韓の経済力のギャップを利用した「タイムマシン経営」で韓国有数の財閥に押し上げた。
重光流経営とは何だったのか。
著者は「マーケティングの鬼才」と指摘する。
重光氏は化学の技術者だったが、早くから顧客重視を鮮明にしていた。
チューインガムを手掛けてからは試食はもちろんネーミング、パッケージ、プロモーションには必ず参加した。
ベストセラー「クールミントガム」のパッケージではペンギンと三日月のデザイン案を書いた。
後発のチョコレートでは「ガーナミルクチョコレート」のパッケージに鮮烈な赤を採用し話題を呼んだ。
現在にもつながるテレビCMの大量投下のほか、コピーの選び方でも「お口の恋人」は創業から70年を経た今も使われている。
重光氏のOKが出ず、発売が遅れた商品も少なくない。
日韓で成功した経営者の一代記だけでなく、マーケティング戦略を重視して成長した企業物語としても楽しめる。
ダイヤモンド社 税別1800円