書こうかと迷いましたが、やはり少年剣道の「補欠」については触れておきたく、文章にしてみました。 さまざまなスポーツでも「補欠」は欠かせないでしょう。 突然の試合出場にも対応する能力が問われるかもしれません。 どのようにモチベーションを維持できるのか 少年剣道をしている息子に対して何を教えてあげればよいのでしょうか。 少年剣士たちが試合に出場して活躍する場面を見てきました。 しかし、活躍したり常勝する剣士たちは稀な存在。 負け続けても試合に出場が少なくてもあきらめず頑張って稽古に励む者、 なかなか個人優勝や入賞すらできず少年剣道を終える剣士。 団体戦のチームにも入れず、ずっと補欠の剣士。 こちら側の人数のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。 僕は剣道の経験が無く、武道もよくわかりません。 息子に対して何を教えてあげればよいのでしょうか。 募るは疑問と葛藤ばかり。 親としては応援するのが当たり前ですが、別の道を促すのも答えとなるのか? 多少偏った意見にはなると思いますが 少年剣道について、悩める親として思いを綴ります。
【息子、補欠に抜擢!?】
団体戦Aチームは道場内で優れた剣士5名が選ばれる。通常は5~6年で結成されるチーム。 少数精鋭の我が道場は、団体戦で組める人数が少なく、高学年、低学年チームを作るのがやっとの人数。 息子が高学年となり、エスカレーター式にAチームになると勝手に思っていました。 さて、息子がいよいよ高学年(小学5年)になり、「Aチームの5名で活躍だ!」と思っていた矢先・・・。 低学年(4年生)に剣道の申し子,高学年を上回る体格で運動神経も良い「怪物」的な肉体を持つ下級生がAチームに抜擢されたのです。 「怪物」(野球の松坂投手的な呼び名で、悪い意味ではありません)は、剣道としてはまだまだ粗削り。 しかし大きな体格と腕っぷしの強さは少年剣道には部が有り余りすぎるくらいでした。 低学年の個人戦でも何度か優勝して結果を出していました。 ・・・結局、彼の出現によって息子は6番目の「補欠」となってしまいました。 時折、低学年の彼にあっさりと負けるAチームの高学年もいましたので「まさか」とは思っていましたが、親としては動揺を隠せませんでした…。 週5回の厳しい稽古を頑張って続けていた剣道。 条件は同じですが、1年間練習しただけの下級生にあっさり抜かされてしまったのです。 全国大会にも行ける実力ある道場なので、それはそれは稽古は厳しく、それに耐えてがんばってきた息子。 そして本人のモチベーションが高まってきていたところに「補欠」を言い渡されたのですから。 実力では、多少親バカを考慮しても、力の差があるとは思えませんでした。 なにせ僕は剣道の素人。 「何が違うのでしょうか」 先生に何度も話しかけようとしましたが、やめました。 先生は30年来、剣士達を育て優勝に導いてきた素晴らしい指導者。 先生が決めたことには口出しはできません。 しかし・・・「『勝つこと』が道場の目的?なのか、縛りなのか掟なのか、息子だと団体戦で負けるのか、剣道ってそもそもなんなんだ・・・」 そんな思いがぐるぐると回る。武道の経験ゼロの親としては放心状態になりました。 もうなんだかよくわかりません。 僕も妻も「剣道辞めてバスケとか、他のスポーツやろうよ」と言ってしまうくらい混乱しました。 【1年生の時から始めた剣道】 息子は1年生の夏の厳しい時期から剣道を始めました。 先に辞めていく子供たちもいましたが、彼は辞めませんでした。 道場へ応援しに行く度に、同じ仲間に練習試合で負けたり、稽古が思うようにできずに彼が泣いている姿をみかけました。 それでも迎えに行くと「厳しかったけどがんばった」と話してくれました。 「パパとママが応援してくれるき、がんばれる」と言ってくれました。 ですから低学年の時は、なんとか時間を作って稽古を見に行きました。 そんな彼は、圧倒的な強さはありませんでしたが、個人戦では3位まで行ける実力になりました。 低学年チームでは県外でも優勝、準優勝を経験しています。 上等です。 大舞台でも、緊張せず、強い相手にひるまずぶつかっていく姿は、 僕ら親だけでなく、他の剣士の親の涙を誘う場面もありました。 試合になると、負けん気が強く、強い相手には燃える、漫画みたいな彼の剣道・・・。 そんな姿を見て「あいつがあんなに立ち向かってるんだ!俺たちもがんばろう!」と言ってくれる仲間たち。 そんな空気を作ってくれるのが我が子でした。 腕を骨折したとき、試合に出れず、悔しそうにして片手素振りやすり足の稽古に励んでいた時期もありました。 それを見た僕は「剣道が好きなんだな」率直に思いました。 しかし、そんな姿を見てきた先生はどう感じてくれていたのでしょうか…。 言葉少ない先生ですが、やはり聞くこともできずに悶々としておりました。
【采配の行方】
そして息子が補欠になったAチームはというと・・・ デビューの試合で、なんと決勝戦まで行き、「怪物」(これは良い意味で書いてますよ)が1本のみ取り、他は引き分けて優勝という結果に。 まんまと先生の采配は当たったのでした。 正直、僕は親として悔しかったのですが、結果は出てしまいました。 その後の試合も優勝なども含め、良い結果を残すことに・・・。 当然、補欠の息子は出番がなく、息子ともども、僕もただそれを見守るだけ。 彼はどんな思いでその試合をみてきたのでしょうか。 親としてはつらく。ただつらく彼を見守るだけです。 いままで補欠だった子供たちや親の気持ちを考えるといたたまれなくなり、余計に苦しくなる一方でした。 親のそういった気持ちとは裏腹に、息子の様子はというと・・・ 「なんで僕は補欠なんだろ、まあしょうがない」といいながらも休むことなく稽古に行っていました。 他の剣士たちに対しても「怪物君」に対しても、いままでと変わらずじゃれあっていて、一緒にいるのが楽しそうでした。 彼の良いところは、あまりくよくよしないということを発見しました(笑) しかしある日、心は「しょうがない」と思っている息子に異変が・・・ 体のあらゆる場所が「痛い」と言い出しました。 お腹であったり、頭であったり、腕や体の一部など、日々移り変わるように身体の異変を訴えだしたのです。 やはり、我慢強い子はどこかに負担が出るものです。 親が心配しているのも察しているのでしょう。 日々の稽古もAチーム主体となり、高学年の息子は低学年のお世話や稽古に回ることがストレスになったに違いありません。 それも「補欠」の役割なのはわかりますが、小学生にとっては精神的に負担だと思います。 「武道の精神は、小学生に必要なのか」 確かに乗り越えれば、次に大きな壁を乗り越えることができる大人に成長するでしょう。 それが目的だとは思います。 でも僕はそうは思いません。 自分は「武道」を知りませんが、いままで苦難を乗り越えてきました。 そういった方々のほうが多いでしょう。 小学生時代に「武道の精神」は必要なのかは、やはり疑問。 もっと遊んで勉強して・・・そんな時間を持たせるべきなんじゃないかと思うことがあり、 家族の時間の必要性も考えました。 そして、「補欠」の出番が重要ではない試合はキャンセルして、家族の時間を作りました。 旅行に行ったり、少し遠出して剣道から離れてみることにしたのは言うまでもありません。
【補欠、大舞台に立つ!】
そんなこんなで、出費する県外の試合はお断りしていました。 「家族の時間」を重視しました。
Aチームの日本武道館で開催の全国大会行は決まっていましたが、当然出番がないので東京行きを断りました。
全国大会への旅費が浮いたので、その分で家族で小旅行を数回し、実質資金もありません(笑) しかしその日は突然やってきました。
全国大会2日前…道場の先生からの電話。仕事中でしたが、びっくりして電話をとりました。
「全国大会に行ってもらいたいけんど…」 Aチームのキャプテン・Nくんが入院して、補欠だった息子が中堅に入ることになりました。
Nくんは数日前から高熱を出し、熱が引かずについに入院。 前々日には退院できましたが、竹刀を持てる状態ではないということ。
心配はしていましたが、まさかそこまでとは思いませんでした。 キャプテンでもある彼は、全国大会を目指してずっと頑張ってきました。 誰よりも全国大会を楽しみにしていた彼・・・そして息子の大親友。 出場できないのは本当に残念。 息子が出場できるのは思ってもみませんでした。しかしN家を思うと素直に喜べない… いや、まったく喜ぶことなどできない。
特にN君のお母さんは落ち込んでいるとのことを聞いていた。
予選すら参加できてないのに、いきなりの大舞台の召喚。
「代わりに出場しても負けてしまうのでは」 「そもそも旅費、ホテルや航空の予約は?」 「急な休みに!!」
複雑な思いのまま、「補欠の役割を果たさなくてはならない」と慌てて準備開始。
あいにく僕は仕事が月曜日に集中してしまっており、行けない。
妻も忙しかったが、なんとかなりそうだということ。 さ
っそく慌ただしく二人分の手配を済ませ、僕は大会前日の日曜日に飛行場まで送った。
暗雲立ち込める空港。 本当に僕も行きたかった…
「もし息子のせいで負けてしまったら申し訳が立たない」
なんとか一勝してほしいと願うばかりでした。
【全国大会】
そんな周囲のこと、親の思いも知らずか知ってか、息子は飛行機に乗ること、試合やその後の仲間と遊ぶことを楽しんでいたようです。
第一戦目の結果はいかに…
妻から送られてきた画像にドン引きする私…
すごい熱気の武道館!!)
会心の面返し胴!が決まった。
この1本はのちに本人にとっては思い出に残るはず・・・だと思います。
【剣道辞めようか?】
そして、あの日本武道館からの3ヶ月後…相変わらず息子は補欠、個人戦以外に出番はない。 先日の試合は朝一に個人戦がありましたが、優勝候補に当たってしまい敗退。 その後団体戦が始まり、Aチームは苦戦しながらもやはり優勝、しっかり結果を出す。 集合写真はみんな笑顔。息子は真顔。 優勝ではしゃぐ剣士たちの中には息子の姿はありません。 そそくさと帰り支度をしていました。 車中の帰り道「もう剣道やめようか」と妻が息子に話しかけました。 すると息子は「やめない」と即答したのです。 息子は続いて涙をこらえて話しだしました・・・。 「先生に無視されてる気がする…みんなにばかり厳しく教えていて、僕には教えてくれん。だけど、いつか教えて欲しいな。 続けていればいつか教えてくれるかもしれないし、チャンスが来て試合に出れるかもしれない。だから剣道はやめない」 口下手な息子がこんなにしっかりと自分の気持ちを話してくれたのは初めてでした。 運転していた僕は、前が見えなくなるくらい涙が出てしまい、 後部座席の妻は息子をギュッと抱き締めていました。
親としては6年生まではしっかり応援するしかないのです。 その後は剣道を続けるかどうかは自分で判断するでしょう。 「その日は突然やっくくる!」 息子はそう信じて自分の技術を磨いていくようです。
今回のことは、逆に親が勉強になりました。
日々、息子に教わるばかりですね 笑
あと、思うに補欠や控えでも、他のスポーツより大きな舞台、大会に出場できるのが剣道の強みだと感じました。