オレンジ屋根のピエール

読書好きの覚書。(過去の日記は老後の楽しみ♪)

『五月三十五日』

2021-09-15 14:54:01 | 本と雑誌

『五月三十五日』(ケストナー少年文学全集⑤) エーリヒ・ケストナー 著 高橋健二 訳 (岩波書店)

タイトルがまず不思議。ありえないこのタイトルが、物語のすべてを表しているようだ。
コンラート少年は学校の先生から、算数ができるかわりに空想力が足りないので、宿題として南洋のことを作文に書いてくるように言われた。
彼には薬剤師をしている独身のリンゲルフートおじさんがいて、おじさんといっしょに南洋へと向かうことにした。
サーカスを首になったローラースケートを履いた馬といっしょに。
どうやって行ったかというと、おじさんの家にあるタンスの中に入っていったのだった。

ここで思い出すのが、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」である。
同じようにタンスの中に入って、別の世界で冒険するという部分がよく似ている。
「ナルニア」の最初のお話(ライオンと魔女)が1950年に出版されたが、こちらのお話はそれをさかのぼって1931年に出版されたという。
もしかしたら、ルイスがこのお話を参考にしたのかもしれないなと思った。

しかし物語は、「ナルニア」が危険をともなうはらはら・ドキドキの冒険譚であるのに対して、
「五月三十五日」はまるで「ドラえもん」みたいな世界。
子どもたちがどの時代でも考えそうな、「こうなったらいいな」とか「こういうのがあればいいな」というようなものが
たくさん詰まった、楽しい冒険物語である。

ありえないことが次々と起こる中、少年とおじさんと馬が驚いたり、楽しんだりしながら南洋をめざす。
ありえない事柄がありえないタイトルとリンクしているようでもある。

ケストナー自身が子どものことを研究し、そして子ども自身に寄り添い、どんなお話が好きかを熟知していたに違いない。
いろんな訳が出ているようだ。ぜひ低学年の子どもたちに読んで欲しい本だ。
(ごめんなさい、こちらの訳は少し時代が違いすぎて、現代の子どもたちには読みづらいかもしれないので・・・)