goo blog サービス終了のお知らせ 

タマリンドの樹のしたで

カンボジアの国境域で。甘酸っぱい果実をほおばりながら樹下で談笑。ありふれた日常からラオ人の・クメール人の生活を届けたい。

魚の発酵食品

2007年07月30日 | おいしい食材
東南アジアにおける魚の発酵食品についての今までの研究は、それらを日本の「ナレズシ」として言及してきていた。しかし「ナレズシ」と一口に言ってしまうと誤解を生むのではないかと思う。カンボジアには魚の発酵食品が豊富であり、地方や村によって材料も作り方も微妙に異なる。それに、東南アジアの食文化において魚醤の重要性が多く語られてきたが、カンボジアに来てみると魚醤はそれほど使われていないのだ。個別具体的な研究なしにはカンボジアにおける魚の発酵食品について簡単に論じることはできないと思うのだ。

ストゥン・トラエンにはプロホックをはじめ、なんといってもポォークの種類が多い。イメージをつかむために簡単に言えば、プロホックは小魚に塩(それから各地方ごとに異なる「エッセンス」を加える。これが重要!)を加えて長期保存して発酵させるもの、ポォークは魚を麹発酵させるものである。プロホックに匹敵するラオス語は「パ・デーク」だが、ポォークに関しては同じ意味の言葉がなく、個別的に「~魚」と名前がついている。たとえば「パ・ケム」は直訳すると塩辛い魚であるが、プロホックでもトライ・プロラッ(塩をまぶした魚)でもなく、ポォークの類に入る。「パ・ソム」は酸味の魚となるけれども、これもクメール語ではポォーク・チュー(酸っぱいポォーク)である。「パ・ケム・マカナッ」はパイナップルの塩辛い魚という意味だが、これはポォーク・マノァッで(パイナップルのポォーク)ある。「パ・ケム」と名前がついていても「パ・ケム」と「パ・ケム・マカナッ」は加える材料も見た目も味も全く異なる。

ラオ系クメール人の家庭では最低2種類以上の魚の発酵食品を自家保存している。ある日、友人の叔母の家に連れて行ってもらい、パ・ケム・マカナッを冷ご飯でいただいた。私が(パ・ケムに)関心深そうにしたのをみたのか、帰り際に「今度はプロホックを食べにいらっしゃいね! 」と彼女が叫んだ。それを聞いていた友人は家に帰ると「叔母さんったらさ、今日はパ・ケム・マカナッをだして、今度はプロホックを食べにこいってさ。いかれてるよ!」と笑いながら母に話していた。彼の言葉には、お客さんに向かってポォークやプロホックだけを出すなんて、という意味合いがこめられていた。プロホックやポォークは現地の人々にとっては「料理」とは捉えられていないようである。ある別の日の友人の母の言葉を思い出した。その日の夕刻には、ソムロー・マチュー(酸味スープ)、ポォーク・チョムホイ(ポォークに豚肉と家鴨卵を加えて蒸したもの)が並べられた。私は彼女の経済状況を案じて「こんなに作らないでいいのですよ。1品あれば十分ですよ。」と言った。すると彼女は「1品しかないじゃない。ソムロー。」と返したのだ。ポォーク・チョムホイはカウントされていなかった。

プロホックやポォークは「料理」のカテゴリーには組み入れられていないようだが、なければならないものでもある。日本でいう乾麺や缶詰のように「何もないときの救済食品」なのか、というとそうでもない。梅干や漬物のように「添え物」として出されるのか、というと、どうだろう。。プロホックやポォークの現地の人々にとっての位置は考えるに難しい。「プロホック(やポォーク)は自分でつくったのじゃないと美味しくない」と村人たちが口をそろえて言う、こだわりの一品でもある。

プロホックやポォークは、まるでそれが自分たちのアイデンティティであるかのように、他と比較しながら語られることが多い。「市場のプロホックは美味しくない」とか「タイのプロホックは美味しくない」であるとか…。しかし今回初めて、「クメールのプロホックは美味しくない」という言葉を耳にした。友人の母が台所でポォークに麹を混ぜている時のこと、「クメールのプロホックは美味しくない。塩を入れすぎて乾いて硬くなってしまってる。ラオのプロホックには米糠を入れて塩は適度だから美味しい。」と私に言ったのだ。たしかに、市場で売っているプロホックは魚の身が乾いてしまっているものが多い。しかし、彼女の言葉の前提には、「市場で売っている」プロホックしか、クメールのプロホックについての情報がなかったということがある。実際はというと、たとえばバンテアイ・ミエンチェイのクメール人の村人たちがつくるプロホックは、本当に美味しい。魚の身は乾いておらず、発酵特有の匂いも「いい香り」である。そこで作られるプロホックには、自分たちで作った米の粉を混ぜているのだ。彼女はこのことを知らなかった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿