50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

その1:さざ波のように、穏やかに、少しずつ、、、

2014-11-30 08:55:09 | 小説
「鉤」(かぎ)

「会社へ行く」
英次の声が届いて。五月五日・・・早朝の苦労の、精が出るのとまじめに受ければもどかしい。妻も待つだろう、ダイニング・キッチンへ通うところで留まれば軒端が明るくて、雀がにぎやかにあれこれ嘲るようだ。それで小沢英次の父雄吉は皮肉る。今時舌切り雀のお宿はございません。雄吉は、今朝は艶々しい白髪の脳裏が冴えている。そう呟く頭は、朝駆けに読んだ、<地図>の謎解きが祟ったのであろう。休日を苦手であるが、英次の声はまた叫ぶようにそして利かない子供のように、
「会社へ行く」
といっている。雀は飛び去る。雄吉は廊下でふっと抵抗を感じながら難しく考える。苦手な休日は英次の正常なにぎわいを、何も久しく知らないから、その跳ね返りのようなのです。がしかしもとより優しい親心であって、隣家の青空を仰ぎ見ていた。妻妙子を真似た。紙切れに似る空を揶揄して見ると余裕が生まれる。妙子である。あの推理物は読ませてくれた。しかしとか呟くうちに、イツマデモココニコウシテ、イタイモノである。ダイニング・キッチンのドアがその背後に少し開いていた。

(つづく)